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「ハリルホジッチのまま行くべき」 都並敏史氏が語るW杯の勝ち方

   くすぶるヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任論、本田圭佑・香川真司ら中心選手の代表選外、韓国戦で露呈した国内組の脆さ――。FIFAワールドカップ(W杯)を2018年6月に控えるサッカー日本代表だが、「本当にこのままで勝てるのか?」という不安が拭えない。

   「選手が『ロボット』になっている」と指摘するのは、元日本代表不動の左サイドバックとして活躍した都並敏史氏(56)。ハリルホジッチ監督のままでいいのか。W杯同組のコロンビア、セネガル、ポーランド戦の「キーマン」は誰なのか。展望を聞いた。

  • 都並敏史氏(2018年1月23日、東京都内での今回のインタビュー時に撮影)
    都並敏史氏(2018年1月23日、東京都内での今回のインタビュー時に撮影)
  • 都並敏史氏(2018年1月23日、東京都内での今回のインタビュー時に撮影)
  • 都並敏史氏(2018年1月23日、東京都内での今回のインタビュー時に撮影)

W杯はハリルホジッチでいいのか?

――ロシアW杯はハリルホジッチ監督で臨むべきでしょうか。

都並敏史 根本的な考えとして、ハリルホジッチのままで行くべきというのが僕の意見です。今から替える必要はありません。W杯の出場経験(※14年ブラジルW杯でアルジェリア代表監督として16強入り)を持つ監督です。

僕はハリルホジッチを就任当初から一貫して評価してきました。少なくともベスト16を可能にすると信じたい。理由は、世界で勝ち点を取るには「ディフェンス」ベースの考え方を持った監督じゃないと厳しいというのが私の持論で、ハリルホジッチの根本にはその形がある。ディフェンスから素早くカウンターで仕留めるというのはアルジェリアでも結果を残しているし、真っ当な考え方だと思います。

――監督の考える戦術がチームに浸透しているかと言えば、不安も感じます。

都並 チームの熟成度に問題はありますが改善できます。僕がずっと言ってきたのは、「選手の戦術の消化具合が低い」ということ。ハリルホジッチはトルシエ(※日本代表監督として02年日韓W杯で16強入り)タイプの高圧的な監督で、「この戦術しか世界に通じない」という、はっきりしたものがあります。それ自体は悪いことではありません。

ただ試合になったら、監督のゲームプランがそのまま通用するか、そうじゃないか、15分刻みで90分の試合を分けてうまくいっているか、選手自身が考えないといけない。監督は分析の上で最も効果的な戦術を落とし込むけど、選手がその監督の形しか表現できない事態が起きています。

ハリルホジッチにできるのは監督としてのパターンづくりしかなくて、あとは選手たちがやるしかない。「上手くいかない時」に何をするかが大事で、別のプランを持っていないといけない。試合の中で監督に言われなくてもやる。強いチームは絶対そうです。

――実際、プラン通りにいかない時に選手が対応できなかった試合はありますか。

都並 最たる例は東アジアE-1選手権の韓国戦(※17年12月16日、国内組のみで戦い1-4の大敗)。完全におかしくなりました。国内組最高峰の今野(泰幸=G大阪)や昌子(源=鹿島)がいながら、あの前半ではいけない。監督がガミガミ言ったら、いくら状況に合わなくてもロボットのようにプレーしてしまう。

監督にも「もっと選手とコミュニケーションを取れよ」と言いたいですが、選手には「もっと強気に行けよ」と言いたくなります。監督のプランがうまくいかなかったら、無視して味方を怒鳴るとか「喧嘩」がないといけないのにそれもない。「個」が立たないと。言われたことを無理矢理やっている感じであれはダメです。ほぼ全員不合格です。

――選手が監督の言うことを聞くだけの「ロボット」化してしまっていると...。では、改善方法はありますか。

都並 選手はW杯メンバーの23人に入りたくてロボットになっています。23人が決まれば、選手ごとの立ち位置や役割がカチッと決まるので、全く違う日本代表が見えてきます。

これまでで良い形が見えたのは、ベルギー戦(※17年11月15日の欧州遠征)の前半。何度か良い守備でボールを奪いました。井手口(陽介=スペイン2部クルトゥラル・レオネサ)が焦った攻撃をしてしまっていましたが、彼が落ち着くとサッカーが全然変わってきましたよね。こういうのがもっとできると信じています。

ディフェンスの強さと、攻撃の落ち着き。最低限それがないと強豪には通用しません。ボールを取ったらカウンターか、ポゼッションか、その判断が今はまるっきりおかしいですが、これから落ち着くと思います。

