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中国が仕掛けた「オイル元」爆弾 米ドル覇権への挑戦状(上)

   事件はまさに絶妙のタイミングで起きた。

   2018年3月26日、主要メディアが米中貿易摩擦を立て続けに報道していたのと時を同じくして、上海で大事件が起きていた。世界初の「人民元建て原油先物」取引が上海で正式にスタートし、中国証券監督管理委員会のトップと補佐職2人がそろって上場式典を行った。ロイター通信社は「ランクの高さから見て、中国がどれほど重視しているかが分かる」と報じた。

  • 中国国家外貨管理局の建物。中国は「オイル元」という新たな武器を得ようとしている
    中国国家外貨管理局の建物。中国は「オイル元」という新たな武器を得ようとしている
  • 中国国家外貨管理局の建物。中国は「オイル元」という新たな武器を得ようとしている

米中貿易戦争の時期を選んでスタート

   人民元原油先物は1年間にわたって準備されてきたが、米中貿易戦争のきな臭さが濃厚な時期を選んで、突然送り出された。初日に2100万バレルを超える石油の取引が成立。その価値は183億元(29億ドル)と大きな数字ではないが、中米が話し合いのテーブルに戻った際には、中国側の交渉カードとなる。

   だが、今回の戦略的意味はそれより遥かに勝る。長期的に見て、これは人民元が米ドルの世界的な覇権を崩壊させる鍵を握る駒になるかもしれないからだ。それは「オイルダラー」に取って代わる「オイル元」という戦略だ。

   第2次世界大戦後の国際通貨システムであるブレトン・ウッズ体制の崩壊後、米ドルの覇権の根本は石油によって打ち立てられていた。

   1973年に第4次中東戦争が勃発し、石油輸出国機構(OPEC)はイスラエルの盟友である米国に石油禁輸措置を実施し、当時の原油価格は1バレル3ドル未満から13ドルにまで跳ね上がり、当時原油を輸入に頼っていた欧米にとって、これは最大のブラック・スワンとなった。全国民が恐慌し、経済が衰退し、富が中東にどっと流れ込んでいくのを眺めているしかなかった。

   石油はもはや単純な化石エネルギーではなく、地政学的駆け引きにおける格好の武器であり、米国以上にその道理を分かっている国はない。

   「オイルダラー」計画は、こうした時運に乗じて現れた。

オイルショックから生まれたオイルダラー

   第1次石油危機終結後からわずか3カ月余りの1974年7月、米国財務長官に新任したウィリアム・サイモン氏が2週間にわたる中東の旅を決めた主な目的は、サウジアラビアにこの計画に加わるよう説得することだった。同年10月、国務長官のヘンリー・キッシンジャーはサウジアラビア王子と話し合い、最終的に世界経済と米国にとって極めて重要な協議を結んだ。

   協議では、米軍はサウジアラビアに軍事保護と先進的な武器装備を提供することを約束したが、それには二つの前提があった。一つ目は、サウジアラビアは必ず米ドルを石油交易の唯一の定価と決済の通貨にすること、二つ目は、サウジアラビアは石油の余剰収益を米国の国債に投資することだ。

   サウジアラビアは当然そのようにするつもりであった。石油が安全と米ドルに替わり、更に世界最大の経済国に投資でき、武器などを購入して中東の駆け引きの手札まで増やせるのだから、そうしない理由はなかった。

   そして一部の「オイルダラー」は米国へ流れ、財政赤字を補填し、経常収支の輸入超過と資本収支の輸出超過のバランスを取り、米国経済を安定させた。

   サウジアラビアという産油大国の地位を借りて、1975年までほぼ全てのOPEC加入国はサウジアラビアのやり方の真似をし、石油と米ドルをリンクさせた。

   米国の望みどおり、世界の原油交易はここに至って米ドルと切り離せなくなり、巨額の石油貿易は安定した資本流動のクローズドループを支え、国際金融における米ドルの覇権はもはや揺るぎないものになった。

   石油は黄金の代わりとなって、米ドルが世界通貨の道をますます安定して走る信用書となった。

世界最大の石油輸入国となった中国

   中国は今回の人民元建て取引について、「上海石油先物取引のねらいは世界で影響力のある石油定価の中心になることだ」と公言している。なぜなら、中国は石油について、すでに極端に輸入に依存しているからだ。

   米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)は2018年1月31日、「中国の2017年の1日当たりの原油輸入量が840万バレルで、初めて米国の790万バレルを超え、世界最大の原油輸入国になった」と発表した。

   石油は工業の血液であり、「世界の工場」である中国にとって、原油価格が一夜にして3%も上がる不安定さに耐えなければならないうえ、米ドルで支払うことを余儀なくされているため、為替相場のリスクも更に原油価格の波を激しいものにしている。

   この20年来、アジアの主要な石油消費国が中東の石油生産国に支払う価格は、欧米諸国が原油を購入する際の価格より1バレル当たり1~1.5ドルも高く、時には米国が輸入した中東産の石油を中国に回すということもあった。

   これらはみなアジア諸国に原油価格の決定権がないからだった。例えアジアの新興市場がすでに欧米を超え、最大の原油輸入市場になっているとしても、基準原油価格はまだ欧米市場を反映するイギリスのブレント原油先物と米国のWTIに従わねばならない。

   そうしたなか、中国は国家エネルギーの安全が常に他者の手に握られていることを望まず、米ドルを避け、人民元を使って国際原油貿易の局面を創りだそうとした。

   中国が人民元建て原油先物を推し進める意味は、現在の世界二大基準の原油先物に対抗するためである。

   石油先物は現物とは異なり、未来の特定の時期にある石油価格を指標とする物的交易であり、これはレバレッジであり、企業にとって最大の働きはリスクを回避することである。

   中国のさらなる望みは、中国及びアジア太平洋市場の需給関係を反映した原油定価基準をつくり、原油価格の決定権をつかみ取ることだ。さらに、この体系の最も重要な柱は「人民元建て」であるということだ。(次回につづく)

(在北京ジャーナリスト 陳言)