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東電と中電、「火力提携」の複雑 福島原発事故の補償問題が影落とす 

   東京電力と中部電力は2015年2月9日、火力発電事業の包括提携で最終合意した。燃料調達を共同で実施することで購買力を高めるほか、互いの火力発電所の新設を事業として統合して効率化する。

   4月中に設立する折半出資の新会社がこれらのビジネスを担い、2016年に完全自由化を迎える国内電力市場で競争力をつける。ただ、東電にのみ込まれかねない中部電側の警戒心は根強く、火力の本質的統合には曲折がありそうだ。

新会社人事など「決定次第お知らせいたします」

中電側は「原発事故の補償問題」に付き合わされることを懸念?(画像は東京電力姉崎火力発電所上空)
中電側は「原発事故の補償問題」に付き合わされることを懸念?(画像は東京電力姉崎火力発電所上空)

   今回、両社は包括提携を進める「ロードマップ」をまとめて、ニュースリリースの「別紙」として公表した。この中で、「※」印をつけた2点の脚注コメントが、両社の間合いの微妙さを雄弁に物語る。

   一つは「新会社に関する詳細(商号、所在地、代表者、資本金等)は、決定次第お知らせいたします」、もう一つは「両社の既存火力発電事業・関連資産の新会社への統合については検討を継続」だ。

   前者、すなわち新会社の具体的な姿については、今回の最終合意の段階で発表されると見られていた。そのため、大手メディアの間では新社長人事をいち早く報道しようという取材合戦も過熱気味だった。しかし、ふたをあけてみれば「決定次第お知らせいたします」と肩すかしに終わった格好だ。

   そもそも2014年10月に両社が火力発電事業の包括提携で基本合意したと発表した際には、新会社を2015年3月中に設立する、としていた。それが今回は2015年4月中にずれこんだ。「主導権」そのものである人事を巡って水面下で激しい攻防が繰り広げられている、と想像するのが自然だろう。

価格が再び上昇してからでは共同調達の効果も薄れる

   ただ、両社にとって「攻防」にうつつを抜かしてはいられない事情もある。底を打った可能性もある足元の原油安だ。原油安につれて火力発電の主燃料である液化天然ガスの価格も下がっている。この機に共同調達を急がなければ、価格が再び上がってからでは共同調達の効果も薄れる。新会社設立を「4月中」と新たに区切ったことからは、「いろいろあるが、ズルズル決まらない事態は避けよう」という両社の決意も読み取れる。

   しかしもう一つの脚注「既存火力の新会社への統合は検討を継続」は、新会社人事よりハードルの高い問題だ。

   新会社の「ロードマップ」によると、2015年4月中に新会社を設立し、新規の燃料調達や海外発電の開発、国内の新規火力発電の新設事業を統合して運営。その後、同年上期末(9月)ごろに燃料の輸送事業を統合して新会社で運営。さらに、同年末ごろに既存の燃料調達・海外発電事業を統合する契約を両社が結び、それらの実際の統合時期を「2016年夏実施」と定めた。

中部電側に「複雑な思い」

   しかし、既存の火力発電事業とその関連資産を新会社へ統合することについては、何の合意もないのが実情だ。こうした状況は、2014年10月の基本合意の際から何も変わっていない。つまり、肝心なことは14年秋から何の進展もないと言っていい。

   それはなぜか。中部電側に「複雑な思い」があるからに他ならない。いちばんの懸念は、実質国有化されている東電と強く結びつくことで、福島第1原発事故の補償問題に付き合わされないか、という点。東電側は「それはない」と主張するが、なおすっきりしない。

   また、既存の火力発電まで統合するということは、原発は再稼働が簡単でない「浜岡」しかない中部電にとって、もはや「経営統合」に限りなく近い。それだけに「既存を含めた火力の統合がうちの利益になのか、もう少し検討したい」(中部電幹部)との考えが消えないわけだ。

   ひるがえって東電(政府)にとって中部電との提携は取引先金融機関の融資をつなぎとめる術でもある。複雑な方程式をどう解くか、もう一波乱ありそうな気配が充満している。