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「エビアン」あわや不買運動に 「天皇は中韓に謝罪せよ」発言、「勘違い」してネット大騒ぎ

   「エビアンの創立者が『天皇は中韓両国に謝罪せよ』って暴言吐いてるぞ!」――。2013年12月9日から、こんな情報がインターネット上で広がった。ソースとなっている日本のウェブサイトには、英紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」の記事要約が掲載され、署名をみてみると、筆者はジャン・ピエール・レーマン、「エビアン・グループ創立者」とある。

   エビアンと聞いて頭に浮かぶのは、フランスのミネラルウオーターだ。これを受け、血気盛んなネットユーザーたちは早速「よし不買運動だ!」「置いてるコンビニに苦情いれるわ」といきり立った。しかし、この「エビアン創立者」はとんだ「エビアン違い」だったのだ。

明仁天皇の謝罪により今にも続く戦争が終わる

一時、とばっちりを受けてしまったミネラルウオーター「エビアン」
一時、とばっちりを受けてしまったミネラルウオーター「エビアン」

   注目を集めている記事は12月8日、FTのWeb版にも掲載された。オリジナルの記事ではなく読者からのオピニオン記事で、中国の防空識別圏設定を問題視した「中国は第一次世界大戦当時のドイツと同じ過ちを犯すべきでない」というFTの記事(12月4日)を受けたものだ。読者のレーマン氏はこの記事に同意した上で寄稿、東アジアにおける戦後の文脈について言及する。その中で「東アジアでは第二次世界大戦は今も終わっていない」と断言し、その原因を日本の中韓両国に対する「鈍感さ、無神経さ」だと論じた。

   無神経さの一例としてあがっているのが従軍慰安婦の問題だ。レーマン氏は「日本は韓国を植民地化している間、特に第二次世界大戦中には約10万人ともいわれる韓国女性を軍の性奴隷とした。現在でも幾人かが生きているが、それでも日本は慈悲をみせない」と指摘する。安倍晋三首相については「ナショナリストであるだけでなく、時代遅れで弁解のない強硬派」と評す。また、日中関係については、安倍首相の祖父でA級戦犯となった岸信介元首相と、日中戦争時に抗日運動を主導していた習近平国家主席の父・習仲勲氏を照らし合わせ、「家族の確執が現在の日中関係に刺激を加えている」とも解説した。

   こうした事例から「日本は、戦争により生じた東アジアの亀裂を埋める第一歩を踏み出すべきだ」と主張するレーマン氏は、その役目を「明仁天皇」に託す。昭和天皇は敵国だった西欧主要国を公式訪問しているが、最も苦しんだ東アジアには一切行っていないとして、次のように語った。

「息子である明仁天皇がソウルの慰安婦像を訪れ謝罪し、中国の南京大虐殺記念館を訪れ、虐殺、拷問、強姦されて生き埋めにされた人たちに謝罪する。そうすれば第二次世界大戦が本当の意味で終わったと言えると同時に、21世紀における平和への道が徐々に開けてくるだろう」

※飲料水「エビアン」はダノン社のブランドです

   全体としては中韓の論調に近い内容となっているが、こうした論調の記事自体はそれほど珍しいものではない。ところが、インターネット上では記事の署名にくぎ付けとなった。そこには「ジャン・ピエール・レーマン エビアン・グループ創立者」と記されているではないか。末尾には「ローザンヌ、スイス」とも書いてある。ネット上では「エビアン」という部分がフランスのミネラルウオーター「エビアン」と結びつき、大騒ぎになった。

   「全力でいくか?拡散、そして苦情、不買いこうぜ!」「エビアン、許さないよ」「不味い上に喧嘩売るとかアホだろw」「この件がネットで拡散したらマジで日本ではエビアン終わるだろー」と盛り上がり、拡散されるにつれタイトルも「天皇は土下座外交せよ!」と大それたものに変わっていった。

   だが、これは大きな勘違いだ。このFTの記事を見つけて翻訳し、ネット民のソースとなっていた日本のウェブサイトでもその後、このことに気づいて訂正文を掲載しているが、エビアン・グループとエビアンは何の関係もない。そもそもエビアンはダノン社のブランドであるため、もしも創立者が記事を書くとすれば「ダノン・グループ創立者」となるだろう。

   では、当の筆者であるレーマン氏はどのような人物なのかというと、スイスのビジネススクール「経営開発国際研究所(IMD)」の教授であり、日本のメディアでも「東アジアをめぐる企業行動の専門家」「辛口の日本通」と紹介されている。「エビアン・グループ」は、レーマン氏が国際経済秩序の話し合いを目的に設立した機関だ。

   ネットでは、記事の内容は韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領による日本批判と同じ内容で、記事が出たタイミングもフランスを訪問したタイミング(11月)と一致するとの指摘もあった。「朴槿恵の『悪口』を鵜呑みか」と批判も相次いでいたが、レーマン氏は朴氏が大統領に就任する前から同様の主張を繰り返している。たとえば、12年9月には日米関係を論ずる記事の中では「日本はドイツと違い、隣国と平和な関係を築いていない」「アジアの中でも指導力のなさを示している。それは過去の残虐行為の反省を持っていないにも見える」「平和を築く努力を行い、開国すべきだ」などと発言していた。