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連載・世襲政治に未来はあるのか(3)
首相の半分、国会議員も4分の1 「永田町」の世襲率は異常に高い

   国会議員に世襲が多いのは、決して群馬に限った話ではない。ここ30年の首相のうち、父親が国会議員だった人が半分を占め、首相経験者の多くも地盤を親族に譲っている。

   首相に上り詰めるまでの「入口」の国会議員も4分の1が世襲だ。候補者の段階では世襲率は10%程度だが、世襲の方が明らかに当選する確率が高く、世襲以外には参入障壁が高い状態だ。

首相経験者のうち6人が地盤を親族に譲る

国会議員は4分の1が世襲だ(写真は国会議員会館)
国会議員は4分の1が世襲だ(写真は国会議員会館)

   1982年に発足した中曽根内閣から12年の第2次安倍内閣まで、ここ30年ほどで首相を経験した人は18人いる。そのうち、父親が国会議員を務めていた人は9人(宮沢喜一氏、羽田孜氏、橋本龍太郎氏、小渕恵三氏、小泉純一郎氏、安倍晋三氏、福田康夫氏、麻生太郎氏、鳩山由紀夫氏)いる。この18人のうち、息子や娘が地盤を受け継いで国会議員になったのは中曽根弘文元外相、小渕優子前経産相、小泉進次郎復興政務官、羽田雄一郎元国交相、橋本岳厚生労働政務官の5人。これに加えて宮沢喜一氏は、自らの地盤を甥の宮沢洋一経産相に譲っている。

   首相が選ばれる「分母」になる国会議員も、世襲率が高い。選挙区の制度が大きく変更されてもその割合は変化しておらず、構造的に世襲率が高く維持されているようだ。

   「世襲議員 構造と問題点」(講談社)によると、筆者の稲井田茂氏や共同通信の調べでは、衆院議員のうち世襲(父母、祖父母、義父、養父に国会議員や知事、政令市長がいる)の人は1990年には122人、93年は127人、96年は123人、00年は121人、03年は152人、05年は117人いた。ここ20年間は、120人程度で推移していることになる。90年は512あった衆院定数は減少を続け、現在は475。定数に占める「世襲率」は25%程度で推移している。

   衆院の選挙制度は1996年に中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に移行しているが、結果として当選する世襲議員の数に変化は見られない。「地盤」(支援組織)「看板」(知名度)「カバン」(資金)の「3バン」の壁は厚いようだ。

候補者の世襲率がダントツで高いのは自民党

   今回の衆院選でも、新規参入へのハードルは高い。時事通信のまとめによると、立候補者1191人のうち、新人は全体の50.7%にあたる604人。12年の総選挙と比べて12.7ポイントも下がっている。

   また、多少複雑だが「父母、義父母、祖父母のいずれかが国会議員、または三親等内の親族に国会議員がいて同一選挙区から出馬した候補」を「世襲候補」と定義した場合、今回の選挙では全体の11.2%にあたる133人が世襲だ。世襲候補者数は05年の郵政選挙と09年の選挙が156人で、12年が145人だ。人数だけ見ると世襲が減っているように見えるが、12年選挙では今回の約1.3倍の1504人が立候補している。候補者が大幅に減ったことを考えると、実は「世襲率」は今回の方が高い。また、今回の衆院選の世襲候補を政党別にみると、ダントツに多いのが自民党の91人で、68.4%を占めている。

   急な解散で与野党ともに「新顔」を発掘する余裕がなかったことが背景にあるとみられる。

   世界を見回してみても、日本ほど国会議員の世襲率が高い国は珍しい。例えば日本が議会制度のお手本にした英国では、かつては上院(貴族院)議員の大半を世襲貴族が占めていたが、97年の労働党のブレア政権発足をきっかけに、99年に大幅な制度改革が行われた。その結果、世襲貴族の議席は約90に制限され、774議席の大半が「一代貴族」だ。一方、下院(庶民院)では、自分が当選しやすい選挙区を選んで立候補する「落下傘候補」が多く、「国替え」も頻繁に行われる。そのため、地盤を引き継ぐという文化がなく、世襲はほとんどないとされている。