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「だんなデスノート」書籍化の狙いとは 「男性差別」批判に担当編集者は「想像外」

   「一刻も早く死んでほしい」「地獄へ連れて行って」――。こんな過激な書き込みが集まるウェブサイト「だんなデスノート」の投稿をまとめた書籍が、宝島社(東京都千代田区)から刊行された。

   書名は「だんなデス・ノート ~夫の『死』を願う妻たちの叫び~」。2017年10月27日の発売直後は、Amazonの本カテゴリの「家庭生活」部門で売上ランキング1位を記録するなど、その衝撃的な内容は大きな反響を集めた。

   一方、ツイッターなどでは、夫を徹底的に中傷する書き込みが並ぶサイトを本にまとめたことについて、「男性差別的ではないか」と問題視する意見もみられる。はたして、書籍化の狙いは何なのか。J-CASTニュースが、担当編集者にインタビューした。

  • 「だんなデス・ノート」(宝島社)
    「だんなデス・ノート」(宝島社)
  • 「だんなデス・ノート」(宝島社)
  • 衝撃的な書き込みがズラリ並ぶ

サイトの中身は「ある意味でエンタテインメント」

――「だんなデスノート」というサイトを書籍化された狙いは、何ですか。

「最大の理由は、このサイトがテレビや週刊誌などで取り上げられるほどの人気サイトだったからです。『妻たちが夫の悪口を書き込むだけ』というある意味、他人にとってはどうでもいいと思われるテーマが人気となった。これは、日本社会の縮図ではないかと思ったんです。夫の悪口に賛同する人がここまで多いなんて自分の想像外だった。自分も結婚しているので、妻の不平不満はよくわかっているつもりですが、『夫の死を願う』とは驚きでした。それに、『ゲス夫』たちの所業があきれる内容のものばかり。ギャンブル、借金、風俗に浮気......ある意味、『見世物』として成立すると思ったからです」
「知人から、自分の妻がこのサイトを見て溜飲を下げているという話を聞いたんです。『自分の夫はここまで酷くない、うちはまだマシなほうだ』と。このサイトを知らない人にも読んでもらえれば、救われる既婚女性がいるんじゃないかと思ったんです。ある種の『実用書』になるのではないかと」

――書き込みの内容は、かなり過激ですが...。

「ハッキリ言って、書き込みの内容は本当かウソかわかりません。こちらは投稿者に会って、一つひとつのネタの真偽を確認しているわけではありませんので。だから『だんなデスノート』というサイトは、ある意味で『エンタテインメント』だと思っているんです。書き込むほうも、サイトを見るほうにとっても」

――サイトを見て、「そんなに嫌だったら離婚すればいい」と思う人も多いようですが、どう思いますか。

「離婚することはそんなに簡単なものじゃないですよ。シングルマザーになれば経済的な問題も出てくるし、子どもへの影響もある。離婚できる人はこのサイトに書き込まないし、見もしないですよ。離婚したいけどできない、離婚に不安がある人たちの救いの場であるわけで。アマゾンの書評でも『嫌だったら離婚すればいい』と書いている人がいますが、おそらく未婚の人だと思います。一度、結婚して子どもをつくって家庭生活を営んでみてください。人生は思い通りに、予想通りにいくことばかりじゃないですから。これが夫婦の現実だったりもするわけです」

――どの書き込みを紹介するかについて、サイトの管理人(ハンドルネームは「死神」)と相談しましたか。

「編集サイドです。管理人は一切タッチしていません。おおよそ1万件の書き込みを全てチェックして、こちらで決めました。ピックアップの基準としては、内容のリアリティを重視しました。あとは、読者がビックリするようなもの。書き込みにはほとんど手を入れていません」

男性差別との批判は「想像外でした」

――書籍化にあたって、ツイッターなどでは「男性差別ではないか」と指摘する意見もみられます。

「その視点は、まったくありませんでした。はっきり言って1ミリもなかった。指摘を受けて、初めて気がつきましたね。内容が内容だから、嫌悪感を抱く男性はいるかと思いましたが、『男性差別』という批判は想像外でしたね」

――タレントのフィフィさんも、だんなデスノートの書籍化について、男女の立場が逆だったら大変なことになるという趣旨のツイート(11月1日付)をしていました。

「男女の立場が逆だったら、笑いにならないでしょう。なんで逆が成立しないかと言えば、笑えないからなんです。この本は、笑えるじゃないですか」

――もう少し詳しくお願いします。

「逆だったら、つまり『夫が妻の悪口を言うと笑えない』というのは結局、『奥さんがかわいそう』『妻をいじめるな』という感覚を、自分も含めて多くの日本人が持っているからでしょう。これは、まだ日本が男性上位の社会だからではないでしょうか。男女平等、機会均等と言いながら日本はまだまだ男性社会です。政府が『女性が活躍できる社会を実現しよう』なんて、いまさら言っているのはその証拠。そういう社会的合意があるから、この本は通用している。だから、もし立場を逆にした本を出したら、単なる弱い者いじめと言われてしまう。夫を批判することが、強い者いじめという構図だから、本にできたんだと思います」

――確かに、サイトで夫のことを「死ね」と罵っている女性も、離婚という選択肢を取れていないですよね。

「そうです。結局のところ、話を突き詰めれば『別れたらいい』となるんです。でも、それを選べない妻がいる。それは、シングルマザーが経済的に自立できないことが大きいと思います。こうしたサイトが存在すること自体が、現在の社会が抱える問題を浮き彫りにしているとも考えられます」

――もし、「妻デスノート」というサイトが存在して、書き込みが盛り上がっていたら、書籍化しますか?

「やるかもしれません。批判は覚悟で(笑)」

オススメ読者は「独身男性」!?

――サイトの管理人の方とは、直接お話をされましたか。

「書籍化にあたって話はしました。彼は『ただの悪口サイトにしたくはない』と言っていました。単なるガス抜きだけじゃなくて、女性にとって建設的なことができるサイトにしたいと考えているようでした。悪意や金儲けだけを目的にしたサイトだったら、本にはしていなかったかも。こうした管理人の考え、人柄に共感したのも大きかったですね」

――だんなデスノートという書籍を出版したことで、編集部に苦情などは届きましたか。

「『男性を差別しているのではないか』という内容の電話が数件ありました。でも言いたいのは、我々がやったわけじゃなくて、このサイトが元々存在したということ。我々は、それを本にして色々な人に紹介しているだけです」

――ちなみに、約1万の書き込みから、書籍化にあたって129件まで絞り込みをされました。編集作業は、どんな気分だったんでしょうか。

「編集作業の大半は別の担当者に頼んだのですが、彼は『憂鬱になった』と。もちろん私も。でも逆に、結婚を考えている独身の人たちは読んだほうがいいかも。夫婦生活に変な理想を抱かなくなるというか」

――若い女性にはどうなんでしょうか。

(インタビューに同席した宝島社の女性が)「私、結婚しているんですけど、だんなデスノートを読んで仕事は続けようと思いました。自立はしておかなきゃって。仕事を続けていれば、それが夫婦生活の不満のはけ口になるかなって(笑)」