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高橋洋一の自民党ウォッチ
「超優良法人」国立印刷局の「埋蔵金」 安倍政権は「掘り出せる」のか

   2011年2月4日、当時野党であった自民党の菅原一秀氏は、衆院予算委員会で、枝野幸男官房長官の親族ら3人が財務省所管の財団法人「印刷朝陽会」の役員を務め、枝野氏に不透明な献金をしていたとして追及した。印刷朝陽会のトップは大蔵省キャリアの天下りで、独立行政法人・国立印刷局と深い関係なのは、霞ヶ関の情報通なら周知の事実だ。

   これは野党自民党のクリーンヒットだった。そもそも民主党の目玉であった事業仕分けの会場は、印刷局の施設だった。事業仕分けでも、印刷局は解体どころか焼け太りになって、事情仕分けの弱点になった。

業務は、紙幣製造や証券・切手製造、官報印刷など

   その印刷局であるが、財務諸表をみたらビックリするほどの「超優良企業」である。もちろんこれが民間企業なら立派なものであるが、独立行政法人なので首を傾げてしまう。

   印刷局の業務は、紙幣製造や証券・切手製造、官報・予算書印刷などである。紙幣製造は印刷局が儲かると早合点するが、儲けるのは日銀である。1万円札でいえば製造原価は20円ほどなので、1万円当たり9980円ほど日銀は儲ける。このため、日銀から国へは多額の国庫納付金が収められる。

   印刷の技術はたしかなものだが、売上625億円で営業利益77億円だ(2011年度)。これを4300人の職員でたたき出すのだから驚く。国会で異常に多い印刷物は印刷局の営業に大きく貢献している。

   そのバランスシートは凄い。流動資産791億円のうち現預金・有価証券がなんと587億円。固定資産2446億円のうち土地1728億円、預金・有価証券130億円。他方、流動負債は102億円。固定負債841億円のうち退職給与引当金822億円。全くの無借金経営だ。以上、資産合計3238億円、負債合計943億円で、その差の純資産合計は2295億円と、民間企業ならうらやむような「超優良企業」である。

どうする自民党、「お手並み拝見」

   特殊法人等の政府の子会社は、ボロボロで税金食いというイメージでテレビなどで紹介されることが多い。税金食いは正しいが、必要以上に税金を食ったり、税金投入なしでも独占的な恵まれた立場で商売をしたりするので、財務体質はとてもいい。この印刷局のようにむしろよすぎるくらいだ。政府の子会社の財務体質がいいのは、官僚が天下りに備えているためだと筆者は睨んでいる。実際、印刷局も財務省ファミリーからの天下りで役員が構成されているし、その親密先にも天下りがいる。そうした天下りの米びつが優良な財務体質になっている。

   公開されている財務諸表の細部を見るともっと興味深いことが見つかる。例えば、退職給与引当金だ。4300人で822億円。単純計算で一人当たり1911万円だ。民間大手の凸版の連結財務諸表をみると、従業員数4万7872人で、464億円。一人当たり97万円。ちょっと桁違いなので、何かの計算間違いかと思ってしまう。

   民主党政権では、この印刷局から「埋蔵金」を「掘り出す」のではなく、再び国に吸収して国の一部門にして「埋め直す」という方針だった。まさに公務員天国の発想だ。

   野党時代に鋭いところを突いた自民党が、政権の座についてどうするのか。お手並み拝見としよう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。