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トヨタを駆り立てた「危機感」 「ウーバーへ出資」と「ライドシェアの未来」

   トヨタ自動車が米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズに5億ドル(約550億円)を出資する。2018年8月28日、発表した。自動運転技術を活用したライドシェアサービスの実現へ向けて提携関係を強化し、両社の持つ技術を搭載したライドシェア専用車両をウーバーのシステムに導入する。自動車の年間世界販売が1000万台を超える巨艦トヨタが、自動車の「所有」ではなく「共有」サービスの構築に向けて、本格的に動き出した格好だ。

   米国でトヨタが販売するミニバン「シエナ」をベースに、ライドシェア専用の自動運転車を開発する。ウーバーの自動運転キットとトヨタの高度安全運転支援システム「ガーディアン」を搭載し、2021年にウーバーのライドシェアネットワークに導入する。双方のシステムが周辺状況を二重にリアルタイムで監視することで安全性を高める。両社は量産型の自動運転車両の運営や、他社を巻き込んだ運営会社の設立についても検討を進める。

  • モビリティ(移動)サービス事業に本腰
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「スマホタッチだけで好きな場所にクルマで移動」目指す

   5億ドルの出資とはいえ、出資比率は1%にも満たない。それでもトヨタの友山茂樹・副社長は声明で「世界最大のライドシェア企業の一つであるウーバーとの提携は、トヨタがモビリティーカンパニーへと変革する上で、重要なマイルストーンになる。両社の技術とプラットフォームを連携させたライドシェアサービスは、安全で安心な自動運転モビリティサービスの実現へ向けた一つの道筋になる」と提携拡大の意義を強調。ウーバーのダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)は「我々の先進技術とトヨタの安全へのコミットメントや世界的に有名な製造技術との組み合わせは、ごく自然な調和であり、両社が協力して生み出される成果が大変楽しみ」との談話を発表した。

   トヨタは2016年にウーバーと提携した。金融子会社を通じ、数十億円の少額出資だったとみられる。18年1月には、ウーバーや米ネット通販大手アマゾン・ドット・コムなどと組み、自動運転の次世代電気自動車(EV)「e‐Palette(イー・パレット)」を開発すると発表。20年代前半に米国で実証実験を始める計画を明らかにした。

   ウーバーは「スマートフォンのボタンをタッチするだけで、好きな場所にクルマで移動できる」システムの構築を目指し、50億回の乗車実験を重ねてきた。だが2018年3月には自動運転車で死亡事故を起こし、公道実験を一時中止した経緯がある。より強固な安全性を確保するには、他社との連携が必要だと考えたようだ。

「異業種」が先行すれば・・・

   一方のトヨタは、技術革新によって自動運転のライドシェアビジネスが確立されたとき、主導権を握っていたいと考えている。米グーグルや米アップルなど「異業種」が先行すれば、単なる車両供給の下請けメーカーになりかねないとの危機感がある。車両が「共有」されれば販売台数の激減も予想される。トヨタの豊田章男社長が常々「自動車業界は100年に一度の変革期にある」と口にしているのも、こうした構造変化の時期にあるからだ。

   トヨタとウーバーの提携がどんな効果をもたらすのか。ともに業界のリーダー的な存在だけに、世界中が注目している。