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虚偽の募金会見にダマされたマスコミ 掲載・謝罪したのは、あの新聞社と...

   小学校1年のおいが重い心臓病を患いアメリカで移植手術を受ける事になったため募金をお願いしたい、という記者会見が2016年11月8日に厚生労働省記者クラブで開かれ、複数の新聞が記事にしたが、会見の内容は全くの嘘で、カネ目的の芝居だった。

   会見を仕切った幹事会社は読売新聞。同紙は警視庁に情報提供するとともに、担当記者らの懲戒処分を検討している、と発表した。それにしても、なぜ騙されることになったのだろうか。

  • 児童に心臓の疾患は無かった(画像はイメージ)
    児童に心臓の疾患は無かった(画像はイメージ)
  • 児童に心臓の疾患は無かった(画像はイメージ)

ネットでは「うさんくさい」の声

   嘘の会見内容を記事にしたのは読売新聞、産経新聞。共同通信の配信を受け掲載した長崎新聞などの例もある。他に一部のテレビ局も報じた。

   元々の記事は、「拡張型心筋症」を患う6歳の小学生男子がロスアンゼルスで心臓移植をすることになり、1億5000万円を集めるため36歳の叔母が「りたくんを救う会」を立ち上げ、11月8日に厚労省で募金を呼びかける記者会見を開いた、というもの。現在児童は補助人工心臓を装着し、入退院を繰り返し、寝たきりで小学校に登校できない、として、読売新聞は児童の写真と「救う会」の連絡先とホームページアドレスも9日付の朝刊東京版に掲載した。

   そして10日、読売新聞と産経新聞は記者会見の内容は虚偽だったとし、謝罪と記事の削除を発表した。問題の児童は心臓に疾患は無く、元気に小学校に通っている。記者会見の記事を知った両親が9日にメディアの取材に答えたもので、「救う会」といった活動も知らされておらず、弁護士を立てた。おばも嘘を認め、

「会見はウソで、お金が目的だった。借金があった」

などと語っているという。

   実は、この記事が出た段階で、ネット上ではおばがやっている活動を疑問視する声が多く出ていた。「救う会」のホームページが存在していて、集めたお金の使用用途が記されているが、渡航費が4500万円(チャーター機、航空券、救急車搬送費) となっていて他の同じようなケースでは1000万円程度のため、カネをかけ過ぎであり、全体的にうさんくさいという声が挙がっていた。また、国内移植待機者も疑問視し、「拡張型心筋症補助人工心臓体験記」の「Satoru Ishii」さんは同ホームページで、

「救う会のあるべき姿より外れている」

と論陣を張った。

   まず、「救う会」のホームページには会の所在地が記されていないし規約も存在しないため、これを詐欺と感じる人もいるはずだし、親族が代表になることはない、とした。また、記事には「補助人工心臓を装着」と書いてあるが、この装置は大きいため装着したままでの移動は難しく、そもそも退院できるはずはない。そして、臓器移植に関して組織や医療関係者、ドナーなど多くの人たちが普及のため努力をし続けて来たのに、今回のような怪しげな発表が出てしまったことに、

「長きに渡り努力されてきた方達の行いが無になってしまうのではないかと懸念してなりません」

と訴えた。

「これを報じて大丈夫なのか?という感覚」が...

   さて、どうしてメディアは嘘を見抜けなかったのか。まず会見について、J-CASTニュースが11月10日に厚労省の報道担当に話を聞いてみたところ、会見には厚労省主催のものと、記者クラブが独自に依頼を受けて開催するものがあり、今回は後者だと説明した。会見を担当したのは読売新聞だった。会見にはおば1人が出席し、記者に資料を配って説明した。

   読売新聞のニュースサイト「YOMIURI ONLINE」(11月10日)には謝罪文が掲載されていて、会見に至る経緯はまず、11月1日に「難病のおいに米国で手術を受けさせるため、その子の親と一緒に、募金を呼びかける記者会見をしたい」という申し込みがあり、それを受けた。担当記者は会見内容と配布されたチラシなどを基に記事を執筆し、9日朝刊の都内版に記事を掲載した。ほかの一部の新聞、テレビも同内容を報道した。しかし、9日午前に男児の祖母から同紙に「記事は事実ではない」と指摘があった。担当記者は、男児本人や両親への取材はしておらず、チラシに掲載された男児の生年月日と、HPの生年月日が違うのにも関わらず虚偽に気づかなかった、とし、

「警視庁に情報提供するとともに、都内版の記事を削除し、ヨミウリ・オンラインにアップした同じ記事も削除するなどした。本紙は、担当記者らの懲戒処分を検討している」

と書いている。

   記事にしなかったメディアもあり、その差についてJ-CASTニュースが厚労省の報道担当に質問したところ、今回の件は厚労省の管轄ではない、としたうえで、

「これを報じて大丈夫なのか?という感覚を持てたかどうかの差ではないでしょうか」

と話していた。

   会見を通じて誤報が出た例では、群馬県太田市が16年9月26日に市の記者クラブで、パリで行われた格闘技ゲームの世界大会で市の臨時職員が優勝したとの発表が記憶に新しい。この臨時職員はパリにすら行っていなかった。ゲームが上手いと周りにおだてられ、虚偽の報告をしてしまったことが原因だった。この時は地元の上毛新聞と朝日新聞の地方版が発表を信じて誤報を流した。