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半沢直樹の「出向」は左遷、降格? 銀行に戻って役員になる可能性はないのか

   最終回の平均視聴率で関東地区42.2%、関西地区45.5%をたたき出した怪物ドラマ「半沢直樹」(TBS系)。そのラストシーンが、視聴者の間で話題となった。

   銀行内の不正に切り込んだ半沢を待っていたのが、子会社への出向命令だったからだ。ドラマの中で「出向」はあまりよいイメージで描かれなかったため、意外な結末だとの驚きが少なくない。

「一回休み」的な待避ポスト、「副部長待遇」の昇格人事

「半沢直樹次長、営業企画部部長職として東京セントラル証券への出向を命じる」

   頭取からこう告げられると、半沢を演じる堺雅人さんの目元がアップになり、そのままエンディングを迎えた。フェイスブックに開設された番組のページには「モヤモヤが残る」「出向はおかしい」「続きが気になる」と多くのコメントが寄せられた。

   ドラマ最終回では、途中にこんなシーンがあった。仇敵である大和田常務が半沢を遠ざけるため出向を画策、部下からの報告に「東京セントラル、ああ、子会社のね。あそこはいいねえ、小さいし」とほくそ笑む。子会社を見下した態度だ。ドラマなので多少過剰な演出はあるだろうが、このように出向を「左遷」「追い出し先」との印象を与える場面はシリーズ中たびたび登場した。銀行を私物化した「悪の常務」をやっつけた半沢が受けた辞令が出向だったのだから、ハッピーエンドとは言えないだろう。

   現実の世界でも出向とは、銀行員にとって出世コースを外れることを意味するのか。興味深い考察をブログで示したのは、銀行の支店長経験をもつ「スタジオ02」社長の大関暁夫氏だ。ドラマでは「片道切符の悪いモノ」と描かれているが、「現実は必ずしもそうではなく、『一回休み』的な待避ポストとしての外部出向も存在します」と説明する。子会社である証券会社という行先については、「銀行業法上本体では取り扱えない金融業務を身につける場でもあり、将来の役員候補に対する教育的出向であると理解できる」、また「営業企画部部長職」という待遇も、銀行本体であれば副部長にあたり、次長だった半沢にとっては「昇格人事」との考えだ。さらに外部出向で昇格人事は「片道切符」ではあり得ない、つまり数年後には銀行に戻ってくると指摘する。要するに半沢は、常務に土下座させて「100倍返し」に成功したうえ昇進をも勝ち取り、役員候補にも名乗りを上げたというこの上ない「大勝利」だったことになろう。

大半は50歳前後に「片道切符」で取引先や子会社へ

   現役銀行員からは、出向は決して「左遷」ではないとの反発が出ているようだ。「週刊プレイボーイ」9月30日号には、「役員になる一部の人間を除くほとんどの人間がいずれは出向する運命。特別なことではないのにドラマの中では『出向=地獄行き』のように描かれてしまっているのに腹が立つ」との行員のぼやきが載っている。

   実際、銀行での出向は珍しいことではないようだ。「週刊ダイヤモンド」9月21日号の特集記事によると、銀行では50歳ごろに同期トップが役員に就任すると、他の同期が銀行本体から出ていくことが業界の慣例になっている、という。大半の銀行員は40代後半から52歳ごろまでに取引先や銀行の子会社に「片道切符」で出向させられるそうだ。

   しかもバブル経済当時と比べて大手銀行の数は大きく減った。メガバンク各行は、統合によって大勢の「バブル入行組」を抱える一方、彼らのポストも激減している。今のままでは、50代に差し掛かりつつあるこの世代の出向先が足りなくなる、との懸念もあるという。

   ドラマの原作となった池井戸潤氏の小説「オレたちバブル入行組」には、半沢が就職活動で内定を勝ち取ったのは1988年となっており、入行は89年との設定になる。こうなると2013年時点での年齢は46、7歳あたりといったところか。前出の大関氏の「推論」を当てはめると、一般的な出向とは別扱いで、外で数年間「修行」したのちに本体へ舞い戻り、同期の中で真っ先に役員の椅子を勝ち取るというシナリオがあり得そうだ。

   半面、取締役会で常務を土下座までさせた半沢は「危険人物」であり、これまでも敵対する上司や同僚に「倍返し」を続けてきた所業が「人事ファイル」に書き込まれているだろうと指摘する。こうなると、「現職役員が推薦方式で候補を選出しトップが最終判断する取締役への昇格は難しいのではないか」。すると役員や頭取の道は断たれ、部長職で銀行員人生を終えることになる――。

   架空の世界の人事とはいえ、これだけ大まじめに論じられるのも平成の民放ドラマで最高の視聴率を出した大ヒットゆえか。意味深なエンディングに、続編への期待は膨らんでおり、出向先での半沢の活躍を描くシリーズがテレビで見られる日は遠くないかもしれない。