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食品の機能性表示、来春「新制度」導入へ ミカンやホウレンソウでも可能に

   食品の成分が体にどのように良いかを示す「機能性表示」の新制度の概要が固まった。消費者庁がこのほど、体の特定部位を対象とした健康維持の表現を認める方針を示した。

   今後、基準案を作り内閣府の消費者委員会に諮問し、具体的な表示内容や方法の指針を作成した上で2015年春の導入を目指す。

TPPで米国を意識

   機能性表示は現在、特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品に認められている。栄養機能食品は国の許可が不要な一方で対象は加工食品とサプリメントに限られる。一方、トクホは国の許可が必要で、「体脂肪を減らすのを助ける」など具体的な表示が認められているものの、企業側には手間がかかり、許可を得るまで時間がかかることへの不満が根強かった。そこで、健康食品市場の拡大策の一環で、安倍晋三首相が昨年の成長戦略の中で打ち出していた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉をにらみ、「こうした食品の対日輸出拡大を狙う米国も意識したもの」(霞が関筋)との指摘もある。

   新制度は、野菜や魚や肉などの生鮮品のほか、茶やそばなどの加工食品、サプリメントなど、原則として全ての食品が対象になる。ただし、過剰摂取が問題になるアルコール類などは除く。

   病気の治療・予防効果の表示は認められないが、健康の維持・増進の範囲に限って「機能性表示」が可能になり、「肝臓の働きを助けます」「目の健康をサポートします」「鼻の調子を整えます」といった表現ができるようになる。

   実際に想定されるものとして例示されているのは、温州ミカンが「β-クリプトキサンチンを含み、骨の健康を保つ食品です。更年期以降の女性の方に適しています」、ホウレンソウが「ルテインを補い、目の健康維持に役立ちます」、豆乳が「β-コングリシニンを含んでいるため、遊離脂肪酸を減らす働きにより、正常な中性脂肪の値の維持に役立ちます」、ダッタンそばが「ルチンを含み、正常なコレステロール値の維持に役立ちます」といった表現だ。

   当初、消費者庁は、医薬品の効果と混同されるとして体の具体的な特定部位の表現には消極的だった。しかし、消費者側からも分かりにくいとの声が上がったことから方針転換した。

   認可が要らないということは、企業の自己責任で表示するということ。企業は販売する前に、科学的根拠を立証した論文や製品情報などを消費者庁に届け出ればよい。このため、包装や容器に国の審査を受けていない事実も明示する。一方の消費者庁は、企業が届け出の際に提出した資料に基づいた情報を同庁のホームページなどに掲載し、消費者が閲覧・判断できるようにする。また、販売後のチェックで安全面の重大な問題などが確認された場合には、企業に回収を命じるケースもあり得るという。

消費者が混乱する可能性も

   こうして固まった新制度だが、消費者、企業の両サイドで期待や不安、不満が交錯している。

   新制度は、錠剤やカプセルなどのサプリメントが対象の米国の制度を参考に、対象を広げたもの。経済政策としての位置づけが先行しており、4月に東京で開かれた国際栄養食品協会と在日米国商工会議所主催のシンポジウムで、政府の産業競争力会議議員の竹中平蔵・慶応大教授は「成長戦略の肝は規制改革で、機能性表示も極めて重要な部分だ」と力説、専門家の中からは「農産物の機能性表示は世界初なので、科学的な裏付けのある機能性食材を輸出するチャンスになる」と期待する声が企業サイドを中心に盛り上がる。

   一方、消費者側は、消費者庁が飲み合わせ、食べ合わせのトラブルを防ぐため、事業者自らが医薬品との相互作用まで調べ、保健機能成分の定量化を行うなど厳しい条件を課した点は評価するものの、米国で企業に順守を義務付けている適正製造規範(GMP=原材料の製造から出荷まで一定の品質と安全を維持する管理システム)の導入見送りなどに不満が出ている。

   また、表示の要件や方法で、最終製品をヒトに与えて有効性と安全性を確かめるか、信頼性の高い研究成果を検証して有効性を確かめるか、いずれかを求めるなど、科学的根拠の裏付けのある内容だけを表示させる仕組みになったため、企業側に「トクホと同じような制度になり、ハードルが高すぎて活用できない可能性がある」との不満を残した。

   このほか、農業関係者から「生鮮食品では有効成分といっても産地や品種、生産者ごとに他含有量のばらつきが大きくなるのは避けられず、かえって制度の信用性が傷つきかねない」との懸念も出る。

   そもそも、既存のトクホなどと3本立ての制度になって消費者が混乱する可能性が指摘されるうえ、さも健康によいかのような表現で宣伝する食品も巷にあふれている状況は新制度導入でも簡単には変わらない。消費者庁が、市場監視の実効性をいかに確保できるかが問われることになる。