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経産省若手の提言「ヤバイ感がすごい」 「2度目の見逃し三振は許されない」

   「2度目の見逃し三振はもう許されない」。経済産業省の有志チームが、日本社会の課題について65枚のスライドにまとめた資料の表現が話題になっている。

   他にも「『昭和の人生すごろく』のコンプリート率は、既に大幅に下がっている」「子ども・若者の貧困を食い止め、連鎖を防ぐための政府の努力は十分か」など、従来の「お役所仕事」とは一線を画した表現で問題提起の文言が並ぶ。資料に目を通したツイッターユーザーの間でも「経産省のpdfから伝わる鬼のような緊迫感」と大きな関心を持たれている。

  • 「次官・若手プロジェクト」チームが作成・公表した「不安な個人、立ちすくむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」(資料は経済産業省の公式ウェブサイトからダウンロード)
    「次官・若手プロジェクト」チームが作成・公表した「不安な個人、立ちすくむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」(資料は経済産業省の公式ウェブサイトからダウンロード)
  • 「次官・若手プロジェクト」チームが作成・公表した「不安な個人、立ちすくむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」(資料は経済産業省の公式ウェブサイトからダウンロード)

「今後は、人生100年、二毛作三毛作が当たり前」

   経産省の資料とは「不安な個人、立ちすくむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」。2017年5月18日に開かれた同省設置の産業構造審議会第20回総会で配布され、省ウェブサイトで同日公表された。

   作成したのは経産省の20代~30代の若手有志30人で構成される「次官・若手プロジェクト」チームだ。資料冒頭に、同プロジェクトの趣旨は「国内外の社会構造の変化を把握するとともに、中長期的な政策の軸となる考え方を検討し、世の中に広く問いかけることを目指す」と説明がある。

   資料では、少子高齢化や人口減少が進み、個人の価値観も変化してきた日本は「人生選択の機会の増加」や「社会制度の変革」を目指すべきではないかといった内容を独自の表現で訴えている。

   たとえば「夫は定年まで外で働き、妻は家を守る」といった価値観は1960年代の高度経済成長期に形作られたものであり、同省の試算によると現代では薄れているとして、こう表現している。

「『サラリーマンと専業主婦で定年後は年金暮らし』という『昭和の人生すごろく』のコンプリート率は、既に大幅に下がっている」
「今後は、人生100年、二毛作三毛作が当たり前」

「官僚たちの夏は終わっていなかったのか」

   一方で、現実は「『昭和の標準モデル』を前提に作られた制度と、それを当然と思いがちな価値観が絡み合い、変革が進まない」とし、「多様な生き方をしようとする個人の選択を歪めているのではないか」と訴える。こうした問題の背景として「みんなの人生にあてはまり、みんなに共感してもらえる『共通の目標』を政府が示すことは難しくなっている」などと政府に対しても厳しい評価をしている。

   これからは「団塊の世代」が75歳を迎える2025年を目処に新たな社会を作り上げる必要性を説き「逆算すると、この数年が勝負」とする。同時に、おおよそ1970年代生まれの「団塊ジュニア」を対象に「効果的な少子化対策を行う必要があった」が「今や彼らはすでに40歳を超えており、対策が後手に回りつつある」と遅れを指摘。同じことを繰り返せない旨を「2度目の見逃し三振はもう許されない」と表現している。

   こうした独特のフレーズや物言う姿勢は、ツイッター上でも大きな注目が集まり、

「経産省のpdfから伝わる鬼のような緊迫感」
「資料の『なんとかしないとヤバい感』がすごい」

といった投稿が相次ぎ、19日夕現在、リツイートや「いいね」が3万件に達する投稿もある。

   また、中には、経産省の前身・通商産業省の官僚が既得権益にとらわれず国の発展に尽力する姿を描いた城山三郎の小説『官僚たちの夏』を想起するユーザーもいて、

「官僚たちの夏は終わっていなかったのか」
「通産官僚たちの夏が、この夏再び到来するのか!?」

「『分からない、伝わらない』というこれまでの役所仕事ではダメだと」

   資料をまとめた経産省政策審議室の担当者は19日、J-CASTニュースの取材に対し「省庁内に限らず、国民、企業、メディア、学生など、あらゆる立場の方々に、日本の今後に対する問題意識を抱いてほしいという思いで作成しました」と話す。

   有志30人は「普段のポジションでは発信しづらい考えを素直に出そうというスタンスで集まったメンバーです」といい、2016年9月ごろから、日常業務を行いつつ「朝や夜など空いた時間を使って少しずつ議論を重ねました」と担当者は明かす。

   表現については「『分からない、伝わらない』というこれまでの役所仕事ではダメだと思い、どうすれば本当に伝えたいことを伝えられるかを意識した結果、自然とああいったやや尖った表現、ストライキングな文言につながっていきました」という。政府にも要望を示しているのは「自己反省も込めています。それでも恐れずに声をあげなければ何も伝わらないし変わらないという考えです」と明かす。

   具体的な施策はあまり書かれていないが、「そうするとそればかりにフォーカスが当てられ、当初の目的である『問題意識の投げかけ』が薄れてしまうと思い、あえて『回答』は出しませんでした」との意図だ。同時に「今後多方面から意見が出ると思いますので、それらを踏まえて改めて具体的な施策づくりを含めた議論につなげたいと思っています」との展望を話していた。