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JR東海「リニア」はや暗雲 工費が935億円増 さらに膨らむ可能性

   JR東海は2014年8月26日、品川―名古屋間を40分で結ぶ「リニア中央新幹線」の工事実施計画の認可を、国土交通相に申請した。認可されれば10月にも着工する見通しだ。これに合わせて品川―名古屋間の工費が従来計画より935億円増えて5兆5235億円になる、との見通しを公表した。

   労務費が増加するほか、高性能の設備を導入するためだ。リニアのルートはトンネルが8割超で難工事が予想されるほか、2020年の東京五輪に伴う建設ラッシュによる労務費増も指摘されている。工費がさらに膨らむ可能性も否定できず、「つくる前から暗雲が垂れ込めている」と見る向きもある。

品川―名古屋開業は13年後の2027年

リニア、本当に完成するの?(画像はイメージ)
リニア、本当に完成するの?(画像はイメージ)

   JR東海は4月に国交相に提出したリニアの環境影響評価書(アセスメント)について、国交相や環境相からの意見を踏まえて補正し、8月26日に再提出。トンネル工事に伴う残土処理などを説明し、工事の実施計画認可を申請する環境が整っていた。ただ、アセスメント再提出と同じ日に工事の計画認可を申請したことについては、「JR東海が着工を急ぐ姿勢もうかがえる」との声も聞かれる。品川―名古屋開業は13年後の2027年を予定するが、工事は難航も予想されることから、一日も早く着手したいのだろうと見られているわけだ。

   今後のスケジュールはこうだ。補正したアセスメントは、8月29日から1カ月間、沿線自治体などで住民らが閲覧できる「縦覧」の手続きが取られる。縦覧終了後に国交相が工事計画を認可し、JR東海が沿線住民説明会を開いたり、用地買収に動いたりしつつ工事を始める。既に用地を持っている東京や名古屋から着手すると見られている。

大阪延伸が完成すれば工費は9兆300億円

   ここへきてクローズアップされている問題の一つが工費の上昇。JR東海は全額を自社でまかなう計画で、先述したように名古屋までが5兆5235億円と途方もない金額だ。大阪延伸が完成すれば工費は9兆300億円に上る。

   リニアが東海道新幹線のように一気に大阪まで開業せず、工期を名古屋までと大阪までの2期に分けるのは、JR東海の長期債務額がピーク時でも5兆円を下回るようにコントロールし、安定した財務体質を維持するためだ。しかし裏を返せば、それだけ綱渡りでもあることを意味する。例えば借り入れ金利が想定より大幅に上昇する事態になれば、大阪延伸が予定通りいくかは予断を許さない。

東京五輪に向け、労務費がさらに上昇する見込み

   金利だけではない。今回、JR東海が工費を上方修正した主要因が労務費の増加。国内では2013年来、ただでさえ人手不足が叫ばれ、とりわけ建設現場での不足感は深刻で、各種建設工事費の増加につながっているのは周知の事実。2020年の東京五輪に向け、労務費がさらに上昇する見込みで、リニアの工費に影響する可能性は十分ある。JR東海内には「東京五輪が終われば景気も悪くなり、労務費は下がる」との楽観論もあるが、懸念材料には違いない。トンネルまたトンネルという、これまで経験したことのない難工事だけに、この点からも工費が膨らむおそれはある。JR東海は沿線自治体の要望に応じてオオタカなど稀少生物の保護なども含めて環境に配慮するとしており、その対応費用が予定を超える可能性もある。

   JR東海は民間企業とはいえ、日本の基幹輸送手段を担う会社でもある。リニアの工費を賄いきれず経営が悪化すれば、国費投入も絵空事ではなくなる。コストを下げつつ環境に配慮する、という難題に直面するJR東海を心配する声は少なくない。