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本で「もろちん」セーフです もちろん、校閲の見逃しです

   出版社の校閲部を舞台にしたドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)の放送が始まり、文章の不備や誤りを正す「校閲」の仕事に注目が集まっている。そんな中、インターネット上では、校閲担当の綿密なチェックをくぐり抜けて世に出た「ユニークな誤植」が話題になっている。

   その誤植とは、本来は「もちろん」(勿論)と表記すべき箇所が、誤って一字入れ替わってしまった「もろちん」というフレーズだ。ネット上では「笑ってしまった」「モロなのにばれなかったんだ...」と面白がる声が相次いでいる。

  • プロの校正者なら、もちろん見逃すはずはないというが・・・
    プロの校正者なら、もちろん見逃すはずはないというが・・・
  • プロの校正者なら、もちろん見逃すはずはないというが・・・

「読んだはずなのにもろちん気が付かなかった」

   「もろちん」という誤植がネットで話題を集めるきっかけとなったのは、ミステリ作家の石持浅海さん(49)が2016年10月11日未明に投稿したツイートだ。

   石持さんは、「最近校閲さんの話題で盛り上がっていますが、作家、編集、校閲のすべてのチェックをくぐり抜けた僕の本を紹介しましょう」と前置きした上で、

「もろちん、岩男さんが知花を深く愛して・・・(後略)」

という文章を写した書籍のページ写真を掲載した。14年3月に単行本が発売されたミステリ小説『二歩前を歩く』(光文社刊)の一節で、「もちろん」と表記すべき箇所が「もろちん」になっている。

   石持さんは続くツイートで、「僕はかな入力なので、『おねがいします』を『おねがいましす』と打つことはけっこうあるのですが、それでも、これは......」と呆れたような一文を綴っていた。

   「もろちん」の誤植を紹介した投稿は、11日17時時点で3万回以上リツイート(拡散)されるなど大きな注目を集めており、ネット上では「思わず笑った」などと面白がる反応が目立つ。ツイッターやネット掲示板には、

「しばらく睨みつけて......気付いた時は、大爆笑」
    「公然たるもろちんを見逃す脳内補完の恐ろしさ」
    「モロなのにばれなかったんだ...」

といった書き込みが数多く寄せられている。そのほか、本の読者からも「読んだはずなのにもろちん気が付かなかった」「この本持ってるのに今の今まで気付かんかった」といった投稿が出ていた。

「まず見落とすことはありえない」

   今回の石持さんのケースだけではなく、「もろちん」という誤植が書籍に掲載されたことは過去にも複数回起きている。俳人の草野時彦氏が1981年に発表した『俳句十二か月』(角川選書)という書籍にも、

「季語はもろちん、初電話・・・(後略)」

という誤植が見つかる。また、経営コンサルタントの岡林秀明氏が2008年に発表した『最新内部統制の評価と監査がよ~くわかる本』の中でも、内部統制報告書の書き方を説明する中に、

「代表者はもろちんですが・・・(後略)」

という誤植があった。どちらも、たった一字が入れ替わるだけで、文章の意味が大きく変わっている。

   だが、校閲者が文章を何度もチェックしているにも関わらず、なぜ「もろちん」のような派手な誤植が出てしまうのだろうか。校閲者や編集者を養成する「日本エディタースクール」の担当者は16年10月11日のJ-CASTニュースの取材に対し、

「初歩的な校正ミスでしょう。プロの校正担当であれば、まず見落とすことはありえないと思います。『も』『ろ』『ち』『ん』と一字ずつチェックせず、一般の読者と同じように単語を追ってしまうから気がつかないんですよ」

と説明する。今回のようなチェック漏れが出てしまう理由については、(1)締め切りの問題で校正に十分な時間がとれない場合(2)校正・校閲の専門部署を置かず、編集者だけが原稿をチェックする出版社の場合――の2点が可能性として考えられるという。

   ただ、担当者は「誤植が1つもない本というのはほぼありません」とした上で、

「仮にミスがこの1か所だけならば、私は校正した人を責める気にはなりません。誤字脱字の内容よりも、1冊の書籍の中で誤字をどれだけ少なくできるかの方が重要ですから」

と話していた。