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自分で要請して、今度は「特別扱いいかがなものか」 吉野家「特別牛重」巡る議員たちの「いいかげん」

   国会内に開店したばかりの吉野家に登場した特別メニューに「もの言い」がついた。

   「特別メニューが国会内でしか食べられないのはおかしい」といった声だが、そもそもこのメニューは、国会側の求めに応じて開発されたもの。

   議員経験者からは「選択の自由」「もっと違うことに気合を入れましょう」といった冷ややかな声も出ている。

地元有権者から「連れて行ってほしい」「国会限定メニューはおかしい」の声

特別メニュー「牛重」は連日「完売御礼」だ
特別メニュー「牛重」は連日「完売御礼」だ

   店舗は2013年10月11日に開店。この店でしか食べられない「牛重」が目玉で、国産和牛の肩ロース肉110グラムをすき焼きの様に焼いてご飯の上に乗せているのが特徴だ。お新香とみそ汁付きで1200円。米国産牛肉を使用した牛丼(280円)の4倍以上だ。この店舗に行くためには通行証が必要で、国会議員や国会職員、報道関係者などの利用を想定している。一般の見学者は見学ルートから外れているため行くことはできない。

   この「牛重」をめぐり、国会内で異論が出た。10月15日の衆院議院運営委員会理事会後、平沢勝栄理事が「地元の有権者から『連れて行ってほしい』と要望を受けた」「『国会だけで食べられるメニューがあるのはおかしい』という指摘があった」などと明かすと、他会派も同調。経緯を調べることになった。平沢氏は報道陣に対しても、

「国会だけが、なんか特別扱いされているような印象を国民の皆様に与えているのではないか」
「ぜひこのメニューを(他の店でも)出してもらいたい。それはあくまでも吉野家さんのご判断でやってもらいたい。国会がそういうことについて言うことではないんですよ、これは」

と話した。

農水委員会で「国会バージョンで国産の牛肉も使っていただけるような形に」と注文

国会内の吉野家店舗。カウンター席14席を備える
国会内の吉野家店舗。カウンター席14席を備える

   だが、吉野家によると、「牛重」は、衆院からの「普通の吉野家にはない『お値打ち感』のあるものを」というリクエストに応じて開発されたものだ。6月19日の衆院農林水産委員会では、メニューの内容について突っ込んだやり取りも行われている。日本維新の会の村岡敏英衆院議員が、

「農林大臣として、国産の牛肉、国産の米を勧めている。それが(米国産の牛肉を使っている吉野家が)国会の中のそこに入ってくる。このことに関してはどう思われるか」

と吉野家の出店に疑問を呈したのに対して、林芳正農水相が

「国産の農産物をできるだけ活用していただきたい」

と答弁。長島忠美政務官は、さらに踏み込んだ。

「できれば、国会バージョンで国産の牛肉も使っていただけるような形にできればありがたい」

   「牛重」は、このやりとりを踏まえて開発された。割高な国産牛を使用した上に、1店舗でしか販売しない分コストも上がる。その結果の1200円という価格設定だとみられる。そのため、吉野家にとって「牛重」を他店舗で展開することは合理的ではないとみられ、吉野家の広報担当者は他店舗での展開を否定している。

   また、この委員会でのやり取りによると、吉野家の出店は最終的には議運の理事が検討して決めている。平沢氏は議運理事のひとりで、自らの決定を批判していることにもなりかねない。

舛添氏「もっと大事なこと議論してほしい。国会でめし食ったことないんじゃないか」

   一連のやり取りについては、冷ややかな声が多い。元首相補佐官の寺田学氏は、

「『国会だけで食べられるのはおかしい』っていう批判を真に受ける議員。もっと違うことに気合を入れましょう」

とツイート。前参院議員の舛添要一氏も、10月15日夕方にTBSで放送された「Nスタ」で

「(TPPで)『聖域守らんといかん』とか言って、農業族が非常に強い訳ですよ。そこに媚びを売ったなあ。こういうのは選択の自由で、勝手に企業がやる。平沢さん、そんなことよりもっと大事なこと議論してほしいんだけど。国会でめし食ったことないんじゃないか?私は国会の食堂で食べるとね、『もっとメニュー増やしてくれないか』(と思う)。高くてね、数が少ないんですよ。外で食った方がよっぽどいい」

と、批判は妥当ではないとの見方だ。また、10月16日昼にテレビ朝日で放送された「ワイド!スクランブル」では、コメンテーターの川村晃司氏は、

「私もちょっとのぞいたんですけど、1200円の牛重は『完売御礼』。国会議員は相変わらず景気がいいのか懐具合がいい。しかしそれが、末端の雇用までいくかなぁ、と思いました」

と皮肉っていた。

   実際に国会内の吉野家を訪れるのは国会職員や報道関係者がほとんどで、国会議員を目にすることは少ない。だが、秘書とみられる人が多数テイクアウトを注文する列に並んでおり、テイクアウトで「牛重」を味わっている議員も多いとみられる。「牛丼18個」「牛重8個」といった大量注文もあった。10月15日と16日に取材した限りでは、列の最後尾からカウンター席にたどり着くまでに15分以上かかった。盛況なのは間違いないようだ。

   菅義偉官房長官は10月15日夕方の会見で、記者から

「政府として、この件をどう収拾するのか」

と聞かれ、

「なかなか難しい問題。国会よりはるかに難しいんじゃないかなぁと思いますけれども…。いずれにせよ、国会の中で『国産牛というものはあってもいいんじゃないか』と思っても不思議ではないと思う。外国産だけではなくて、そうした(国産の)ものが両方あって、(牛丼と牛重では)価格がかなり違うようですから…。そういう意味で、結果的には吉野家さんが自分の判断で決められたことなんだろうと思います」

といい、苦しい説明に終始した。