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小太りは長生きするってホント?

   最近、「ぽっちゃりさんの方が長生きする」という話をよく聞くけど、「カロリー制限が健康にいい」という話と矛盾しない?

   もしホントなら「食べたいものを我慢して、ダイエットに苦しむ必要がないから、ラッキー!」なんだけどサ、早とちりしちゃって甘いものをパクパク食べてもいいのかしら?

  • 「息子の心、親知らず」(イラスト:サカタルージ)
    「息子の心、親知らず」(イラスト:サカタルージ)
  • 「息子の心、親知らず」(イラスト:サカタルージ)

多くの調査が証明するチョイデブ1番、スマート2番

   確かに「小太りの方がやせている人より長生きする」という疫学的研究が次々と出ているのは事実だ。代表的なものが、2009年に発表された、東北大学が宮城県内の40歳~79歳の男女約4万5000人を調査し、肥満度と平均余命の関係を割り出した研究だ。肥満度は「BMI(肥満指数)」で測られる。計算式は「体重(キロ)÷身長(メートル)の2乗」で、基準値は22である。「やせ」(BMI18・5以下)、「標準」(18・5~25未満)、「太りすぎ(25~30未満)」「肥満」(30以上)の4つのグループに分けて、11年間追跡調査した結果、BMI25~30未満の「太りすぎ(小太り)」の人が一番長生きをしたことが分かった。以下に40歳の人の平均余命のランキングのデータを紹介しよう。

1位「小太り」 男性40.5年 女性47.0年

2位「標準」  男性38.7年 女性46.3年

3位「肥満」  男性37.9年 女性44.9年

4位「やせ」  男性33.8年 女性41.1年

   つまり男女とも「小太り」が一番で、「標準」「肥満」「やせ」の順番で続き、「小太り」の人は「やせ」の人より6~7歳長生きするのだ。同時期に厚生労働省研究班が約5万人を対象に行った調査でもまったく同じ結果が出た。米国疾病対策センターを行った調査でも、「小太り」の死亡率が一番低く、2番目の「標準」より死亡リスクが6%も低いというデータが出ている。どうやら「小太り長命」は万国共通のようなのだ。

免疫力が高く、コレステロールが頑丈な体を作る

   こうした結果に「わが意を得たり!」なのが、ダイエットブームに警鐘を鳴らし続け、『その健康法では「早死」にする!」という本も出している高須克弥・高須クリニック院長。サイトの中で大いに語っている。

   「日本では健康優良児は丸々と太っており、かっぷくのいいニッポン男児やぽっちゃり女子が健康の証でした。メタボリック症候群は、超肥満大国のアメリカ国民のもの。死因の1位が心筋梗塞だからメタボ対策は有効。しかし、日本人の死因の3分の1はがんです。がんは治療の過程で体力が消耗する。メタボ対策の目標体重では栄養が不足します。脂肪の制限は必要ない!蓄積した脂肪は財産!食べるという人間の本能にわずらわしい制約を加えてはならないのです!」。

   ほかの専門医もサイトの中で、「小太り長命」の理由をこう説明する。(1)「やせ」に比べて免疫力が高く、感染症にかかりにくい、(2)コレステロール値が高い方が、頑丈な体に必要な細胞膜やホルモン、ビタミンDを多く作ることができる、などだ。

   ここで、「ちょっと待って!」と疑問を投げかけるのが日本抗加齢医学会理事長の坪田一男・慶応大学教授だ。著書の『アンチエイジングバトル最終決着』の中でこう指摘する。「逆の結果を示した疫学研究もあるのです。スウェーデンの研究では、小太りの男性は、メタボでなくても死亡率・心血管系のイベント発生率が標準体重に比べて高くなる。この研究の優れている点は、解析期間が30年と長いこと。小太りと標準体重では、最初の10年は死亡率などに差はないが、10年を超えると差が出てくる。つまり、小太りの弊害が出てくるには時間がかかるということです」。

中年までは標準体重キープ、65歳以上で小太りに

   長生きといえば、1999年に厚生労働省が100歳以上の高齢者1907人の肥満度を調べた結果がある。すると、BMIの平均は男性20.5、女性19.5で、ともに基準値の22以下だった。BMI25以上の「小太り」は、男女とも5%前後。やはり、太ったままで100歳まで生きられる人は稀なのだ。

   そこで、坪田一男氏は著書の中で、こうアドバイスする。「日本人は欧米人に比べてインスリンの分泌能力が弱いため、血糖値を下げられず、太るとすぐ糖尿病になってしまう。BMI25あたりが糖尿病になりやすいラインです。40~50歳ぐらいまではBMIが低い方がリスクは少ない。でも65歳を超えると、栄養やタンパク質不足のリスクの方が大きくなる。中年までは標準体重をキープし、65歳以上は小太りになることです」。

   ところで、実は「小太り長生き説」の裏には、こわい現実が隠れているのだ。東北大学は、目立たないが、大事な調査も2つ同時に行っている。1つは「肥満の度合いと病気になる率(有病率)の関係」だ。最も病気になりにくいのは男性でBMI22.2、女性で21.9だった。ともに基準値の22に近い「標準体重」の人々だ。有病率は基準値を真ん中にU字型のカーブを描く。やせるにつれ、太るにつれ、どんどん有病率は高くなる。「小太り」は抵抗力があるかもしれないが、「標準」より病気にかかりやすいのだ。

太るのは勝手ですが、健康に長生きできますか?

   もう1つの調査は、「肥満の度合いと生涯医療費の関係」である。医療費の負担は、一番額が多いのが「肥満」で、「小太り」「標準」「やせ」の順で低くなる。太るにつれて病状が重くなり、カネがかかることを示している。この2つの調査の意味するものは何か。ある専門医はサイトの中でこう語る。「小太りは、確かに長生きするかもしれないが、『長生き=健康』ではないということだ。私は、長生きの寝たきりより、健康な標準を目指したい」。

   介護のサイトを見ると、「長生き小太り」は全然喜ばれていない。「お願いだから太らないでください」という女性のブログを見ると――。「重たい母を介助するのに、それはそれは大変な苦労もあって。私は母よりやせていましたが、気づくと母と同じ体型になり、後ろ姿が母そっくりに。母に願うことは、とにかく太らないで! 『太ってようがあんたにゃ関係ない』と思うでしょうが、ヘルパーを頼むと2人の時も。表現は悪いけど、デブは2倍料金です!」。

   自分一人で長生きできるとは思わないことだ。