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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
「天下り規制」でもタダでは転ばない 財務省次官OBと某マスコミの関係

   9月23日(2014年)付けの産経新聞によれば、7月に財務省を退任した木下康司・前財務次官が9月末に渡米し、米コロンビア大学の客員研究員に就くという。

   筆者が役人の時のことを述べよう。コロンビア大のポストは、留学や海外勤務のあまりない財務省キャリアが課長になる前、「最後の研修」とかいって派遣される、海外での待機ポストだ。それまで国内で課長補佐時代を過ごして、一種の「ごくろうさん」的なポストだった。

官僚の「再就職事情」が変化してきた

   コロンビア大はマンハッタンにあり、住居もいいところを選べば、ニューヨーク生活を満喫できる。研究といっても日系金融機関の勉強会に出たりしていればいい。だから、コロンビア大にいくことを「寝コロンビア」とかいったものだ。さらに、財務省はニューヨーク事務所をもっている。形式的には領事館であるが、ニューヨーク領事館とは別の建物だ。そこには財務省からの職員がいたので、生活面のサポートも、頼めばしてくれた。おそらく、木下氏の環境もこれと似たようなものだろう。

   産経新聞の記事では、2006年発足の第1次安倍政権によって行われた天下り規制によって、官僚の「再就職事情」が変化してきたと分析している。その当時、天下り規制を官邸で企画・立案した筆者から見ても、その通りだと思う。

   天下り規制について、それ以前には「再就職」そのものを規制しようとして、職業選択の自由の壁にぶつかり規制の実効性がなかった。そこで、役所が行う「再就職の斡旋」という事実行為に着目して、斡旋行為を規制したために、役所が組織的な斡旋を行えなくなったことが大きい。例えば、2013年3月、宿利正史・元国土交通事務次官が、財団法人に常務理事ポストが空くかを問い合わせたことが、違反行為とされている。木下前財務次官の件も、政府の再就職等監視委員会がきちんと調べているはずだ。

読売新聞と安倍政権の関係

   産経新聞の記事では、主な財務次官OBの進路先として、丹呉泰健氏が日本たばこ産業会長、勝栄二郎氏がIIJ社長、真砂靖氏が日本テレビホールディングス社外取締役と書かれている。それぞれ木下氏の前々々任、前々任、前任の財務次官である。

   ただ、丹呉氏は、読売新聞グループ本社(と東京本社)の監査役をしていた(2010年12月~12年12月)。また、その後任次官の勝氏も、同じく読売新聞東京本社監査役に就任した(2014年6月)。つまり、日テレHD社外取締役の真砂氏を含め最近の財務次官は、3代続いて読売・日テレグループにお世話になっている。

   その一方で、最近、読売新聞の変貌ぶりも話題になっている。ジャーナリストの須田慎一郎氏によれば、読売のスタンスは、安倍政権寄りになっているという。安倍政権が、読売を「特別扱いしている」とも。某高官の話として「もう朝日新聞や毎日新聞は読む必要はありませんよ。新聞は、読売の一紙だけ読んでいれば十分」らしい(ビジネスジャーナル配信、9月21日)。

   最近の朝日新聞騒動を踏まえて、財務次官の天下り先を読み解くと、脈絡のない世間の動きがちょっと見えてくるような気がする。朝日新聞のヘマの背後で、天下りが難しくなってもタダでは転ばない財務省とそれをちゃっかり取り込む読売があった。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。