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アレバとキュリオンは結局「役立たず」 汚染除去の本命東芝製「アルプス」はいつ稼働

   「汚染水による影響は福島第1原発港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされている」。国際オリンピック委員会(IOC)総会における安倍晋三首相のメッセージが、2020年の東京五輪決定への流れを引き寄せた。

   しかし、汚染水が今も増え続けているのは確かだ。海への流出や貯蔵場所の確保と、頭の痛い問題が残る。原発事故発生当初から懸念材料だった汚染水の処理は、現在どんな形で行われているのか。

アレバ、キュリオンの装置は今や「バックアップ用」

汚染水処理装置「アルプス」の吸着塔
汚染水処理装置「アルプス」の吸着塔

   放射性物質を含んだ汚染水は、東京電力福島第1原発の事故処理を進展させるうえで大きな壁となっている。事故発生時は、原子炉内の核燃料を冷やすために注水を続け、その分汚染水は増える一方だった。そこで東電は、汚染水からセシウムを吸着したのちに再び原子炉に循環させて冷却に利用する仕組みを取り入れた。最初に採用したのは、事故処理にノウハウのある仏アレバ社と米キュリオン社の装置だった。

   急ごしらえのシステムは、稼働時からトラブルの連続。当時の報道は、本格稼働初日から数時間後に不具合で停止し、その後何度も運転を中断したと伝えている。運転開始1か月後の稼働率は53%にとどまっていた。2012年11月29日付の日本経済新聞電子版記事は当時の様子を、「汚染水には溶けた核燃料に津波の海水が混じり、さびや油、魚までが浮いていた」と描写している。さまざまな障害物が、本来のセシウム除去という目的を邪魔していたようだ。

   このため新たに導入されたのが、東芝を中心に開発された新装置「サリー」だ。東芝のウェブサイトによると、2011年10月から主力装置として稼働を始めたという。東電広報部に取材したところ「現在でも、サリーが汚染水処理のメーン」と説明する。一方でアレバとキュリオンの装置は、サリーの「バックアップ用」として残っている。実際にキュリオン製のものは、今もたびたび作動している。アレバ製は動いていないようだが、はっきりと「使用停止」が宣言されたわけではないようだ。ただ緊急事態だったとはいえ、一説には「60億円」とも言われるアレバの装置には、費用対効果の面で疑問の声が上がる。

   さらなる処理能力アップのため、「サリー」に加えて東芝の「アルプス」という「多核種除去設備」も開発された。2013年3月29日付の東電の発表資料を見ると、サリーは主にセシウム除去が目的だが、アルプスの場合は62種類の放射性物質を取り除けるという。2013年9月以降の本格稼働という工程表も、資料の中で明らかにされていた。

トリチウム以外の62種類を除去

   ところが東電広報に聞くと、「アルプスの本格稼働時期は未定」だという。2012年8月下旬から試験稼働していたが、2013年6月に装置の処理タンクから水滴がたれた跡が見つかった。溶接部分の一部変色も認められ、アルプスは運転を停止し、原因究明のための調査が現在も行われている。

   アルプスへの期待は大きい。放射性物質のうち、トリチウム以外の62種類を基準値以下にまで除去できるためだ。日本原子力学会の事故調査委員会は9月2日に発表した最終報告書の中で、汚染水処理の対応として、トリチウムの濃度を十分薄めた後で海に放出する案を提示した。生態系での蓄積の影響が比較的小さいので環境リスクが抑えられるのに加えて、希釈排出の技術的な確実性が高いためだ。もちろんさまざまな議論はあるだろうが、国内外の理解を得られたうえで放出できた場合、汚染水を一気に減らせるめどがつき、問題解決に向けて前進するだろう。茂木敏充経済産業相は8月29日、アルプスの増設に国費を投じて9月中にも本格稼働を目指す考えを示した。

   現状は厳しい。毎日1000トンほどの地下水が1~4号機周辺に流れ込み、海に1日約300トンの汚染水が流出した可能性を、経産省が8月7日に示唆した。さらに地上の貯蔵タンクから汚染水が漏れていたと東電が発表、土壌にしみ込んで地下水に到達した恐れも出てきた。タンクそのものの劣化も懸念される。

   汚染水処理装置で問題のすべてが解決するわけではないが、少なくともアルプスが本格稼働しない限り現状打破への一歩は踏み出せない。安倍首相はIOC総会で「状況はコントロールされている……抜本解決に向けたプログラムを私が責任をもって決定し、すでに着手している」と世界に向けて発信した。「公約」した以上、事態打開のための方策の実施は待ったなしとなっている。