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Jリーガーの超厳しい経済現実 現役時代は低年俸、再就職ままならない

   サッカー日本代表にまで選ばれた元Jリーガーが、妻への脅迫容疑で逮捕された。著名な元スター選手を巡るスキャンダルは、サッカー界に衝撃を与えた。

   引退後、サッカーにかかわる仕事を得ながらどこでつまずいたのか。Jリーガーの「第2の人生」はたびたび議論される。サッカージャーナリストは、再就職の厳しい現実を語った。

知人のお好み焼き屋を手伝いながら「第2の人生」模索

指導者を目指す元Jリーガーもいる
指導者を目指す元Jリーガーもいる

   元日本代表MF奥大介容疑者が逮捕されたのは2013年6月6日。妻で女優の佐伯日菜子さんに「今から殺しに行くから」と脅した疑いがもたれている。以前から妻へのドメスティックバイオレンス(DV)を繰り返していたのではないかとみられている。

   奥容疑者は現役時代、J1ジュビロ磐田や横浜Fマリノスで活躍し、代表に選ばれて「日の丸」を背負った、言わばサッカーエリートだ。2007年に現役を引退すると、以後はサッカースクールのコーチや高校のサッカー部監督を経験し、J2横浜FCで強化部長も務めていた。だが2012年12月に職を退いている。現時点で奥容疑者は容疑を否認。これに対して妻側からは、現役引退したころからDVが始まったとの証言が出ているという。

   6月10日放送の「モーニングバード!」(テレビ朝日系)では、強化部長の業務が選手に戦力外を通告する立場のため、周囲に「つらい」と漏らしていた、また最近になって地元の知人のお好み焼き屋を手伝いながら「第2の人生」へ歩み出していた形跡があった、などと報じた。

引退後の再就職で壁にぶつかるケースは少なくない

   一方、ノンフィクション作家の大泉実成氏が、サッカー選手の引退後について「『自分はスーパースターだ』とエゴが肥大して社会に溶け込めない、またサッカー以外何も分からない世間知らずの面がある」との問題点があると指摘した。

   引退後に収入が激減して精神的に追い詰められたのではないか、との報道もある。だが「フットボールレフェリージャーナル」を運営するサッカージャーナリスト、石井紘人氏に聞くと、奥容疑者のような代表クラスなら「現役時代、年俸数千万はもらっていたはず。引退してからもサッカーの仕事に就いていました」と指摘する。本人がその蓄えをどう使ったかは不明だが、引退後いきなり困窮したというのは不自然だろう。

   ただし石井氏は、Jリーガーの中には年俸が低い選手はおり、しかも引退後の再就職で壁にぶつかるケースは決して少なくないと説明する。

少年サッカーチーム「コーチ料」は月額十数万円程度

   筑波大学セカンドキャリアプロジェクトのウェブサイトに掲載されている、「Jリーグにみるセカンド・キャリア・サポート」という2012年の研究発表によると、毎年Jリーグから登録を抹消されるのは100人超で、7割は20代。引退時の平均年齢は25.6歳という。引退イコール「失職」となり、自力で再就職先を見つけなければならない。

   石井氏は、「現役時代に多くの選手が、指導者ライセンスの『C級』を取得しています。これは12歳以下の子供たちに教えられる資格です」と話す。実際に引退後に少年サッカーチームのコーチに就任するケースがある。「コーチ料」はまちまちだろうが、石井氏の推測では月額十数万円程度。単身者ならともかく、家族がいれば十分な金額とは言えない。サッカー番組の解説やチームのスタッフなど「仕事のパイ」は限られている。業界に残って生計を立てられる元選手は極めて少ないようだ。

   「最近、大卒のJリーガーが増えているんです」と石井氏。引退後、大学の人脈を生かして出身校のサッカー部や教員のポストを世話してもらえる可能性が高まるという。高校で名をはせた選手でも、親や周囲が「大学は出ておいた方がよい」と助言し、直接Jリーグ入りというケースが以前よりは少なくなっているそうだ。

J2 若手は「年俸1000万円が夢」

   Jリーガーにとっては引退後が不安なだけでなく、現役時代も高給が約束されているわけではない。石井氏は「J2チームはレギュラー選手でも『カツカツ』。J2の若手など『年俸1000万円が夢』と言うほどです」と明かす。J1でも「1億円プレーヤー」はごくわずか。代表クラスで6000~7000万円という選手がいるようだが、プロ野球・巨人の2012年シーズンの支配下選手平均年俸が6155万円(外国人選手、育成選手を除く)というから、収入レベルの差は歴然としている。運営費が低いJ2球団の選手の年俸は、推して知るべしだろう。

   現役時代もそれほど稼げず、引退後は「コネ」がなければ就職口が簡単に見つからない厳しい現実。Jリーグでは「キャリアサポートセンター」を2002年に設立、将来を見越して若手選手を対象に研修を開き、一般社会に適応する力をつけてもらおうと現役であるうちに支援している。だが石井氏は「現状をみると、どこまで効果が上がっているかは疑問」と首をひねる。