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中国の外資系企業「共産党支部」 何をしようとしているのか

   「ドイツ企業が中国から集団撤退と脅迫 その原因は党支部にあり」と2017年11月30日に、環球ネットのWeChatはつぶやいた。

「11月24日、中国におけるドイツ企業の公的会員組織『中国ドイツ商会』が突然驚くべき声明を出した。それは、中国がドイツ企業に『党支部』の設置を強要してドイツ企業の管理層にまで侵入し、企業の意思決定に干渉しようとするのならば、ドイツはすべての自国企業を中国から撤退させる、というものだ」
  • 中国ドイツ商会HPのトップページ。11月24日の声明は載せていない
    中国ドイツ商会HPのトップページ。11月24日の声明は載せていない
  • 中国ドイツ商会HPのトップページ。11月24日の声明は載せていない

3人以上の党員で支部設置できる

   この環球ネットのつぶやきには「この声明が出される数日前の11月17日、ドイツの駐中国大使が凄まじい剣幕で、一部の在中国ドイツ合弁企業が『圧力』に晒されていると訴えていた」とのくだりもあった。

   日本の経済紙もかつて、中国における企業内での共産党支部の設立について懸念する報道をしたが、それはほとんど注目されず、環球ネットのつぶやきが出てから、やっと中国世論も取り上げるようになった。 中国の『企業法』第19条では、「一企業に正規の共産党党員が3人以上在籍する場合、党支部を設置できる」という条項がある。ただし、外資系企業に党支部を設置することは中国の法律が定める「権利」に合致しているが、注意すべき点としてそれはあくまで「権利」であり、「義務」ではないという点だ。

   この「つぶやき」のあと、環球ネットの記者は、あらためてドイツ商会を取材した結果をWeChatで明らかにした。

「我々の(中国ドイツ商会に対する)取材では、党支部を有するドイツ企業においてさえ、企業経営に関して党支部からの干渉を受けたことなどない」
「我々はさらに他の幾つかの外資系合弁企業に対して、ドイツ大使が表明している『党員を管理層に加えるように会社定款の変更すること』で『圧力』を受けたかどうかを尋ねてみたが、得られた回答は『そのような圧力は存在しない』というものだった。また、そのうちのある日系企業は、『ずっと前から社内に党支部は存在するが、そのような圧力を受けたことはない』とのことだった」

   外資系企業の党支部が経営には干渉していないということを言いたかったようだ。

「企業内部の党組織が本来の力を発揮できるよう...」

   そもそも中国ドイツ商会が発表した英文声明の原文がどう書かれているのか。原文は「ドイツ企業に中国から資本を撤収させるという考えも排除できない」というものだが、これに対して環球ネットのつぶやきは、この部分を「ドイツ企業がすべて中国から撤退する」と解釈したようだが、意味合いは大きく異なる。

   今回の争点は「外資系企業内に党支部を設置する必要があるかどうか」ではなく、「党支部が外資系企業の経営権に干渉したかどうか、干渉するかどうか」という点だ。

   現在に至るまで、党支部が外資系企業の経営権に干渉したという事件は、少なくともメディアによって取り上げられたことはなかった。

   一方で、米国の『ウォールストリート・ジャーナル』に17年10月30日に掲載された『中国における外資系企業の新たなパートナー:中国共産党』と題する記事では、「今年7月、中国EU商会と企業7社の高級幹部が会見したが、その際、これらの企業はみな党組織がより影響力を帯びている様相に直面していた。ある消息筋の話によると、多くの企業の中国側合弁パートナーは、企業内部の党組織が本来の力を発揮できるよう合弁協約の改正を求めている」と言及された。

   しかし、『企業内部の党組織が本来の力を発揮する』とあるが、それは一体どんな力なのか。現実に企業の経営権に干渉するものなのか、その詳細は分からない。

「補助的なヒューマンリソース部門」

   『ウォールストリート・ジャーナル』が多くの在中国外資系企業を取材したところによると、企業内部の党組織に関して在中国外資系企業が困惑している点は主に以下のような内容だ。

「党員は仕事の時間中に会合を開けるかどうか、企業内で会議を行えるか、党員に休暇を与えて党の活動に参加させるべきかどうか」
「外資系企業は職員の給料を秘密にする伝統があるが、党費は党員の給料をベースに算出されるために党費の計算が困難になっていること」

   『ウォールストリート・ジャーナル』の報道はさらに、「一部の外資系企業が懸念しているのは、時間が経過するにつれて、党員の職員が企業の経営意思決定に対する影響力を得る、または別の権力の一大勢力となる可能性があることだ」と述べている。ただ、これはあくまで懸念であって事実ではない。

   本当に海外企業において党支部による経営への干渉が起きたら、改革開放以降ずっと尽力してきた財産権制度や現代企業制度及び国際的な共通ルールに沿った会社法制度などをないがしろにすることになる。

   中国国務院新聞弁公室は『ウォールストリート・ジャーナル』からの関連する質問に答え、共産党は民間企業及び外資系企業において積極的な役割を果たしており、「補助的なヒューマンリソース部門に似ている」と表明した。同機関はさらに「党組織は政府の政策により企業の幹部層にアドバイスを提供し、企業の人材育成に加えて、企業と職員間の摩擦の解消を助ける」と語っている。

   だが、これは滑稽なことだ。なぜなら外資系企業は、党組織によるこれらのサービスは必要ないと感じているはずだからだ。必要としないのに、なぜ押し付けてくるのか。

   一時炎上した環球ネットのWeChatの「つぶやき」は、今は消えてしまい、インターネットでの転載しか見られない。

(在北京ジャーナリスト 陳言)