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「豪腕」か「報復」か? 現場の動揺は? 日本郵政の首脳部人事に異例の「政治介入」

   日本郵政グループの経営陣が2013年6月の株主総会で、ほぼ総取り替えとなる。日本郵政は5月22日の取締役会で、坂篤郎社長が退任し、東芝出身で政府の郵政民営化委員会委員長を務める西室泰三氏が新社長に就くほか、取締役18人のうち、ゆうちょ銀行社長兼務の井沢吉幸氏を除く17人が退任する人事案を決めた。民主党・国民新党色の一掃を図るもので、日本郵政の全株式を保有する政府の意向が強く働いた異例の人事だ。

新政権の発足直前人事に「非常識」と反発

   日本郵政の社長交代に加え、▽日本郵政会長の西岡喬氏(元三菱重工業会長)▽日本郵便会長の古川洽次氏(元三菱商事副社長)▽同社長の鍋倉真一氏(旧郵政省出身)▽ゆうちょ銀行会長の足立盛二郎(旧郵政省出身)▽かんぽ生命保険会長の山下泉(日銀出身)がそろって退く。日本郵便の新社長には高橋亨・日本郵政執行役副社長が就く。

   経営陣の全面刷新ともいえる今回の人事の直接的なきっかけは、昨年12月、当時の日本郵政社長、斎藤次郎氏の突然の退任発表。自民党政権誕生を目前に控え、自民党に何の説明もなく社長交代が発表された。

   斎藤氏は2009年10月、国民新党の後押しで就任したため、自公政権の退任圧力を受ける前に進退を決めたとの見方がある。ただ、斎藤氏が元大蔵次官、坂氏も旧大蔵省出身で、官僚OBが2代続くことに、官房長官就任が内定していた菅義偉氏ら、自民党から「非常識だ」と猛反発が起きた。その時はひとまず鎮静化したかに見えたが、菅官房長官らは6月の株主総会に向け、水面下で着々と話を進め、政府主導で坂氏を退任に追い込んだとされる。

   人事は坂氏だけでとどまらず、結果的に民主党政権時代に就いた取締役がほぼ一掃されることになった。日本郵政会長の後任は空席とし、新社長の西室氏に権限を集中させる。新たな社外取締役には、キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長、新日鉄住金の三村明夫取締役相談役、JXホールディングスの渡文明相談役、三菱地所の木村恵司会長ら7人が就任する。

好業績企業の経営陣を大株主が一掃

   政府関係者からは「日本郵政の斎藤前社長の交代の仕方があまりにまずかった」との指摘が多い。坂氏は橋本竜太郎首相秘書官のほか、小泉純一郎内閣時代に内閣府政策統括官、第1次安倍内閣時代には内閣官房副長官補も努め、自民党とのパイプは太く、安倍首相にも近いと目されていた。このため「斎藤氏の強引ともいえる交代劇さえなければ、盤石な坂体制の確立など違う展開になっていたのではないか」(政府関係者)との声もある。

   斉藤氏については反自民連立の細川護煕政権で小沢一郎新生党代表幹事(当時)と手を握って消費増税を仕掛けるなど自民党の恨みを買った過去がある。「斉藤氏は、嫌われ者の自身が身を引けば自民党の理解は得られると判断したのではないか」(財務省OB)との見方もあり、自民党政権への交代前に社長を替わった方が軋轢は少ないと思ったのかもしれない。しかし、読みは完全に外れ、裏目に出た格好だ。

   だが、「民営化した企業の人事に大きく関わるような政治介入は避けるべきではないか」(政府関係者)との批判も政権内外から聞こえる。経済界からも「株主(である政府)が直接、(人事案を)提言した形で、株主横暴との批判が出る可能性もある」(経団連の米倉弘昌会長)との声が出る。特に社外取締役を含めた「一掃人事」は、昨年末に坂社長昇格を認めた取締役全員に責任を取らせた形で、「菅長官による一種の報復人事」(霞が関筋)といった批判がくすぶる。

   日本郵政が発表した2013年3月期連結決算は、最終(当期)利益が前期比20.0%増の5627億円と2007年の民営化以来の最高益を確保。日本郵政関係者の中には「好業績を達成した企業の経営トップを簡単に交代させていいのか」との不信感も広がっている。

   新規業務をいかに拡大し収益を上げるかなど日本郵政が直面する課題が山積する中、「現場の混乱につながらなければいいが」(政府関係者)との懸念も漏れている。