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核のごみの最終処分場の選定 国が自ら前面に出て作業を進める

   原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場について、国が自ら前面に出て選定を進める姿勢に転換した。事業を担当する認可法人の陰に隠れる形で選定作業をしてきたが、国が地域に申し入れるなど積極関与するとともに、住民との「対話の場」を設けることや、将来の廃棄物の「回収可能性」なども盛り込んだ。

   「トイレのないマンション」と形容されるように、原発は核のごみの処分がはっきりしないまま次々に作られてきただけに、遅まきながら国が動くのは重要な一歩と言える。ただ、これで処分場選定が前進すると考える人は少ない。

高レベル放射性廃棄物は国内に約1万7000トン

それでも難しい「処分場選定」(画像はイメージ)
それでも難しい「処分場選定」(画像はイメージ)

   高レベル放射性廃棄物は、原発の使用済み核燃料を再処理した後に出るもので、国内に約1万7000トンあり、原発を動かせば増えていく。これをガラスで固めて容器に密封し、地下に埋めるのが最終処分だ。

   この問題を検討してきた経済産業省の作業部会(委員長・増田寛也元総務相)がこのほど、特定放射性廃棄物最終処分法に基づく「基本方針」の改定案を大筋で了承。政府は3~4月にも閣議決定したい考えという。現行の基本方針は福島第1原発事故前の2008年に改定されたもので、今回が7年ぶり2回目の改定になる。

   最終処分は、原発を持つ電力会社などが出資する経産省の認可法人「原子力発電環境整備機構(NUMO)」が事業主体になり、地下300メートルより深いところに埋める「地層処分」を基本とすることが法律で定められている。NUMOは2002年から処分地を探す調査に入る前段として、調査を受け入れてくれる自治体を公募しているが、調査に入ったケースはない。このため、2013年末に関係閣僚会議で、公募方式を改め、国が地質の安全性などの適性が高い「科学的有望地」を複数指定し、国から自治体に調査受け入れを求める方式にするとしていた。

科学的根拠に基づく適地を示す

   この方針転換を「基本方針」に書き込むのが今回の改定だ。公募制だと適性を調べる前から地元で賛否が対立するなど摩擦が生まれて混乱し、調査にさえ入れないというのがこれまでの実情。今回の国による選定と言う方針は、地域の利害や賛否とは別に科学的根拠に基づく適地を示すことにより、今までより選定を進めやすくする狙いだ。NUMO任せにしないという国の姿勢を明確にするという意味でも重要な転換なのは間違いない。

   実際に適地とされる地域へ申し入れる場合、政府による押しつけと受け取られ、反発を招く懸念もあることから、早い段階から住民が参加し、情報を共有しつつ合意形成をはかる「対話の場」を自治体などに設置してもらう方針も盛り込んだ。その運営をNUMOや国が支援し、1年以上検討を重ねるという。そこでは、情報の透明性、政府や科学者に対する 信頼感が重要になるのは言うまでもない。

将来の技術進歩で別のよりよい処分法が編み出されれば...

   これに関連して、今回の基本方針改定案にはもう一つ、重要なポイントがある。処分した後でも将来世代が回収し、処理方法を決定できるという「回収可能性」を盛り込んだ点だ。

   どういうことか説明しよう。最終処分は、廃棄物を持ってきて、短期間で埋めて終わりではない。原発での使用済み燃料を再処理してウランやプルトニウムを取ったあとの高レベル放射性廃棄物をガラス固化して地上管理施設で冷却・保管するのに30~50年かかり、そうなって初めて、地層に埋めるという息の長い作業だ。事業として100年以上の長期にわたる。政府は「地層への埋設処分は、国際的に十分に安全な手法と考えられている」(経産省筋)と強調するが、廃棄物を地下に搬入したあとも回収できるようにすることは、将来の技術進歩で別のよりよい処分法が編み出されれば変更できる余地を残したという意味だ。柔軟な選択肢を残すことで、自治体が最終処分場を受け入れられやすくしたいとの思いがある。

廃棄物は原則として50年間、地上で暫定的に保管という考えも

   最終処分問題については、日本の科学者を代表する日本学術会議の検討委員会が、経産省の作業部会と時を同じくして、政府への提言案をまとめている。同会議は2012年から「暫定保管によるモラトリアム(猶予)期間の設定」という考えを打ち出しており、今回も、この考えを改めて整理し、廃棄物は原則として50年間、地上で暫定的に保管し、その間に処分地選定で国民の合意を得るなどの考え方を示している。暫定保管施設は電力会社が配電地域ごとに少なくとも1カ所設置するように求め、原発再稼働や新増設に当たっても暫定保管施設の確保を前提条件とすることも盛り込んだ点は、国とは相いれないが、実質的に将来の技術進歩の可能性を重視する点で、経産省と共通する部分はあり、「国民的合意を作っていく上で、こうした考え方がポイントになる可能性がある」(反原発運動関係者)との声もある。

   ただ、処分場への住民の不安は、除染に伴う廃棄物の中間貯蔵施設でさえ、各地で住民の強い拒否反応が出ているように、まして高レベル廃棄物処分場の選定作業が、今回の基本方針改定でにわかに進展する可能性はなさそうだ。

   経産省の作業部会の増田委員長が「国は最終処分場の必要性について、国民の前に出てまだ議論していない。そうした基本から始めるべきだ」とくぎを刺すように、政府の息の長い取り組みは始まったばかりといえそうだ。