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メダル逃した選手は税金泥棒なのか 強化費不足の中「メダル取れ」は選手に酷、為末大が異議唱える

   ソチ五輪に挑む日本人選手にエールが送られる中、結果を残せなかった選手への厳しい意見も目立つようになってきた。多くは選手の「国費」に着目したもので、「メダルを取れない選手は税金泥棒」といった批判まで出ている。

   こうした風潮に元陸上日本代表の為末大さん(35)が2014年2月11日付の日刊スポーツで異議を唱えた。国費が使われる「強化費」に焦点を当て、「(日本は)強化費を発表している国の中では最も低い」などと現状を指摘した上で、「『お金はないがメダルは取れ』は少々、選手に酷な状況」と話す。

「税金使って観光旅行かよ」「遊びに来たの?」

記事が話題になっている為末大さん(2013年10月撮影)
記事が話題になっている為末大さん(2013年10月撮影)

   2014年2月11日(日本時間12日未明)、スノーボード男子ハーフパイプで平野歩夢選手が銀メダル、平岡卓選手が銅メダルを獲得し、日本勢に初のメダルがもたらされた。さらに翌日にはノルディックスキー複合の個人ノーマルヒルで、渡部暁斗選手が銀メダルを獲得。連日の快挙に日本中が賑わった。一方でメダル獲得に至らず、悔しい思いをする選手もいた。フリースタイルスキー女子モーグルの上村愛子選手、ジャンプ女子ノーマルヒルの高梨沙羅選手は惜しくも4位となり、表彰台にあと一歩届かなかった。

   良くも悪くも前評判や予想どおりの結果にならないのが五輪観戦の楽しさなのだが、選手に国費が使われている以上「好成績を残すべき」「負けたら『楽しかった』とコメントすべきではない」と主張する人たちも少なからずいる。2月8日には明治天皇の玄孫である竹田恒泰氏が「オリンピックで負けた時のコメントは難しい。(中略)思い出になったとか、楽しかったなどはあり得ない」とした上で、「日本は国費を使って選手を送り出してます。選手個人の思い出づくりのために選手を出しているわけではありません」などとツイッター上で発言し、波紋を広げた。

   竹田氏以外にも、ネット上では「遊びに来たの?」「まず、メダル取れなくてすみませんだろ?」「税金使って観光旅行かよ」「オリンピック行ってメダル取れない奴は税金泥棒」「勝てない、品がないスポーツ選手に税金投入ってどうなの」といった負けた選手に対する発言が数多く投稿されている。

結果不振選手の批判はブラック企業の論理?

   こうした論調に、為末大さんが日刊スポーツの記事で違和感を示した。為末さんは「選手の強化費は国費から出ているものだから、当然選手は結果を出すべき」との批判に焦点をあて、日本の強化費の現状を説明する。

   今日の日本では、サポート態勢は十分ではなく、強化費も発表している国の中で最も低いと指摘する。実際、日本の強化費の少なさは以前から注目されており、たとえば、報道されている北京五輪(08年)の年間強化費をみてみると、ドイツ274億円、米国165億円、中国120億円、英120億円などに対して、日本はわずか25億円程度だ。

   為末さんはメダル獲得に不利な状況にいる中で「選手たちは努力していると言えるのではないか」と評価し、同時に、そうした状況下で個々にメダルという結果を求める風潮を「選手に酷な状況」と危惧する。これは「足りないリソース(資源)を気持ちで補わせる」「全体的問題を個人の努力に押し付ける」という日本的精神論に通じるものであり、「結果が出せないことに批判が集まるたび、ここ数年続くブラック企業を想像してしまう」との見解も示した。

記事に反響 「いいね」は9000回超

   記事はたちまち反響を呼び、13日18時時点でツイートは5000回を超え、「いいね」は9200件以上にのぼった。「首が折れるほど頷く」「成績優秀なアスリートは不相応な荷重を感じながらプレーしていることを私たちも知っておくべきだと思う」「よく言って下さいました。もっともっと言ってやって下さい」などと賛同の声が相次いでいる。

   もちろん強化費以外にも費用はかかっているものの、際立つ額ではないようだ。日本オリンピック委員会(JOC)は五輪開催時に選手の渡航費や物資輸送費などを負担しているが、たとえばバンクーバー五輪(2010年)におけるJOCの「選手団派遣事業特別会計」をみてみると支出総額は約1億4980万円。そのうち補助金は約6100万円に過ぎない。また、選手村の宿泊費は開催国負担であり、ユニフォームなどもスポンサー負担が一般的である。