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「誰が朝日新聞のことを叩けるであろうか」 林真理子、百田氏の「作家タブー」で週刊誌批判

   2014年1月に死去したタレント、やしきたかじんさん(享年64)の晩年を作家の百田尚樹さん(58)が描いたノンフィクション「殉愛」をめぐる訴訟について、週刊誌の多くが奇妙な沈黙を続けている。

   百田さんは言わずと知れた「ベストセラー作家」。その影響力を恐れて週刊誌の版元でもある出版社が及び腰になっているという見方もあるなか、作家の林真理子さん(60)が「この言論統制はなんなんだ!」「誰が朝日新聞のことを叩けるであろうか」と、異例の週刊誌批判を展開した。

さくらさんと遺族の確執を最初に書いたのは週刊文春

「殉愛」をめぐる騒動を大半の週刊誌は「スルー」している
「殉愛」をめぐる騒動を大半の週刊誌は「スルー」している

   「殉愛」では、13年10月に再婚した妻、さくら(32)が、末期のたかじんさんを献身的に介護する様子を強調する一方、たかじんさんの元妻との間に生まれた長女(41)については、たかじんさんの病状を知って「自業自得やな」とのメールを送ったなどと批判的に描いていた。

   11月7日の発売直後から、さくらさんがイタリア人男性と「重婚」していたという疑惑がネット上で提起され(百田さんは「結婚・離婚歴がある(日本で入籍、離婚)」と「重婚」を否定)、長女は本の記述で名誉を傷つけられたとして、11月21日に出版元の幻冬舎に対して出版差し止めと1100万円の損害賠償などを求める訴えを東京地裁に起こした。

   百田氏は本に対する批判についてはツイッターで反論を繰り返しており、特に11月30日には、

「裁判となれば、今まで言わなかったこと、本には敢えて書かなかったいろんな証拠を、すべて法廷に提出する。一番おぞましい人間は誰か、真実はどこにあるか、すべて明らかになる。世間はびっくりするぞ」

とツイート。徹底的に争う構えだ。

   一般的には、こういった争いは週刊誌が好むところだ。実際、週刊文春は14年2月6日号で

「やしきたかじん未亡人32歳下への怒り 親族から噴出 遺骨を『マカロンみたい』」

と題した記事を掲載。たかじんさんの親族と、さくらさんの間の確執を伝えている。

週刊誌で訴訟を詳報したのは「サンデー毎日」のみ

   ところが、今回の百田さんの訴訟については、毎日新聞社の「サンデー毎日」12月14日号が「たかじん死して『骨肉の争い』勃発 『殉愛』出版差し止め提訴」と題して原告代理人の弁護士の話を詳しく伝えている程度で、出版社系の週刊誌は沈黙を守っている。

   こんな状況に、林さんが週刊文春12月11日号のコラム「夜ふけのなわとび」の中で苦言を呈した。林さんにとって、「殉愛」は「とても面白かった」といい、重婚騒動が自らが連載中の新聞小説のテーマとリンクしかねないこともあって、週刊誌の報道に期待を寄せたていた。

「私は真実を知りたいと思った。私のその欲求はすぐに週刊誌が解決してくれると信じていた。だってそうでしょう。こういうとるに足らない、すごくくだらない、だけどものすごく面白いことを記事にしてくれるのが週刊誌でしょう。きっと大特集をやってくれるはず」

「意地悪が売りものの週刊新潮も、ワイドの記事にすらしない」

   だが週刊誌は全く記事化せず、長女が提訴しても状況は変わらない。この状況を林さんは「この言論統制はなんなんだ!」と憤り、具体的な媒体名を挙げて批判した。

「意地悪が売りものの週刊新潮も、ワイドの記事にすらしない(百田氏の連載が終わったばかり)。週刊文春も一行も書かない(近いうちに百田氏の連載が始まるらしい)。あと講談社が版元の週刊現代は言わずもがなである。週刊ポストも知らん顔。こういうネタが大好きな女性週刊誌もなぜか全く無視。大きな力が働いているのかと思う異様さだ」

   林さんが指摘している「講談社が版元の週刊現代言わずもがな」とは、「海賊とよばれた男」「永遠の0(文庫)」といった百田さんのベストセラーが講談社から出版されていることを念頭に置いている。講談社に限らず、出版社がベストセラー作家を批判できない「作家タブー」の存在を指摘しているわけだ。

   そして、林さんはこう喝破する。

「私は全週刊誌に言いたい。もうジャーナリズムなんて名乗らない方がいい。自分のところにとって都合の悪いことは徹底的に知らんぷりを決め込むなんて、誰が朝日新聞のことを叩けるであろうか」

   林さんは、すでに作家の中では「大御所」として知られる。週刊文春の誌面で同誌を含む週刊誌批判が可能なのは、皮肉にも林さんも「作家タブー」に守られているが故だという見方もできそうだ。また、朝日新聞の「池上コラム問題」もあって、「大家」の辛口のコラムは、仮に自社媒体への批判があっても掲載せざるをえない雰囲気になっているのかもしれない。