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高橋洋一の自民党ウォッチ
暴力団融資「発覚」の裏に人事抗争か みずほ銀「旧3行」人事のドロドロ劇

   ドラマ「半沢直樹」では、銀行マンの実態が面白く語られていたが、みずほ銀行事件は「事実は小説より奇なり」ともいうべき展開だ。

   ドラマ中の「東京中央銀行」は「産業中央銀行」と「東京第一銀行」の合併銀行だが、みずほ銀行は、日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の合併銀行だ。

当初は「旧第一勧業銀行グループの不祥事」という印象

   筆者がかつて在籍したこともある総務省も、旧自治省、旧郵政省、旧行政管理庁が集まった省庁で、大臣秘書官も3つの出身母体から、人事課は事実上3つあって、意思疎通をするのにも大変だったが、旧自治省が大きかったので、実際上はそれほど困らなかった。

   しかし、みずほ銀行は、ほぼ対等な3銀行でスリートップだ。それをみずほ銀行とみずほコーポレート銀行という2つの銀行で回していくという曲芸のような金融機関だ。この(2013年)7月から、みずほコーポレート銀行が旧みずほ銀行を吸収合併し、みずほ銀行になった。しかも、みずほ銀行の佐藤康博頭取は、旧3行の背番号を外すという人事統合方針で、最近の人事を行ってきた。

   その矢先に、暴力団への融資問題が発覚した。12年末から検査に入っていた金融庁は、9月27日に業務改善命令を発動した。10月4日、金融庁に促されて記者会見を行ったが、「当時の法令順守の担当役員が情報を経営陣に上げていなかった」と説明し、情報は当時の副頭取止まりだったと強調した。その元頭取は旧第一勧業銀行出身で、しかも今回の問題は、第一勧業銀行系の信販会社であるオリコからの提携ローンであったので、あたかもみずほ銀行内の旧第一勧業銀行グループの不祥事という印象だった。この時点で、人事統合に伴う、旧第一勧業銀行切りなのかと正直言って思った。

メンツ丸つぶれの金融庁とバトルに

   ところが、わずか4日後の8日、初めて佐藤康博頭取が会見したが、その内容に驚いた。佐藤頭取のほかにも、塚本隆史前頭取、西堀利元頭取も知っていたというのだ。この歴代3頭取の出身は、佐藤頭取-旧興銀、塚本前頭取-旧第一勧銀、西堀元頭取-旧富士銀と銀行全体が組織ぐるみで行った可能性まで示唆される。

   これを先ほどの行内抗争の邪推を発展させると面白くなる。その伏線として、佐藤頭取が13年3月に行ったみずほグループ人事だ。なんと、旧富士銀行出身者を副社長・副頭取から一掃したのだ。これは当時の金融界でも話題だった。ここにきて、みずほグループでの人事統合は、旧興銀への一本化が明らかになった。

   9月の金融庁による業務改善命令の端緒は、銀行関係者からの金融庁へのたれ込みだろう。筆者の金融検査官の時の経験でも、人事が揺れているときはよくある話だからだ。ひょっとしたら現佐藤体制への矢だったかもしれないが、現佐藤体制はそれを対外発表で旧第一勧業銀行の問題と片付けた。それに対して、金融庁の激怒を誘発するような二の矢が放たれて、みずほ銀行全体の問題として現体制は総入れ替えを余儀なくされる。こんな邪推が働く。

   金融庁は9月27日に一度下した業務改善命令の根底が覆ってしまったのだから、メンツ丸つぶれだ。金融庁は10月9日、同庁に報告した内容が事実と異なっていたところに関し銀行法に基づく報告徴求命令を出した。これから金融庁とみずほ銀行のバトルが始まるだろう。

   ドラマ「半沢直樹」を見た後なので、こんな妄想をつい抱いてしまうような、みずほ銀行問題の急展開である。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。