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【男と女の相談室】平幹二朗の命を奪った風呂場の事故 元気な高齢者ほど突然死する

   シェークスピア劇をはじめ、舞台やテレビで重厚な演技を見せた俳優の平幹二朗さんが死去したことが2016年10月23日、わかった。享年82。10月24日、大手メディアが一斉に報道した。それによると、一人暮らしの平さんと連絡がつかないことから、長男で俳優の平岳大さんが東京都世田谷区の自宅を訪れたところ、浴槽で心肺停止状態の平さんを発見した。

   死因は不明だが、警視庁北沢警察署は事故死としている。高齢者が浴槽で急死する事故は「ヒートショック」として知られ、年間約1万4000人が命を落としている。交通事故の3倍以上で、冬場に最も多くなる。これからの季節、どうしたら防げるだろうか。

  • 温泉など大勢がいるところで入浴したい(写真はイメージ)
    温泉など大勢がいるところで入浴したい(写真はイメージ)
  • 温泉など大勢がいるところで入浴したい(写真はイメージ)

白川由美さん、中村獅童の母親も浴槽で急死した

   平さんは2016年10月に放送中のフジテレビのドラマ「カインとアベル」で、主人公の祖父役で出演中だった。10月24日付サンケイスポーツ紙によると、撮影では、「体調が悪いどころか、むしろ元気そうだった」(番組関係者)という。9月から10月9日まで舞台『クレシダ』に主演し、2017年3月には舞台「死の舞踊」に出演予定だった。健康面では、1987年に肺の良性腫瘍の手術を受けた以外は、特に問題はなかったという。

   風呂場での急死は、2016年6月14日、俳優の故二谷英明さんとのおしどり夫婦で知られた女優白川由美さん(享年79)も自宅浴槽で倒れているのを発見された。心肺停止状態だった。6月15日付スポーツニッポン紙によると、白川さんも直前まで元気で、体調不良を訴えることもなく、通院もしていなかった。歌舞伎俳優中村獅童さんの母親、小川陽子さん(享年73)も2013年12月17日、自宅浴槽の中で死去しているのを発見された。同年12月18日付日刊スポーツ紙によると、中村獅童さんが「(2か月前に)母が重い鏡台を担ぎながら非常階段を上がる姿を見たことが目に焼き付いている」というから、直前まで元気だったようだ。

風呂の中で血圧がジェットコースター状態に

   このように、元気な人が風呂場で突然死去する「ヒートショック」とはどんな病気なのだろうか。実は、元気な高齢者ほど1人で入浴できるため、逆に風呂場で倒れても気づかれない場合が多く、危険なのだ。東京都健康長寿医療センター研究所のウェブサイトの「高齢者の入浴事故はどうして起こるのか?」では、ヒートショックのメカニズムをこう説明している。

(1)入浴事故の約8割は、1人で入浴している元気な健康高齢者で起きており、もし入浴中でなかったら死亡せずにすんでいる。
(2)米国のようにシャワーですませる習慣がなく、ゆったりと浴槽につかってリラックスする日本人の入浴習慣が突然死の2つの原因を生んでいる。「温熱作用」と「水圧作用」だ。
(3)「温熱作用」とは、寒い脱衣所から暖かい浴室に入り、さらに熱いお湯につかり、そしてお湯から外に出る行動が、体温を急速に変化させること。寒いと血管は収縮、温まると拡張し、入浴中に血圧がジェットコースターのように急上昇、急下降を繰り返すため脳梗塞や心筋梗塞の引き鉄になりやすい。
(4)特に寒い浴室から熱いお湯につかると、血圧は4~5分で30%近く低下し、極端な低血圧になる。「意識障害」「湯のぼせ」「湯あたり」が生じ、気を失ってお湯の中で溺れる危険が高まる。
(5)「水圧作用」とは、浴槽の中では水圧が働いていること。足はポンプのように血液を心臓に戻す重要な役割があるが、お湯の中では深いところに位置するため、水圧が加わり、足から心臓に送られる血液量が増える。ところが、胸の部分もお湯の中にあると、水圧のために胸囲が縮小し胸郭が圧迫されるため、横隔膜が上に挙がる。
(6)このため、心臓から肺に送られる血流が抑えられるので心臓の負担が増加する。つまり、足から送られてくる血流が増えるのに肺に出ていく血流が減るため、心臓がパンパンに膨らむ。半身浴では、このような心臓の負担は小さくなる。

お湯の温度設定を41度以下にしよう

   こうして、心臓発作が起こりやすくなるのだ。それでは、高齢者が入浴する時は、どういう点に気をつければいいのだろう。同研究所のウェブサイト「入浴時の温度管理に注意してヒートショックを防止しましょう」の中では、次の6つのポイントを上げている。

(1)脱衣所や浴室、トイレに暖房器具を入れたり、断熱改修工事を行なったりして暖める。高齢者の一人暮らしの場合は、浴室をユニットバスに改修すると、断熱性が向上する。
(2)高い位置にセットしたシャワーから浴槽にお湯はりをすると、浴室全体が暖まる。湯沸しの最後の5分を熱めのシャワーで給湯しても効果があがる。
(3)夕食前、日没前に入浴する。できれば14~16時の間に入浴すると、寒くないし、生理機能が温度差に適応しやすい。
(4)お湯の温度設定を41度以下にする。42度以上にすると、血圧の変動が大きくなる。
(5)1人の入浴を控える。可能な限り、家族により見守りや公衆浴場、温泉などを活用しよう。
(6)食事直後、飲酒時の入浴を控える。血圧が上がりやすくなるからだ。