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ソフトバンク、米携帯4位買収をいったん断念 孫社長、「強い3位」へのこだわり捨てず

   ソフトバンクが、子会社の米携帯電話3位スプリントによる同4位TモバイルUSの買収を断念した。

   米規制当局が、業界寡占化が進むことを強く懸念しており、買収の承認を得るのが難しいと判断した。

米国では上位2社が強い

ソフトバンクの孫正義社長(12年10月撮影)
ソフトバンクの孫正義社長(12年10月撮影)

   ソフトバンクは2013年7月にスプリントを約216億ドル(約1兆8000億円)で買収して米国の携帯電話事業に進出した。ただ、業界1位のベライゾン・ワイヤレス、2位のAT&Tの契約数がそれぞれ1億件を超えているのに対し、スプリントは半分の5500万件程度。他社への顧客流出に歯止めがかからず、苦戦が続いている。そこで、さらなる規模拡大に向け、Tモバイルの親会社ドイツテレコムとの間で買収交渉を進めていた。買収規模は約320億ドル(約3兆3000億円)とされる。

   これに対し、米司法省と米連邦通信委員会は当初から大手4社が3社に減ると寡占が進み、消費者にとって不利益になると難色を示していた。ソフトバンクは日本を念頭に、「強い3社の方が競争が活発になる」(孫正義社長)などと訴え、ロビー活動も活発に進めたが、当局の姿勢に変化はみられず、詰めの段階にさしかかっていた買収を断念せざるを得なくなってしまった。

   孫社長は2014年8月8日に都内で記者会見し、今回の買収断念について「正式なコメントはない」と直接の言及を避けた。しかし、「中国の三国志をみても長い期間厳しい戦争があったが、三つどもえで戦う方がいいというのは歴史が証明している」と述べ、ベライゾンとAT&Tの2強に対抗する「強い3位」があった方が、健全な競争が展開されるとの考えを改めて示し、無念さをにじませた。

日本でのノウハウと実績もとにテコ入れ図る

   今回の買収断念によって、ソフトバンクはスプリントを単独で再建していくことになる。ソフトバンクは2006年に英ボーダフォン日本法人を買収し、NTTドコモとauの2強による国内市場の寡占状態に風穴を開け、米アップルのiPhone投入やネットワーク整備などで追い上げてきただけに、「日本で顧客を獲得してきたノウハウと実績をスプリントに導入していきたい」(孫社長)と営業力強化やネットーワーク整備などに注力して再建を進める考えだ。ただ、スプリントは顧客流出に歯止めがかからず、苦戦が続いており、テコ入れがどの程度の効果をあげるか、業界の関心を集める。

   ただ、業界には「今回は買収交渉を中断しただけで、環境が変われば再び買収に動く可能性がある」との見方もくすぶり、今後の孫社長の動向は、引き続き関心の的であることに変わりはない。

   そこで注目されるのが、Tモバイルをめぐる新たな動きだ。フランスの通信会社イリアドがTモバイルに対して150億ドル(約1兆5400万円)での買収を提案。Tモバイルは拒否したが、ソフトバンクの買収断念を受けてイリアドが買収金額を上積みする可能性も指摘されている。イリアドとTモバイルの交渉の行方が、今後のソフトバンクの戦略にも大きく影響を与えそうだ。