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「恐怖の加湿器殺菌剤」韓国で死者多数 呼吸困難引き起こす化学物質、日本の使用例は

   韓国で、加湿器のメンテナンスに使う韓国製「殺菌剤」により200人以上の死傷者が出た。

   加湿器殺菌剤自体は日本のメーカーも製品化しているが、韓国の製品には日本製にはない「ポリヘキサメチレングアニジン(PHMG)」という化学物質が含まれており、これが恐ろしい健康被害の原因となっていた。問題の韓国製品は日本では流通していないものの、PHMGは加湿器殺菌剤以外の一部日本製品に使われているという。心配はないのか。

  • 「加湿器」自体には問題はなく、「殺菌剤」が大きな被害をもたらした(写真はイメージ)
    「加湿器」自体には問題はなく、「殺菌剤」が大きな被害をもたらした(写真はイメージ)
  • 「加湿器」自体には問題はなく、「殺菌剤」が大きな被害をもたらした(写真はイメージ)

蒸気とともに吸い込み、肺胞を硬化させる「PHMG」

   加湿器は水を継ぎ足しながら使うため、清掃せずに放っておくと雑菌が繁殖しやすい。そこで殺菌剤を加湿器の中の水と混ぜ、蒸気にして出すことで菌を除去する効果がある。

   韓国で問題となったのは、オキシー・レキットベンキーザー社の「オキシー・サクサク」という殺菌剤だ。2011年までの10年間で450万個以上を売り上げた。「99.9%殺菌」「子どもにも安心」などとうたっていたが、2006年頃から人体への悪影響が疑われはじめた。妊婦や子どもが肺疾患で死亡する例が相次ぎ、韓国政府は同製品との因果関係を認め、2011年、同社に回収命令を出した。オキシー社は当初、製品の有害性を否定して対策を怠ったため、被害者の数は2016年5月現在、政府認定で221人、うち死亡者は95人にまで拡大してしまった。販売停止から5年後の2016年5月2日になってようやく、オキシー社が謝罪会見を開いた。遺族の怒りは収まらず、会見した同社代表に平手打ちをする者もいた。

   甚大な被害をもたらした原因は、オキシー・サクサクに含まれていた「PHMG」という化学物質だ。出てくる蒸気に混ざって空気中に飛散し、人が吸い込むと(1)気管周囲の炎症、(2)上皮の脱落、(3)肺の線維化・炎症――の症状が出る。特に脅威なのは(3)だ。肺胞を硬化させて肺の収縮・拡大を妨げ、呼吸困難に陥る。最悪の場合、死に至る。

   日本呼吸器学会所属で、呼吸器内科が専門の大谷義夫・池袋大谷クリニック院長は5月6日付の「日テレNEWS24」の中で、「PHMGは消毒薬や農薬に使われるが、加湿器の水の中に殺菌剤・消毒剤として入れるのはあり得ない。考えられない」と断罪している。

   5月9日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)に出演した科学ジャーナリストの寺門和夫氏は、「オキシー・サクサクの被害者はもっといるかもしれない。肺にPHMGが蓄積し、免疫力が弱い人から症状が出たのではないか」と、吸引から発症までに時間差があることを指摘した。韓国の被害者団体は、死傷者は1500人以上いると主張している。

   厚生労働省の発表によると、オキシー・サクサクは日本では流通しておらず、加湿器殺菌剤による同様の被害は発生していない。ただし、加湿器殺菌剤は日本にも存在する。大丈夫だろうか。

浴室洗剤や柔軟剤に使用もごく微量、人体への影響ない

   韓国での事件を機に、日本の加湿器殺菌剤メーカー・UYEKI(大阪市)には問い合わせが殺到し、公式ホームページで「韓国で事故を起こした問題となる成分は一切使用しておりません」「安全性が高く安心してご使用いただける製品です」というメッセージを掲載するまでになった。もちろん、製品にPHMGは一切入っていない。

   前述の「モーニングショー」では、PHMGが含まれている国内製品として、一部のメーカーによる浴室洗剤、柔軟剤、ウエットティッシュを列挙した。このうち、あるメーカーの浴室洗剤のPHMG濃度は0.1%だった。体内に入った場合に半数の人が死亡する量、いわゆる「半数致死量」は、濃度0.1%のPHMG水溶液の場合は51キログラム、水量に換算して51リットルを一気に飲んだ場合だ。現実的には起き得ないと言えよう。気化する温度も250度と、家庭で一般に使用するにはおよそ達しえない高温のため、人体への影響はないと判断しているという。

   寺門氏は「製品に含まれる化学物質は微量。皮膚についたり飲み込んだりしても、代謝・分解されて無くなってしまう程度のレベルです」と指摘した。

   また、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律(家庭用品規制法)」は、住宅用洗剤や衣料品といった生活用品に含まれる有害な化学物質を規制し、健康被害を防止している。規制の基準は厚生労働省令で定められ、個別の物質ごとに審査される。2016年5月現在、規制物質の数は20だが、基準違反のおそれがある家庭用品に対しては事業所や工場への立ち入り検査・関係者への聞き取り調査を実施し、違反が認められれば回収・販売停止命令を出し、原因の化学物質を新たに規制することができるようになっている。