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エスペラント語を話すヒロイン 美少女ゲームで利用者も「一緒に学習」

   国際共通語を目指して考案された人工言語の「エスペラント」を、物語の根幹部分に取り入れた異色の美少女ゲームが登場した。言語監修に協力したのは、一般財団法人「日本エスペラント協会」だ。

   なぜ、美少女ゲームにエスペラントを取り入れようと考えたのか。J-CASTニュースは、作品のシナリオを担当したライターのJ-MENTさんにその狙いを聞いた。

  • ゲームを通じてエスペラントを学習できる(画像はハブロッツ提供)
    ゲームを通じてエスペラントを学習できる(画像はハブロッツ提供)
  • ゲームを通じてエスペラントを学習できる(画像はハブロッツ提供)
  • 「ことのはアムリラート」メインビジュアル(同)
  • 主人公が覚えた単語はゲームに反映される(同)
  • 異世界キャラクターとの会話はエスペラントで(同)

「よく知る地元の風景そっくりなのに、日本語が通じない世界」

   ゲームのタイトルは『ことのはアムリラート』。かわいらしい女性キャラクター同士の恋愛を描く「純百合アドベンチャー」をうたっている。2017年8月25日発売予定で、価格は通常版で3800円(税別)だ。

   ストーリーは、主人公の女子高生・凛が「よく知る地元の風景そっくりなのに、日本語が通じない世界」へと迷い込む場面から始まる。この異世界で使われている言語は「ユリアーモ」。この異世界語のモチーフとなっているのが、エスペラントなのだ。

   主人公の凛は異世界で出会ったヒロインのルカと意思疎通を図るため、必死になって「ユリアーモ」(エスペラント語)を学習していく。ゲームの最大の特徴は、プレイヤーも凛と一緒になって「異世界の言葉を学んでいく」システムだ。

   作中で異世界キャラクターのセリフとして表示される「ユリアーモ」は、初期状態では和訳が出ない。物語の中で凛が言葉を理解できないのと同様に、画面の前のプレイヤーもキャラが話すセリフの意味が分からない仕様になっている。

   物語の合間に挿入されるミニゲーム形式のクイズなどを通じて、凛が「ユリアーモ」の言葉を学習すると、覚えた単語の和訳がゲーム画面上にも表示される。つまりは、プレイヤーと凛が同じ目線に立って、異世界で意思疎通を図るために言葉を学んでいくシステムになっているのだ。

1つのセリフを書くだけで20~30分

   同作に登場する異世界語の「ユリアーモ」の単語や文法は、すべてエスペラントそのものだ。ライターのJ-MENTさんは、今作の執筆前はエスペラントの初心者だったというが、辞書や教本を買い込んで猛勉強したという。

   なぜ、エスペラントを作中に登場する異世界語のモチーフとして採用したのか。その理由について、J-MENTさんは6月7日の取材に対し、

「中途半端に異世界の言語を作ると、必ずチープになります。それなら1から言語を作るような真似はせず、適切なモノを起用するのが良いと思いました」
「もちろん、日本から遠く離れた国の言葉でも可能ですが、それだと現実の世界で『その国を訪れること』で再現できてしまいます。再現できないからこその異世界を作り出すのであれば、『エスペラントが最もふさわしい』と考えたのです」

と説明した。

   ただ、執筆にあたっては事前の予想以上に苦労したという。今作では、主人公の凛(=プレイヤー)がエスペラントを「覚えているかどうか」で、作中のセリフに和訳がつくかどうかが決まる。この判断はプログラムで自動的に行うため、J-MENTさんは「和訳あり」「和訳なし」など複数のパターンのセリフを書き分ける必要が出てきた。

   さらに書くセリフの内容は、初心者だというエスペラント語。辞書や文法本を確認しながら書かなくてはいけない。そのため、1つのセリフを書くだけで20~30分くらいの時間がかかる場合もあったそうだ。

エスペラント部分の8割に「添削」が入った

   J-MENTさんが書き上げたエスペラントの文章はすべて、日本エスペラント協会から紹介を受けた藤巻謙一氏が言語監修を務めた。藤巻氏は文法本『はじめてのエスペラント』などの著作で知られ、同協会の認定講師に選ばれている。

   J-MENTさんによれば、エスペラント部分のおよそ8割に藤巻さんの添削が入ったという。前後のセリフとのニュアンスも含めてチェックして貰ったため、「限りなくエスペラントのネイティブが話す内容に近くなっている」(J-MENTさん)という。

   さらに、キャラクターの音声にもこだわった。エスペラントの発音をよりネイティブに近くするため、キャラクターの声優は英語が堪能な人を選んだ。加えて、音声の収録時にはエスペラント協会の担当者が立ち会って、声優と一緒に発音を確認する予定だという。

   こうした言語への「こだわり」を徹底した理由について、J-MENTさんは「実際に存在する言語を扱うので、生半可なことはできないと考えた」と話す。シナリオを書き上げた後の感想を聞くと、

「いつものことなのですが、『ここも直したい』『あそこも直したい』と思う事ばかりです。とくに今作は、言語を覚えながら書いたので、いまになって思い返すと『こう表現すればよかったなあ』と思う箇所がいっぱいありますね(笑)」

と話した。プレイヤーに向けてのメッセージを伺うと、次のように語った。

「言語を理解し、あとあと物語を振り返ったとき、『実はあのとき、ルカ(編注・ヒロインのこと)はこんなことを言っていた!』的なギミックも多く含まれておりますので、その辺りもスルメのように楽しんでいただければ幸いです」

エスペラント協会「発売が楽しみ」

   一方、エスペラント協会の担当者は6月7日の取材に対し、「私どもとしても、ゲームの発売を楽しみにしています」と期待を寄せる。続けて、

「こういう作品を通じて、エスペラントという言葉があることだけでも知っていただければ嬉しいです。その中で、エスペラントを学びたいという人が少しでも出てくれば、とても幸せですね」

とも話していた。

   なお、現在『ことのはアムリラート』の公式サイトはティザー状態だ(公式開設前の予告サイトのこと)。同作を販売するゲーム制作会社「ハブロッツ」の広報担当者によれば、本サイトの公開は6月12日の「エスペラントの日」にあわせて行う予定だという。