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空き家対策、政府や自治体が知恵絞る 全国に757万戸、「特別措置法案」提出も

   適切に管理されずに崩れて通行人にけがをさせたり、放火されたりする恐れがあるなど、空き家の増加が社会問題化して久しいが、ようやく政府・与党も抜本的な対策に乗り出した。各地の自治体の取り組みに背中を押された形で、持ち主に対して修繕や解体を促す仕組みを整備しようというのだ。

   自民党の空き家対策推進議員連盟(宮路和明会長)は「空き家等対策の推進に関する特別措置法案」をまとめ、今国会に議員立法で提出する方針だ。

東京19万戸、大阪18万戸、福岡10万戸

都市部で「空き家」急増(写真はイメージ)
都市部で「空き家」急増(写真はイメージ)

   総務省が5年に1回実施する住宅・土地統計調査によると、2008年の全国の空き家約757万戸のうち、賃貸用や別荘などを除く「放置されている空き家」は約268万戸で、10年前の約182万戸から急増。中でも、東京都が19万戸(10年で1.6倍)、大阪府は約18万戸(同1.7倍)、福岡県も約10万戸(1.6倍)と、大都市部で深刻だ。

   なぜ空き家は増えるのか。地方では過疎化が大きな要因だが、都市部やその周辺で目立つのは高度成長期に建てられた物件。自治体関係者によると、核家族化で子どもが独立した後、親が亡くなってそのまま空き家になるといったケースという。

   相続した子どもがきちんと対応すればいいが、現実には、「費用などの問題が絡んで、放置されることになる」。国交省が2013年11月にインターネットを通じて実施したアンケート(1万1593人回答)で、空き家を所有する2187人についてまとめたところ、「日ごろ空き家を管理していない」が280人(約13%)に達し、その理由(複数回答)は、「遠くにあり管理できない」、「しばらく住む予定がないので管理は不要」がいずれも40%で、以下、「手間や費用がかかる」29%、「管理しても高く売ったり貸したりできない」16%という結果。「老朽化や立地条件が悪くて放置され、状態がさらに悪化して"幽霊屋敷化"する」(自治体関係者)という悪循環になっているようだ。

秋田県大仙市では5棟を代執行

   こうした深刻な事態に、まず対応したのが自治体で、総務省のまとめでは、昨年秋時点で約270の自治体が空き家対策の条例を制定している。東京都足立区は、2011年11月、老朽家屋に解体や回収を義務付ける都内で初の条例を制定。解体費用の助成制度(当初は解体費用の50%・50万円まで、2013年1月から同9割・100万円まで)も設け、これまでに30棟以上を解体した。2010年に全国で初めて「空き家対策条例」を施行した埼玉県所沢市のように、解体命令に応じない所有者の氏名を公表する規定を盛り込んでいる自治体も多い。

   強硬策に出るところもある。秋田県大仙市は2012年1月施行の条例に解体費の助成と共に、助言・指導、勧告、公表、命令を経て、従わない場合に「代執行」できるという規定を設けた。豪雪地帯で、雪害対策の緊急性が高いという事情があり、実際に、同年3月、特に危険な5棟について代執行に踏み切った。同様の規定を盛り込んだ条例は長崎市、仙台市など各地にある。

   他方、「ソフト路線」で、街づくりなどとの連動した動きもある。富山市では、引きこもりがちな高齢者の外出を支援し、健康寿命を延ばそうと、空き家を利用して高齢者の触れ合いの場を創出する「高齢者サロン事業」の第1号が同市若竹町に4月にオープンしたばかり。

   神戸市長田区の空き家(延べ約175平方メートル)はNPO法人が借りて、アーティストらが暮らしながら創作活動をして芸術活動の拠点として活用する取り組みが3月から始まった。東京都文京区本駒込でも地元町会が中心になって空き家を高齢者や子育て中の母親が集うサロンにしている。このほか、アパートの空き室にデイサービスセンターを開設(世田谷区)、ルームシェア方式で家賃補助による学生移住促進(横須賀市)など、多様な取り組みが各地で行われている。

税制が大きなポイントに

   自治体の動きに押され、国交省も2013年度から、個人が空き家を解体する費用の5分の4を国と自治体が助成する「空き家再生等推進事業」をスタート。そして、それでは不十分として、このほどまとめられたのが自民党議連の特別措置法案だ。法案は大仙市のような強制撤去(行政代執行)の条文とともに、大きなポイントとされるのが税制だ。

   家屋が建っている土地の固定資産税は200平方メートルまで6分の1に軽減される特例があり、更地にすると、この軽減が受けられなくなるため空き家が放置されると指摘されている。これについて法案は、「必要な税制上の措置も講じる」と盛り込んでおり、「建物を自主的に撤去した所有者に対して、一定期間、軽減措置を継続することを年末にまとめる来年度税制改正の議論で具体化したい」(議連関係者)考えだ。

   空き家の背景には、このほか、道路に2メートル以上接していない土地は新たに家を建てられないために空き家を建て替えるに建て替えられないといった問題もある。単に強制的に撤去するだけでなく、空き家の活用や地域全体の再開発など、街全体の再生や活性化策も必要といえそうだ。