基本のスタメン11人と、「絶対に入れないといけない」選手

――チームの鍵になる選手は誰ですか。

都並 キーマンは今あげた井手口。彼がハリルホジッチ・ジャパンの象徴だと思うんですよ。井手口、長澤(和輝=浦和)辺りが、ディフェンス面のハードさを持ちながら、中盤で速攻かポゼッションかの判断ができる選手。彼らのボール奪取能力がなければ強豪には勝てません。中盤2列目の選手の出来というのは大きい。それをコントロールするのは主将の長谷部(誠=ドイツ1部フランクフルト)の役なんですけどね。

――井手口は1月4日にG大阪からイングランド2部リーズへの完全移籍と、レオネサへの期限付き移籍が発表されましたね。W杯イヤーの海外挑戦は出場機会を失うリスクもあると言われますが、どう捉えていますか。

都並 僕は井手口のスペイン移籍に好意的です。スペインの選手がすごいのは、「監督の言うことは大事だけど俺の方が大事」という強気のメンタルがあるところ。選手と監督が同列にいるような関係です。こういう関係は海外で活躍している日本選手みんな感じているんじゃないですか。

井手口もそういう世界を見ることでメンタルが大きく変わり、攻撃面でプラスになります。ミスパスも、マルセロにミドルシュートでやられたクリアミス(※17年11月10日の欧州遠征・ブラジル戦で失点に直結した井手口のプレー)もなくなるんですよ。

――メンバー選考について伺います。ディフェンスがベースとなると、まずDFラインが重要になると思います。センターバックは吉田麻也(イングランド1部・サウサンプトン)のコンビが定まっていません。

都並 槙野(智章=浦和)、昌子、この2人だと思います。槙野は対人が強く、組織のバランスも取れるようになってきたし、サイドバックもできます。レッズではACLの上海上港戦(17年10月18日)でフッキ(元ブラジル代表FW)を完封し、代表でもベルギー戦は非常に良かったので評価を上げていると思います。

――ほかのポジションのメンバーはどうですか。

都並 GKは川島、DFは酒井宏樹(フランス1部・マルセイユ)、吉田、槙野、長友(佑都=イタリア1部・インテル)、MFは長谷部、井手口、山口(蛍=C大阪)、FWは浅野(琢磨=ドイツ1部・シュトゥットガルト)、大迫(勇也=ドイツ1部・ケルン)、原口(元気=ドイツ2部・デュッセルドルフ)だと思います。ここに久保(裕也=ベルギー1部・ヘント)、乾(貴士=スペイン1部・エイバル)が入って来る。縦に速い選手たちですね。

だけど、絶対に入れないといけないのは本田(圭佑=メキシコ1部・パチューカ)です。コンディションが戻ってきた。ビハインドの状況になれば攻めるしかない。ハリルのサッカーにおいては守備力で劣るけど、攻撃力は飛び抜けているから、プランBの意味でも絶対に必要ですよ。アウェーのオーストラリア戦(16年10月11日)前半で見せた「1トップ本田」は、ハリルの真骨頂だったと思います。すごく評価した。強豪だったらあれをやるしかないケースもあるわけです。

サッカーは速攻と遅攻の両方が大事です。ハリルは強豪と戦うために速いサッカーを急いで身につけさせたけど、それが必要ない場面ではゆっくり攻めればいい。そのメリハリが大事だけど誰もできないから、本田に任せるしかない。

――代表でのポジションが危うくなっている、香川真司(ドイツ1部・ドルトムント)や岡崎慎二(イングランド1部・レスター)はどうですか。

都並 香川は他の選手にない、狭いスペースで輝く良さを持ってるし、ここ最近は点を取れるようになったのでぜひ入れてほしいです。枠の兼ね合いで、柴崎(岳=スペイン1部・ヘタフェ)が調子を上げてくるかというのもあるし、香川はあまりユーティリティでないので使いづらいけど、「飛び道具」として置いておきたいですね。

岡崎は間違いなく良い選手です。でも、ハリルさんはカウンターから入ります。両ウィングに「矢」のように速い選手が必要で、そこに岡崎は入らないんですよね。ポゼッションするにしても、1トップにはポストプレーができる大迫が入ってきて、岡崎は裏へ飛び出すタイプだから得意ではない。

W杯、コロンビア・セネガル・ポーランド各試合のキープレーヤーは誰?

