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レスリング界「パワハラ」自覚ないのか 栄氏「かわいそう」擁護次々

   日本レスリング協会の第三者委員会は栄和人監督による伊調馨選手らへのパワハラを4件認定したが、レスリング界では協会内外を含め、栄監督に対する同情的なコメントが相次いでいる。

   理事会では参加者たちから「パワハラ」に懐疑的なコメントが複数出たほか、拓殖大学レスリング部監督の須藤元気氏はテレビ番組で「(4つのうち)3つは栄監督かわいそうという部分はあります」と擁護した。識者からは協会側の「同情論」に批判的な声も出ている。

  • 栄和人氏と伊調馨選手
    栄和人氏と伊調馨選手
  • 栄和人氏と伊調馨選手

「監督は畏怖される存在でないといけません」

   須藤氏は2018年4月9日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)に出演し、「パワハラの定義が、一般社会と格闘技・レスリングとを同じにしてしまうと、温度差が必ず出ますね。どうしても(厳しさが)必ず出ます。『バカヤロー』と言ったら一般社会ではパワハラになるけど、『バカヤロー』とか『よく俺の前で練習できるな』とかはあるわけです。叱咤激励みたいな」と発言。その上で、

「監督は畏怖される存在でないといけません。チームを統率する意味では、尊敬されつつ恐れられないと、選手を強くできないと思います。だから(認定されたパワハラ4つのうち)3つは正直、栄監督かわいそうだな、という部分はあります」

と擁護した。

   第三者委員会が認定し、6日の理事会で報告された4件のパワハラは以下。

(1)栄氏が10年2月、伊調選手に対して「よく俺の前でレスリングができるな」と発言したこと
(2)女子強化委員会が10年5月、広州アジア大会の代表選考で、前年の全日本選手権と同年の全日本選抜選手権で優勝した伊調選手を外したこと
(3)栄氏が10年9月のモスクワ世界選手権で田南部力コーチに「伊調の指導はするな」と発言したこと
(4)田南部コーチらが協会事業のため15年11月の合宿を抜けた際、栄氏が「目障りだ。出ていけ」と罵倒したこと

   このうち、須藤氏は(2)については認めたが、それ以外の3つは「かわいそう」ということだ。

谷岡副会長「これからも皆さんとともに頑張っていく」

   理事会でも栄氏を擁護する発言はあった。協会が公式サイトに8日付で公表したところでは、副会長で至学館大学学長の谷岡郁子氏が、「栄監督には多くの方から心配をいただき、多くの方に支えられました。最も支えたのが至学館の選手です」と、栄氏に教え子から激励があったことを明かした。その上で、

「栄監督はそのあと、ワールドカップ(3月17~18日)のネット中継で選手の頑張る姿を見て、気持ちが回復したそうです。すばらしい師弟関係です」

と伝えている。栄氏は反省しているとし、

「この9年半、至学館ではだれもレスリング部はやめていません。明るい、さわやかなチームを作るため努力してきました。これからも皆さんとともに頑張っていくと思います」

と前向きだ。馳浩副会長も「栄監督に会ったら、優しく声をかけてください」と思いやった。

   谷岡氏は3月15日の反論会見で、「パワーのない人間(=栄氏)によるパワハラが一体どういうものであるか、私には分かりません」とパワハラの存在を否定していたが、上記「モーニングショー」が理事会後の谷岡氏を直撃すると、「(伊調選手の東京五輪での)5連覇の阻止はなかった」とだけ言い残し、パワハラ認定への不満を感じさせた。

   上記の公表資料からは、他の理事会幹部からも気になる発言があったことがわかる。福田富昭会長は「残念ながら改善、改革しなければならないポイントがあった」などと述べているが、スポーツジャーナリストの小林信也氏は9日放送の「直撃LIVE グッディ!」(フジテレビ系)で、

「福田会長は『ポイント』と言っており、全体のどこかに改善点があったと理解してしまいますが、そうじゃなくて本質なんですよ。協会運営、人間関係の本質を見直さないといけないけれど、そこまで自覚されていないように感じます」

と、認識の甘さを指摘した。

「これが日本のスポーツが変わらない根深い体質」

   また、高田裕司専務理事も理事会で、「『バカ!』と言ってもパワーハラスメントになるが、格闘技は厳しさがないと格闘技でなくなる。ルールで縛られすぎれば弱くなってしまう可能性がある」と発言した。対して小林氏は「グッディ」で、

「これが日本のスポーツが変わらない根深い体質だと思います。この言葉にすごく表れています。厳しさというのは、上の人が懲らしめる厳しさではありません。もっと選手自身の中から、指導者に敬意を感じるという、本来そういう厳しさであるべきです」

と批判していた。

   協会ウェブサイトでは、理事会における他の理事からのコメントも匿名で掲載されている。これらをみると、「ナショナルチームの選手を理事が守ってやるべきだ」といった反省がある一方で、

「自分たちの時代は当たり前のことがパワーハラスメントになっている。ちょっときつく言うとパワーハラスメントになる」
「告発者を責めるわけではないが、なぜこの方法しかなかったのか、と思った。公の場で言ってほしかった。こうした形での告発、結果としてマスコミを騒がせ、だれも得してはいない」

といった発言もあった。