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ネット暴露で新聞に読者投稿できない時代? 「言論の封殺」朝日主張には疑問の声も

   投書欄の投稿者がネットで個人情報を晒され、電話で脅されたなどとして、朝日新聞が「言論の封殺」だと紙面上で批判している。しかし、ネット上では、実名にこだわる投書欄のあり方などに疑問の声が出ている。

「本紙投稿者に嫌がらせ ネットに無断で住所・電話番号」

   朝日新聞の主張を載せた記事は、こんな見出しで2013年6月28日付朝刊の社会面トップに大きく報じられた。

個人情報を晒され、電話で脅された

   記事によると、朝日の投書欄「声」に投稿した読者らの個人情報がネット上で晒され、電話で脅されるなどの被害が出ていることを朝日側は12年秋につかんだ。声欄では、投稿者の実名のほか、住んでいる地域、職業、年齢が書かれているが、ネットの掲示板やブログで、紙面にはない詳しい住所や電話番号が晒されるケースが13年春ごろから増えた。

   6月までに少なくとも30人分が晒され、朝日の聞き取り調査で、14人が被害に遭った。うち2人には郵便物が送られてきた。ある男性は、投書で憲法9条を守りたいと訴えたところ、男の声でとがめる電話があり、「お前の家は分かっているぞ」と脅されたという。

   これに対し、記事では、個人情報の書き込みを載せたブログの運営会社に削除要請を26日にしたことを明らかにした。電話番号などはネットの電話帳で調べたとみられるという。さらに、声欄の編集長名で、こうした嫌がらせ行為は、卑劣であり、言論の封殺につながりかねないと訴えた。編集部内にチームを作って今後は対応し、削除要請などをしていくというが、実名などは責任ある意見表明のためにも必要だと主張している。

   ネット上の情報をJ-CASTニュースが調べると、声欄の投稿者は、2ちゃんねるのスレッドで12年秋ごろに個人情報をさらされる書き込みが相次ぎ、騒ぎになっていたことが分かった。

「新聞社の姿勢が時代遅れ」「匿名でも良いんでは」

   例えば、当時の野田佳彦首相が自民党の安倍晋三総裁について過去に政権を投げ出したと衆院選の街頭演説で批判したという2012年12月の記事の2ちゃんスレだ。そこでは、声欄の投書がそのまま転載されるとともに、投稿者の詳しい住所や電話番号が晒されていた。

   この投書の投稿者は、12年10月に安倍氏の改憲姿勢に疑問を投げかける内容を書いており、朝日が今回の記事で挙げた被害者の1人だとみられる。投稿者には数日後に自宅に電話があり、無言が続いた後に「売国奴」と罵られたという。とすると、その時点ですでに個人情報が晒されていたことになる。

   その後も、2ちゃんでほかの投稿者数人の個人情報もさらされ、12月の別のスレでは逆に、同じ人物とみられる書き込み主に対する批判が相次いだ。

   「こええ こういう奴が表現の自由を奪ってるんだなって」「一体なに考えてさらしてんだろうな」「これはどこに通報すればいいんだ?」…

   さらに、2ちゃんまとめブログにも、個人情報を載せたまま転載しているケースが次々に見つかり、このスレで批判が集まった。「これでスレたてて被害者にアフィブロガーを訴えさせよう」「朝日に通報したら記事化&警察沙汰にして名前晒してくれるんじゃないか」といった動きにもなった。

   つまり、個人情報を晒す行為については、ネット上でも批判する声が当時から出ていたわけだ。こうしたことから、必ずしもネットに自浄作用がないとは言えないことになる。また、ネットの電話帳は、そもそもNTTのものから書き写したとみられており、問題があるとすればまずそこにあることになりそうだ。

   今回の朝日記事に対しては、ネット上では、「実名投稿が危うくなるなぁ」「個人攻撃じゃなく反論を投稿すればいいのに」と共感する声はある。しかし、「何でもかんでも実名を掲載すれば良いというものではない。新聞社の姿勢が時代遅れ」「匿名でも良いんでは」との声も上がっていた。

   このままでは投書欄を止めざるをえなくなったり、匿名に切り替える必要が出てきたりしないのか。これらの点について、朝日新聞社の広報部に取材すると、「この問題については、当該記事で詳細に報じた通りです。読者にお伝えした以上の事については公表していません」などとコメントするだけだった。