――W杯で戦う相手ですが、初戦はブラジルW杯で敗れたコロンビアです。日本はヨーロッパの強豪には時々良い勝負をする一方、南米には総じて弱いです。そのコロンビア相手に、少なくとも引き分けで勝ち点1を取るにはどうすればいいと考えますか。

都並 僕は南米サッカーに育てられた人間だから、南米とヨーロッパの違いをよく分かっています。南米サッカーは、とにかく「相手の逆をつく」ことが楽しい。リズムを変え、日本の知らない技術をやたら出してくる。ヨーロッパのサッカーは、「正直に早く正確に、思ったところへ」ボールを出していく。正直なので、意識さえしっかり持てれば実はディフェンスしやすいんですよ。僕はサントス(ブラジルのクラブ)とも、ユベントス(イタリア)やドルトムントとも対戦したことがあるけど、そういう印象です。

リズムを崩す南米のやり方に今の日本選手は弱いです。だからコロンビアに対しては、違うことをやってくるぞという予測と危機管理を常にしないといけません。

この試合のキーマンはゴールキーパーでしょう。とにかく予想外のことをしてくるから、どうしてもある程度攻められると思います。ゴールゲッターに良い選手(※FWハメス・ロドリゲスら)がいて、セットプレーもうまい。ゴールキーパーがツイてくれない限り、勝ち点1は取れないと思います。

――第2戦のセネガルはいかがですか。ハリルホジッチ監督は、同じアフリカのアルジェリア代表監督でした。

都並 サイドに世界レベルの選手(※右のFWマネ、左のFWケイタとニアングら)がいます。1対1ではなかなか抑えられない選手だからグループで守るしかなくて、ハリルホジッチ監督の真骨頂を出す場でしょう。アルジェリアの経験で、アフリカ人の弱点をよく知っているはずです。総じて、上手くいかない時に壊れます。そこを突く戦い方をしていけば十分勝ち点3ありますよ。

キープレーヤーとしては、ウィングの浅野や原口でしょう。サイドバックの酒井や長友を助ける守備をして、ボールを取ったら最前線の大迫に収めてキープ。それができれば相手はイライラしてくるのでセットプレーも取れます。攻撃を受け止め、敵陣に入っていけば、絶対に相手は疲れてリズムが崩れてきます。そうなれば面白いですね。

――第3戦は急激に力をつけたポーランドですね。どうしてもFWロベルト・レヴァンドフスキ(※W杯予選10試合16得点)が注目されます。

都並 ポーランドはレヴァンドフスキだけですよ。ディフェンスは大したことないです。全然チャンスありますよ。ただ、そのレヴァンドフスキを抑えるのが大変なんですけどね。

この試合のカギは吉田麻也だと思います。レヴァンドフスキはペナルティエリア(PA)に入ったら何をするか分からないんですよ。2人股抜きしてゴールとか平気でやってくる。経験上、そんな選手を90分間集中して止めるのは無理な話で、何人かで囲むのも難しい。

だから吉田が強気にディフェンスラインを上げてPAから出し、レヴァンドフスキをゴールから遠ざけることです。ポーランドは落ち着いてつなげたがるところがありますから、ラインを上げても裏を取られるリスクが比較的低い。

聞かなくなった「自分たちのサッカー」

――4年前に選手たちがよく言っていた「自分たちのサッカー」という言葉が、良い意味でなくなってきたように感じます。今の代表選手たちのメンタルについてどう感じますか。

都並 「横綱相撲」は取れませんからね。でも今のチームを見ていると、「自分たちのサッカー」が3~4割ないとダメですよ。まるっきり「監督さんのサッカー」になっちゃってる。「監督6:自分たち4」くらいのバランスが大事で、主張もしないといけません。

日本の選手はこだわりが薄くなってます。「俺が出るんだ」ってみんなが思って準備しないと。「謙虚さ」と「忠実さ」は世界一だからストロングポイントとして持っておいて、「図々しさ」が大事です。強豪ほどハングリーで「ずる賢い」。グラウンドの中だけ「嫌な奴」になってほしい。

カズ(三浦知良)はそういう人で、グラウンドの外では人格者、でもグラウンドではパスを出さずにシュートして外しても「ごめん」なんて言わないし、プライドの塊みたいな人ですよ。本田も若いころそうでした。

それが良いものを生むんだと思います。続けていけば強い相手にビビらないし、揺るがない自信となります。サッカーはとにかく自信がすべてを変えるんですよ。

【ロシアW杯グループリーグH組 テレビ放送日程】
日本 対 コロンビア 6月19日21時 NHK
日本 対 セネガル 6月24日24時 日本テレビ
日本 対 ポーランド 6月28日23時 フジテレビ


【都並敏史氏プロフィール】
   つなみ・さとし。ブリオベッカ浦安・テクニカルディレクター。サッカー解説者、指導者(日本サッカー協会公認S級ライセンス)。1961年8月14日、東京都生まれ。
   選手時代のポジションは主に左サイドバック。1980年から読売サッカークラブ(後のヴェルディ川崎、東京ヴェルディ)に入団。Jリーグ黎明期のヴェルディ黄金時代を築いた。日本代表には1980年に当時19歳でデビューし、通算157試合出場、2得点。1998年の引退後はベガルタ仙台、セレッソ大阪、横浜FCで監督を歴任。現在、主に日本テレビのサッカー中継などで解説を務める。