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イスラム国、後藤さん解放で人質交換を要求 安倍政権、ヨルダンとの交渉どう進めるか

   イスラム過激派組織「イスラム国」が、拘束した日本人の新たな映像をインターネット上で公開した。ジャーナリスト・後藤健二さんとみられる男性が写真を持たされ、そこには湯川遥菜さんの遺体とされる姿が写っている。

   映像では後藤さんを名乗る男性が、英語で、解放の条件を2億ドルの身代金からヨルダンで死刑判決を受けている爆弾テロ犯の釈放に変更したと説明した。

湯川さんの遺体写真に信ぴょう性

「許しがたい暴挙であり、強い憤りを覚えます」と首相
「許しがたい暴挙であり、強い憤りを覚えます」と首相

   衝撃的な映像だ。オレンジ色の服を着せられた後藤さんが持つ1枚の写真に、殺害されたとみられる湯川さんが横たわる。映像とはいえ、映し出されているのは静止画像で、自ら「私は後藤健二です」という男性の英語の声が聞こえてくる。これまで公開してきた各種動画とはスタイルが少々違う。前回の映像には付いていた「イスラム国」の広報ロゴマークも見当たらない。

   ただ政府は「本物」ととらえているようだ。安倍晋三首相は2015年1月25日放送の「日曜討論」(NHK)に出演し、「残念ながら信ぴょう性は高いと言わざるを得ない」と沈痛な面持ちで語った。また首相官邸のウェブサイトは1月25日付で安倍首相の「このようなテロ行為は言語道断の許しがたい暴挙であり、強い憤りを覚えます。断固として非難します」との声明を掲載。同時に、「後藤健二さんに危害を加えないよう、そして直ちに解放するよう、強く要求します。後藤さんの解放に向け、政府を挙げて全力で取り組みます」と宣言した。

   「後藤さんの声」はイスラム国が、これまで解放の条件としていた身代金2億ドルを取り下げ、代わりに、「サジダ・リシャウィ」という人物の釈放を求めてきたと話した。これは、ヨルダンで収監されているサジダ・アル・リシャウィという女性を指す。2005年に同国の首都アンマンで爆弾テロを起こした実行犯で、死刑判決を受けた。イスラム国の前身「イラクのアルカイダ」の指導者で、2006年に米軍の空爆で殺害されたザルカウィ容疑者の側近の親族だという。自らも団体のメンバーだった。

   「人質交換」の格好だが、前例は存在するようだ。NHKの報道によると2014年、イラクの都市モスルで、トルコ総領事館がイスラム国の戦闘員に襲撃されて49人が拘束されたが、3か月後に全員解放された。トルコメディアによると、トルコ側が捕虜としていたイスラム国の幹部と引き換えに政府が交渉、イスラム国側がこれに応じて実現したという。

ヨルダンもパイロットがイスラム国に拘束されている

   今回の場合、釈放を求めるリシャウィ死刑囚は日本が身柄を押さえているわけではない。あくまでもヨルダンの判断に任されることとなる。菅義偉官房長官は1月25日の記者会見で、「ヨルダンをはじめ各国に協力を得ながら、さまざまなチャンネルやルートを生かして全力を尽くしている」と述べた。協力要請の中身は不明だが、リシャウィ死刑囚の取り扱いについても協議されているだろう。

   ただ2014年12月には、ヨルダン軍のパイロットがイスラム国に拘束されている。リシャウィ死刑囚の釈放を、このパイロット解放のカードに使うべきだとの声も、ヨルダンの中で出ているようだ。

   日本人がイスラム過激派に拘束され、その後解放された例としては2004年4月、イラクでの事件が思い出される。日本人3人を人質とした武装グループが日本政府に、当時イラクに派遣されていた自衛隊の撤退を要求。小泉純一郎首相(当時)がこれを拒否したうえで、イスラム教スンニ派の宗教指導者に仲介を要請した。最終的にこれが奏功したとされ、3人は無事帰国した。