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「全域停電」の危険性 北海道だけの話なのか

   2018年9月6日未明に発生した最大震度7の「北海道胆振東部地震」の影響で、北海道電力の火力発電所がすべて緊急停止し、全道295万世帯が停電になった。停電は8日にほぼ解消したが、今回の停電は北電が大規模集中型の火力発電所に供給を依存していたのが原因だ。地震による停電リスクを回避するためには、大規模な集中型電源を避け、小規模な分散型電源を増やすことが必要だと専門家は指摘する。

   大手電力会社で組織する電気事業連合会によると、大手電力会社が管内の全域で一斉に停電になったのは、戦後初めて。東日本大震災では東北電力管内で約486万戸、東京電力管内で約405万戸と、今回の北海道を上回る規模の停電が発生したが、地域としては管内の一部にとどまり、全域ではなかった。

  • 苫東厚真発電所(achappe撮影、WikimediaCommonsより)
    苫東厚真発電所(achappe撮影、WikimediaCommonsより)
  • 苫東厚真発電所(achappe撮影、WikimediaCommonsより)

「制御の現場がどうなっていたか調査する」

   今回、北電は主力電源の苫東厚真火力発電所(厚真町、出力165万キロワット)が地震のため緊急停止した。地震発生当時の北海道の電力需要は310万キロワットで、「需要の約半分の電源を一瞬で喪失したため、対応が間に合わなかった」と説明するが、今回の停電には疑問点が多い。

   大手電力は今回のように発電所が地震やトラブルなどで緊急停止した場合、バックアップの発電所を稼動させるとともに、需要の少ない地域の電力供給をストップさせることで、管内全域の停電を避けるシステムを備えている。

   北電にも同じ仕組みはあったが、なぜか機能しなかった。北電は「あまりに強い揺れで急激な供給力の喪失があったため、間に合わなかった。制御の現場がどうなっていたか調査する」という。

   今回、北電は310万キロワットの需要に対し、その53%に当たる165万キロワットの電源を喪失したため、大規模停電に結びついた。これが夏のピーク時の東京電力であれば、5000万キロワット台の需要となるため、仮に原発1.5基分に当たる165万キロワットの電源が瞬時に停止しても、相対的な負荷が少ないため、大規模停電にはならないという。北電と同様、ピーク時の需要が400万~500万キロワット台と少ない北陸電力や四国電力などでは、100万キロワット級の電源が緊急停止するだけで受給のバランスが大きく崩れるため、同様のトラブルが発生する可能性は否定できなくなる。

電源の「大規模集中」と「分散型」

   大手電力会社はこれまで100万キロワット級以上の原発や火力発電所といった大規模集中電源を建設し、効率的な発電を進めてきた。しかし、大地震が起きた場合、これらの大規模発電所が緊急停止し、一部地域が停電となるケースは、東日本大震災はじめ、これまでも全国であった。

   エネルギー政策に詳しい都留文科大学の高橋洋教授は「このようなことが起こりうることは、残念ながら以前から想像できた。その本質的な原因は集中型電力システムの脆弱性にある」と語る。「北海道全域の停電は集中型電源の集中立地による電源脱落リスクの高さが招いた事故であり、これを補うべき(本州との)広域運用の不備が拍車をかけた」という。

   要するに、大手電力会社が原発や火力発電所など大規模な電源に依存する限り、今回のような大規模停電のリスクを抱え込むことになる。

   では、大規模停電を避けるには、どうしたらよいのだろうか。高橋教授は「分散型電源を分散立地させることだ。小規模発電所が各地に散らばっていれば、災害などでいくつかが停止しても、全体への影響は軽微になる」と説く。分散型電源とは風力や太陽光など再生可能エネルギーはもちろん、発電と給湯などを同時に行なうコージェネレーション(熱電併給)の小型火力発電所などだ。

   消費地から遠い原発や火力発電所などで大規模に発電しても、長い送電線を伝わるうちに電力をロスするし、原発は需給に応じた出力を調整できない。それよりも消費地に近い場所で、必要に応じた電力を小規模に発電した方が効率的だという分散型電源の考え方は以前からある。しかし、日本では遅々として普及が進まない。

   高橋教授は「2011年の震災から学んで対策をすべきだった。少しでも分散型電源を増やすとか、連系線を積極的に使える状態を作るとか、そういう努力が十分だったのか」と指摘。「今回はやむを得なかったとしても、次こそ同じことが起こらないよう、前向きな対応をすべきだ」と主張している。