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スズキがVWと手を切った代償 巨額のエコカー開発費がのしかかる

   大手自動車メーカー同士の世界的な資本提携を巡る4年近くの争いに、ひとまず決着がついた。国際仲裁裁判所(ロンドン)は資本提携解消を求める日本のスズキの訴えを認め、独フォルクスワーゲン(VW)に対して保有するスズキ株売却を命じた。スズキは業績好調の一方で、かつての米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携解消に続く国際戦略の挫折になる。スズキはどう生き残りを図っていくのか。その動向は、世界的な自動車業界再編の引き金になる可能性もある。

   国際仲裁裁判所の決定は、VWが保有する全てのスズキ株式(19.9%分)を直ちに手放すよう命じるもので、スズキは早速買い戻す方針を表明。買い戻し金額は直近の時価で4600億円規模になる。

  • スズキの判断と今後の動向に関心が集まる(画像はスズキのホームページ)
    スズキの判断と今後の動向に関心が集まる(画像はスズキのホームページ)
  • スズキの判断と今後の動向に関心が集まる(画像はスズキのホームページ)

提携直後から表面化していた思惑の差

   スズキはGMとの提携をGMの経営不振を理由に解消し、これに代わる国際戦略として2009年12月、VWと資本・業務提携することで合意し、両社が公表した。VWが次世代の環境技術や高級車を、スズキが小型車開発技術を、それぞれ提供するというもので、両社は「対等」を強調、VWの19.9%という出資比率も、持ち分法適用会社化を避ける意味合いだったとされる。しかし、VWはその後、年次報告書でスズキを「持ち分法適用会社」と表記して事実上の傘下企業と位置づけたため、独立性を維持したいスズキとの思惑の違いが、まず表面化した。

   2011年ごろになると、スズキはVWの環境技術の開示が十分でないと主張する一方、VWはスズキがフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)からディーゼルエンジンを調達したことを提携合意違反だと指摘し、対立は決定的になった。

   スズキは同年9月に提携解消を申し入れたが、VWが拒んだため、11月、提携解消とスズキ株の返還を国際仲裁裁判所に申し立てていた。

   今回の決定による両社の損得勘定はどうだろうか。

   VWはスズキの強みである小型車技術やインドなどの新興国市場での協業などによるうま味は得られなかったが、スズキ株取得費用は約2200億円だから、4600億円で売るとすれば、取得から6年で2倍以上となり、投資としては成功といえる。

   一方、スズキは、資本提携解消という最大の要求が通り、鈴木修会長が「のどに小骨が刺さっていると再三申し上げてきたが、これですっきりした」と、安堵の表情を見せる。2015年3月期末時点で約1兆1千億円に上る手元資金を持ち、持ち合いで保有する1.5%分のVW株(時価約1000億円)も売却して自社株買いの原資とする見通しで、資金繰りに問題はない。「新たな提携先が出てくれば、そこにはめ込めばいいだけ」(全国紙経済部デスク)なのだ。

   ただ、4600億円という金額はスズキの2015年3月期の純利益の5倍近い金額で、軽い負担とも言えない。

   また、スズキには別の懸念材料がある。国際仲裁裁判所がVWの主張したスズキの契約違反の一部を認めたことだ。これによる損害金額については引き続き審議される。具体的な違反の内容は明らかにされていないが、FCAからのディーゼルエンジン調達などが該当するとみられ、その額によっては経営の重石になる懸念もある。

自主独立路線をめぐる会長と社長の食い違い

   スズキにとっての最大の問題は、経営の自主独立性を確保した代償として、VWとの提携で期待した次世代の環境技術の開発など、経営上の課題が残されたことだ。スズキは簡易なハイブリッドシステムを開発し、これを搭載した小型車「ソリオ」を8月に発売したものの、燃料電池車や電気自動車を含めたエコカーの開発全体では後れをとっている。「環境技術の開発には巨額のコストがかかり、スズキ単独での開発は難しい」(業界関係者)との見方が強く、次の一手に関心が集まるところだ。

   スズキ以外の中堅メーカーは、マツダが5月にトヨタ自動車と提携を強めると発表し、米国での規制強化をにらみ、電池やモーターの技術の提供をトヨタから受けることになった。富士重工業もトヨタから16%の出資を受け、ハイブリッド技術を供給してもらっている。ホンダはGMと燃料電池開発で協力している。

   鈴木会長は「自立して生きていくことを前提に考えたい」と述べるが、長男の鈴木俊宏社長は6月の社長就任会見で「低燃費、(車の)軽量化の技術を本当に1社でできるか」と逆の思いを率直に語っている。

   スズキは中小型車などで独自技術を持ち、インドで5割弱のシェアを持つなど新興国に強い。他のメーカーには魅力的な"花嫁候補"だけに、今後の世界的な業界再編の「台風の目」になる可能性は大いにありそうだ。