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なぜ「嘘松」はなくならない? 日本ネット文化の「盛る」DNA

   「嘘」が流行るご時世だ。安田大サーカス・クロちゃんの「嘘つきキャラ」がテレビで人気になれば、米国ではドナルド・トランプ大統領が「フェイクニュース!」を連発する。

   そして、ネットに溢れているのは、「嘘松」という言葉である。

   主にツイッターなどでの嘘・誇張まじりの投稿、あるいはそうしたツイートを行う人を差す「嘘松」は、今やネットスラングとしてすっかり定着した。人はなぜ「嘘松」をしてしまうのだろうか。識者に聞いた。

  • 画像はイメージ(投稿は架空のものです)
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「おそ松さん」から転じて...

   最近、話題になった「嘘松」といえばこのツイートだ。

「私の名字は日本でも珍しい『嘘松』といいますが、最近ネットで相手を嘘
つき呼ばわりするときに『嘘松』というものに認定するというトレンドがあるみたいです
『嘘松』という言葉は私のようにそれが名字の人もいます
悪いイメージで言い放つのはやめてください。お願いします」

   2018年3月12日ごろから注目を集めたこの書き込み、15日現在アカウントごと消されてしまっており、真偽のほどは定かではない。ただ、ネット上で確認できる各種の名字データベースには、「嘘松」などというものは確認できない。「宇曽(うそ)」「宇曽谷(うそたに)」といった名字は実在するようだが......。おそらくは「釣り」、つまりこのツイート自体が「嘘松」である可能性が高い。

   「嘘松」という言葉は2016年に入って本格的に使われるようになったネットスラングである。あるツイッターユーザーが自らの「目撃」したエピソードを投稿したところ、現実離れした内容から「嘘ではないか」と叩かれ、その投稿者がアニメ「おそ松さん」のファンだったことから、これをもじって生まれたのが「嘘松」だ。

   現在では、広く嘘や誇張が含まれる「実話」「目撃談」を書き込む人、あるいはそうした投稿そのものを「嘘松」と呼ぶのが一般的となっている。J-CASTニュースがツイッターで行った簡易アンケートでは、「嘘松を何度も目撃したことがある」とした人は73%(173票中)に達する。

「いいね」のためなら嘘をつく→12%

   よく「嘘松」といわれる投稿としては、「街で見かけたイケメンが萌える言動をしていて悶絶した」といった腐女子系を筆頭に、「横暴な言動をする輩を居合わせた人が正論でこらしめた」などのスカッと系、「マニアックな趣味を他者(高齢者や外国人、ヤンキーなど)に肯定してもらう」などのオタク系、「家族の感動、あるいは笑えるエピソード」を紹介する家族系などがある。最近では、「電車内」「女子高生」「拍手喝采」などの嘘松にありがちなキーワードの分析も進み、「嘘の嘘松」エピソードを投稿する「大喜利」まで行われるなど、状況はますますカオスになっている。

   人はなぜ、「嘘松」に走るのだろうか。

   しばしば説明されるのは、投稿者の「承認欲求」だ。ネットセキュリティ企業「カスペルスキー」が2017年1月に発表した、日本を含む世界18か国の男女を対象にした意識調査では、ソーシャルメディア(SNS)で「いいね」を得られるのであれば、12%が「実際には行っていない場所に行ったふりをする/していないことをしたふりをする」と回答した。

   さらにITジャーナリストの井上トシユキさんは、「話を『盛る』ということは日本のネット文化の、ある意味『基本』なんです」と分析する。

「リングと観客席が一体のプロレス」

   井上さんが最近の「嘘松」との類似を指摘するのは、1990年代後半から2000年代前半にかけて流行した「テキストサイト」だ。これらのサイトでは、多くの書き手が、自らの身辺の話題などをユニークな筆致で描いて人気を呼んだ。

「当時は画像や動画を載せるのが難しかったので、言葉(テキスト)だけでわかりやすく出来事を書かなければいけませんでした。すると読者を喜ばせよう、という意識もあって、自然と『盛る』ことになる。それが繰り返される中で、盛り方もだんだん洗練されてくるわけです」

   こうした「盛る」ネット文化は、SNS時代となった現代にも受け継がれている。ユーチューバーなどもその系譜にある、というのが井上さんの持論だ。

   さらに井上さんは、「嘘」に乗っかって盛り上がる人、ツッコミを入れる人も含め、それを受け入れる「観客」たちの存在も重要だと語る。

「いわばプロレスです。明らかに『盛った』話でも、相手の『技』をとにかく受けてやる、かかってやる。そういう意味ではネットは、リングと観客席が一体になった、壮大なプロレスといえるかもしれませんね」