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エイズ検査目的の献血、輸血感染 過失致傷罪に問われる可能性

   輸血を通じてエイズウイルス(HIV)に感染した問題で、献血者がエイズ検査目的だった疑いが出ている。この場合、献血者が罪に問われる可能性があるというのだ。

   報道などによると、40代男性は、2013年2月に献血したが、その2週間前に同性と性的行為をしていたという。しかし、献血時には、医師の問診票にこの半年で男性同士の性的接触はなかったなどとウソの申告をしたとされた。

「感染の可能性を認識していた落ち度がある」

   感染後1か月半ほどは、血中のウイルス量が少ない空白期間とされる。その結果、男性は献血時に感染していたものの、日本赤十字社の検査をすり抜けてしまった。11月上旬の再度の献血で、男性のHIV感染が分かったが、すでに2月の献血が2人の輸血に回されていた。そして、26日になって、慢性の消化器疾患にかかっている60代男性が感染していることが分かった。

   男性が献血したのは、実際には感染が通知されないにもかかわらず、それを期待した検査目的だった疑いがあるとされている。

   HIVに感染すれば、発症しないよう薬を飲み続けなければいけない。ネット上では、感染の可能性がありながら献血した男性に対し、「検査目的で献血するのを処罰しろよ」「献血した奴に損害賠償請求しないと」「法整備が必要だよね・・・」と厳しい声が相次いでいる。

   献血者の男性は、現行法で何らかの罪に問うことはできるのだろうか。

   板倉宏日大名誉教授(刑法)は、「過失致傷罪にはなると思う」と指摘する。

「もしかしたらエイズかもしれないと、感染の可能性を認識していた落ち度があるからです。刑事告訴は、輸血で感染してしまった人がすることになるでしょう」

   故意とはみなされないため、傷害や威力業務妨害などの罪に問うのは難しいという。

刑事罰適用はこれまでなく、「法整備が必要」

   ただ、献血によるHIV感染で、刑事罰に問われたケースはこれまでにない。問診票に虚偽申告をしたことそのものを罰する法律もなく、板倉宏氏は、「今後は、法整備も必要だと思います」と言っている。罰せられることになれば、虚偽申告をなくすことも期待できるようだ。

   海外では、オーストラリアが献血時に虚偽申告をした場合の刑事罰を導入している。厚労省の専門家検討会では、今回の問題が発覚した後に、こうした事例が紹介された。

   しかし、厚労省血液対策課では、罰則については検討会で議論にはならなかったとした。議論したのは、虚偽申告すれば重大な結果を招くことを自覚してもらったり、保健所などのエイズ検査を受けやすくしたりするための方策についてだという。

   また、罰則については、検討している状況ではないとした。その理由については、「献血は基本的に善意でお願いしており、慎重に考えていく必要がある」からだと説明している。

   日本赤十字社でも、「献血はウソを疑う前提はなく、善意で協力してもらっている」(経営企画課)と言っており、罰則化で献血者が減ることを懸念している。また、献血は安全でないとの印象を与え、信頼を失ってしまう恐れもあるという。

   とはいえ、検査のすり抜けを完全に防止できる態勢ができていない以上、今後も罰則化が議論されることになりそうだ。