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大迫傑の「日本新」を可能にした プロとしての「したたかさ」

   男子マラソンの大迫傑(ナイキ)が、2018年10月7日に行われたシカゴマラソンで2時間5分50秒の日本記録を樹立した。今年2月の東京マラソンで設楽悠太(Honda)がマークした2時間6分11秒の日本記録を21秒更新し、日本人として初の2時間5分台を記録した。

   設楽が16年ぶりに日本記録を塗り替えてからわずか8か月後、日本人未踏の地に足を踏み入れた大迫は「日本新記録は非常にうれしいです。2月の設楽悠太選手がモチベーションになっていました。トップをとれずにまだまだだけど、日本人でもしっかり優勝争いに絡めることを証明できた」と胸を張った。

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マラソンと駅伝 両立の難しさ

   早稲田大学時代は4年連続で箱根を走り、卒業後は日清食品に所属。2015年1月1日のニューイヤー駅伝で実業団デビューを果たしたが、3月に日清食品との契約を解除した。

   大迫が新たに選んだ道はプロだった。米国のナイキ・オレゴン・プロジェクトと所属契約を結び、妻子とともに渡米。プロランナーとして米国を中心として活躍している。

   日本男子のマラソンランナーの多くが、箱根を経由して実業団の道のりを歩む。大迫もその一人だったが、実業団に所属すればマラソンと駅伝を両立させなければならない難しさがある。

   実業団のメインの大会となるのが駅伝である。テレビ中継される駅伝は企業の宣伝を兼ねており、駅伝で結果を残せなければチームの存在意義が問われる。チームとして駅伝が最優先される現状がある。

   通常、実業団のマラソン選手が1年間でマラソンのレースに出場するのは多くて2大会ほど。42.195キロの長丁場のマラソンと、10キロから20キロのスピードを要する駅伝では使う「脚」が異なる。

   実業団に所属する選手は、自身が出場するマラソンのレースに照準を合わせながら、一方で駅伝用の「脚」を作らなければならない。スピード強化の一環として駅伝練習に臨む選手がいるが、調整の難しさに変わりはない。

   プロの道を選択した大迫は、このストレスから解き放たれた。多くのプロのマラソンランナーが所属するナイキ・オレゴン・プロジェクトで、世界の強豪にもまれながらマラソン練習に専念出来る環境が、今回の記録を生んだ大きな要因だろう。

   レースに勝てなければ収入はない。その覚悟を持って大迫は妻子とともに海を渡った。

「ネガティブ・スプリット」を可能に

   シカゴマラソンではプロとしてのしたたかさをのぞかせた。レースではケニア勢がトップ集団を形成し、ペースのアップダウンを繰り返しながらレースを支配。25キロ過ぎまでトップ集団にいた藤本拓(トヨタ自動車)と鈴木洋平(愛三工業)もケニア勢のギアチェンジについていけず脱落。その中で、大迫はトップ集団から何度か落ちながらも、自身のペースを保ち最終的にはトップ集団で優勝争いを演じた。

   シカゴでのレースでも見られた通り、現在のマラソンはレース中、先頭集団が激しくペースを上げ下げしながら仕掛けていくのが主流だ。このような中で現代マラソンの理想とされるのが「ネガティブ・スプリット」と呼ばれる後半にペースを上げていくスタイルである。

   従来は前半にペースを上げ、後半はペースが下がる「ポジティブ・スプリット」が主流だったが、これでは自由自在にペースの上げ下げが可能なケニア勢に対抗出来ない。

   大迫の「ネガティブ・スプリット」を可能にしたのが、ナイキ・オレゴン・プロジェクトでの練習である。世界トップクラスのランナーとの激しいライバル争いの中で、世界規格の脚力を作り上げた。

   男子マラソンの世界記録はエリウド・キプチョゲ(ケニア)の持つ2時間1分39秒。大迫とのは4分以上もの差がある。ただ、今回のレースでケニア勢と優勝を争った経験は大きいだろう。あえて厳しい環境に身を置いて世界に挑む大迫は、来年3月の東京マラソン出場を予定している。