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PV急成長の東洋経済オンライン 「トリチウム除去」記事削除巡りトラブル

   急速にページビューを伸ばしている東洋経済のウェブサイト「東洋経済オンライン」に掲載された記事が削除され、記事の著者がブログで怒りをぶちまけるという珍しい事態が起こっている。

   記事は、東京電力福島第1原発の汚染水問題の解決につながる可能性がある画期的な技術が開発されたとする内容だが、ネット上では記事の信ぴょう性を疑う声が相次いでいた。編集部側は記事削除の理由について「裏付け取材が必ずしも十分ではない」と説明しているが、筆者は「(技術を開発した)A社が存在することは事実であり、かつその開発した最新技術が存在することもまた事実」と主張している。

トリチウム除去できないことが汚染水問題のネック

   問題となっているのは、2014年1月7日に「福島原発から、トリチウム汚染水が消える日」と題して掲載された記事。著者は、元外交官で国際情報戦略研究所所長の原田武夫氏で、原田氏は東洋経済オンラインに連載を持っている。記事では、神奈川県南部にあるベンチャー企業A社が、放射性物質の「トリチウム」を含んだ水を完全無害化して水素ガス化する技術を開発したとしている。1月14日には「有名国立大学」で、この技術に関する「『公的認証』の第一歩としての実験」を行う予定もあるとした。

   東京電力福島第1原発で増え続ける汚染水は、既存技術でセシウムの除去は可能だが、トリチウムは除去できないことが知られている。そのため、トリチウムへの対応が汚染水処理のネックになっている。このことから、記事では

「2014年1月14日。 この日を境に『フクイチ』が変わり、東京電力、さらには我が国、そして世界が変わる。その歴史的な瞬間は、もう間もなくである」

と期待を込めていた。

   だが、掲載直後から、ネット上では記事の信ぴょう性に疑問を投げかける声が相次いでいた。このことが影響したのか、1月10日には、東洋経済オンラインは佐々木紀彦編集長名で、

「現時点でA社の社名や上記技術の科学的根拠等についての裏付け取材が必ずしも十分ではなく、1月14日の時点でも、客観的に見て、上記汚染水問題が解決に向かうかどうかについては不明確なことが判明いたしました」

とする謝罪コメントを発表した。

ベンチャー企業の名前は「関係者との紳士協定により現段階で明かすことが出来ない」

   原田氏側の反応は素早かった。同日中にブログが更新され、問題の原稿が掲載されるまでには編集部側と通常のやり取りをしており、「その間、同編集部からは掲載の可否について事前に一切のコメントは無かった」ことから、編集部側の「一方的な指摘には全くあたらないものと考える」と主張した。

   また、翌1月11日のブログによると、実験はA社以外の関係者の都合で延期になったというが、

「実施は『無期延期』ではなく、『日程調整』をあらためて行っているに過ぎない」

として、プロジェクトは引き続き行われていることを強調した。東洋経済オンライン編集部の発表では「本記事の掲載を中止」とあるのみだが、東洋経済新報社の広報担当者によると、連載そのものも打ち切られた。編集部は原田氏と直接面談して記事の根拠を問いただした上で、連載打ち切りと謝罪コメント掲載の考えを伝えたという。原田氏側は打ち切りの決定に対して、陰謀論ととれる議論まで展開している。

「彼らは一体、何を隠そうとしているのか。何が『不都合な真実』なのか」

   ただ、肝心のベンチャー企業A社と、実験が行われることになっている「有名国立大学」の名前については、

「関係者との紳士協定により現段階で明かすことが出来ないことは心苦しい限り」

と記載があるのみで、発明の真偽を第三者が客観的に検証することはできない。

リニューアルでウェブオリジナルの記事増える

   東洋経済オンラインの媒体資料によると、12年11年に大幅リニューアルした時点での読者(ユニークユーザー、UU)は200万人、ページビュー(PV)は1500万に満たなかったが、13年10月には約547万人、約4053万PVにまで伸びている。

   1895年創刊の紙媒体は、13年上期の部数が64813部(日本ABC協会調べ)。5年前の89842部から比べると17.9%も減少しており、ウェブサイトの成長で紙媒体の部数減少を少しでも埋め合わせる狙いがあるとみられる。

   ウェブサイトリニューアルの目玉のひとつが、紙媒体に載っていない記事を大幅に増やしたことだ。ただ、その中には「紙媒体と比べて内容が柔らかすぎ、ブランドを傷つける」「(見出しと記事の内容が一致しない)釣り見出し」といった指摘を受ける記事も少なくなかった。そうした中での今回の「ガセネタ騒動」だった。