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主要紙の社説、キレイに真っ二つ 「高浜原発40年超OK」への賛否

   運転開始から40年を超えた関西電力高浜原発1、2号機(福井県)の運転が延長されることになった。東京電力福島第1原発事故を受け、原発の運転期間は原則40年とされ、原子力規制委員会が認めた場合は最長20年間延長できるというルールになった。規制委は高浜1、2号機について2016年2月に安全審査の合格証にあたる「審査書案」を了承、6月には運転延長を認可した。新ルールで初めてのことだけに、賛否の論争が続いている。

   運転開始から40年になる老朽原発はこの間、関西電力美浜1、2号機(福井県)や九州電力玄海1号機(佐賀県)、伊方1号機(愛媛県)など6基の廃炉が決まった。いずれも出力が30万~50万キロワット級の小規模な原発。これに対し、高浜1、2号機は100万キロワット級で、この後、美浜3号機の延長も認められる見通しになっている。

  • 高浜原発1、2号機の運転延長をめぐる各紙の反応は…(写真は関西電力公式サイト)
    高浜原発1、2号機の運転延長をめぐる各紙の反応は…(写真は関西電力公式サイト)
  • 高浜原発1、2号機の運転延長をめぐる各紙の反応は…(写真は関西電力公式サイト)

小規模原発は廃炉、大規模は延長という流れ

   運転延長が認められるためには、開始から40年経過するまでに、新規制基準に基づく安全審査に合格し、設備の詳細に関する書類の確認、設備の劣化を調べるなどの審査をクリアする必要がある。合格するには、燃えやすい電源ケーブルを燃えにくいものに取り換えたり、原子炉格納容器上部の遮蔽(しゃへい)性を高めたりするなど、1基1000億円規模の対策が必要になる。このため、ある程度の出力でないと、費用を投じて延長する経済的メリットがないため、小規模原発は廃炉、大規模は延長という流れができているわけだ。

   高浜1、2号機の延長についてはマスコミも大きく報じているが、全国紙などの社説をみると、各紙のスタンスの違いがクッキリ表われている。

   「反原発」の論陣を張る「東京」・「中日」(6月21日)は、3.11後、安全対策に巨額の費用がかかることから老朽原発廃炉が世界の潮流になっていると指摘したうえで、関電が、ケーブルの6割を燃えにくいものに替えるだけ、あとは防火シートで包むという「簡易型」の対策で延長を申請し、規制委も了承したことをやり玉に挙げ、「『より厳しい審査を経て』という大前提はのっけから骨抜きだ。延長容認の基準は『安全性』ではなく『経済性』、3・11の教訓はもうほごか――。このように受け取られてもやむを得ない判断だ」と切り捨てる。

   「朝日」は4月、そして6月21日と、繰り返し取り上げ、明確に「認可に反対する」と宣言。電気ケーブルの火災対策のほか「運転延長後の耐震性を推定するために格納容器内の重要機器を実際に揺らす試験も、対策工事後に回して認可した」と規制委の対応を批判。

地元紙は「国民理解は一層厳しい状況だ」

   「規制委が安全と判断した原発は再稼働していく」と言う安倍政権の姿勢への批判も強い。「朝日」は、「規制委によりかかりながら、原発依存度低減という国民への約束をなかったことにするのは許されない」と主張(6月21日)。「毎日」は「審査書案」了承段階の2月25日に取り上げ、政府が原発依存を低減していくと公約し、そのために40年廃炉ルールができたことを指摘したうえで、これを守って廃炉にしていけば2030年度の電源構成で原発比率は15%程度となる計算なのに、安倍政権が20~22%と想定していることを批判し、「高浜の延長は、矛盾を抱えた政府のエネルギー政策の追認となる」と指弾する。

   「毎日」は6月には社説で取り上げていないが、5月4日の「社説を読み解く」の欄で論説副委員長が「なしくずしの例外認定、『40年廃炉』の原則守れ」などと、熊本地震との関係を中心に、老朽原発延長を含め原発の在り方を問うている。

   高浜原発の地元県紙「福井新聞」(6月21日)も紹介しておこう。「震度7が連続発生した熊本地震を機に地震想定の見直しを求める声も高まっている。国民理解は一層厳しい状況だ」と指摘し、規制委の対応について「審査の時間切れによる電力側の圧力を懸念したのだろうが、原発推進の政府への配慮もちらつく。......『合格ありき』の審査に一部委員から『認可後の試験で基準を満たせなかった場合、社会的な信頼は得られないのではないか』という意見が出たのも当然」と、強い疑念を突き付けている。

「熊本地震による新たな地震への懸念」への視点

   一方、「読売」「日経」「産経」は支持の論陣を張る。3紙に共通するのは、2030年度に電源構成の原発比率を20~22%とする政府方針の実現に一歩近づいたという認識で、「この数字は運転40年超の原発が一定数再稼働することが大前提」(「日経」6月21日)であることから、「日本のエネルギー構成のあるべき姿に向かう、確かな前進だ」(「産経」6月24日)と歓迎、「読売」(6月21日)は「その達成(20~22%)には、運転延長だけでなく、原発の新増設も検討すべきだ」と踏み込む。

   特に「産経」は「高経年原発を老朽原発とみなす誤解の解消も必要だ。この思い込みが世の中に満ちている。原発の設備の大部分は、定期検査の際に新品に交換されているので、老朽化の心配はなじまない」と、原発への世論の懸念をも一蹴する。

   もちろん、「地元の理解を得ることも、再稼働に欠かせない条件である」(「読売」)、「基準は原発の安全性を確保するための最低限の対策であり、長期の運転で機器が劣化しないかなど課題も残る。......基準で定められた以外の安全策の積み重ねが欠かせない」(「日経」)と、慎重な対応も求めているが、熊本地震による新たな地震への懸念などには3紙とも触れていない。