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どちらに転んでも「対日圧力」強化? 米中間選挙と新・貿易協定

   日米両政府が新しい貿易に関する2国間協定「物品貿易協定」(TAG)の交渉を開始することになった。環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した米国を呼び戻す可能性がない中、安倍晋三首相は1対1で自由貿易協定(FTA)の交渉はしないと言い続けてきたが、一方で米国は日本にはFTAを求めてきたものの、カナダ・メキシコとの北米自由貿易協定(FTA)見直しでは「自由貿易」の言葉を嫌って「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に名前を替えるというから、何が何だかわからない状況だが、日本が嫌がっていた米国との2国間協議に引きずり込まれたのは確かだ。

   これまで米トランプ政権は、日米貿易不均衡、つまり日本の大幅な貿易黒字をやり玉に挙げ、米国は日本からの自動車に関税をかけるという輸入制限をちらつかせて揺さぶりをかけてきた。具体的にはサービス分野や投資などのルールも含む包括的な自由貿易協定(FTA)への交渉入りを迫った。これに対し、日本はTPPへの復帰を呼びかけ、主張は平行線をたどっていた。米国の狙いは「バイ(1対1の2国間)」の交渉で、関税をかけると脅しながら取引(ディール)に持ち込んで、譲歩を迫ろうという考えだ。

  • 日米間で「物品貿易協定」の交渉を開始
    日米間で「物品貿易協定」の交渉を開始
  • 日米間で「物品貿易協定」の交渉を開始

TAGは「FTAとは全く異なる」というが...

   日本は、かつての日米自動車交渉や構造協議などで、自動車輸出自主規制など不本意な要求を飲まされた経験から、TPPなどの「マルチ(多国間)」の交渉を推進してきた。バイの交渉ではTPP以上の譲歩を迫られることを警戒していたのだ。米国とFTA交渉しないという安倍首相の言い方は、「バイ交渉はしたくない」という意思表示だった。

   TAGは「FTAとは全く異なる」(安部首相)というが、バイ交渉という意味では基本的にFTAと変わらないというのが一般的な受け止めで、首相以下日本政府の言い方は、言葉の遊びといってもよさそうだ。

   2018年9月26日午後(日本時間27日未明)、ニューヨーク市内のホテルで行われた安倍首相とトランプ大統領との会談後に発表された共同声明は、農産物を含むモノの貿易を対象とする協議開始をうたったが、いくつかのポイントがある。

「両政府の立場を尊重する」と明記

   まず、交渉にあたって「両政府の立場を尊重する」として、日本は「農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限である」、米国は「自動車について、自国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものである」ことを明記した。

   また、両国は「信頼関係に基づき議論を行い、協議が行われている間、この共同声明の精神に反する行動を取らない」と明記した。安倍首相は「日本の自動車に対して追加関税が課されることはないことを確認した」と強調した。

   これらにより、当面、日本は自動車への追加関税を回避できたことになり、また、農業の自由化はTPP水準までという枠をはめたと説明できる。一方、米国は協議の結果が国内自動車産業の発展に資するものでなければならないということで、「実効がなければ自動車関税をまた持ち出す可能性に含みを持たせたもの」(大手紙経済部デスク)と考えられる。

   さらに、「サービスを含む他の重要分野で早期に結果が出るものについて交渉を開始する」「TAGの議論が完了した後、他の貿易・投資の事項についても交渉する」ことも謳っており、「TAG自体はモノに限るとしても、その先を考えれば実質的には、投資やサービスの自由化にも範囲が及ぶなFTAと同じ」(エコノミスト)と指摘される。

ひとまず3か月程度の猶予

   米国は今回の交渉で、協定署名の90日以上前に、議会に対しその協定の趣旨、内容を通告する必要があり、実際の交渉が始まるのは年明けになるが、いずれにせよ、厳しい交渉になるのは確実だ。TAGの先例となりそうなのがNAFTA見直し交渉で、3か国の協定でありながら、米・加、米・墨のバイの交渉を重ねてまとまった新協定は、自動車の関税を免除する域内の部品調達率の引き上げのほか、自動車の対米輸出の数量規制(加墨からの米国の輸入上限は年260万台)や、他国の通貨安誘導を封じる「為替条項」も盛り込まれるなど、完全に米国ペースで、2国が飲まされた。

   日本も同様に、厳しい要求を突き付けられるのは間違いない。実際、トランプ大統領はNAFTA見直し合意を受け10月1日の会見で、TAGについて、「交渉しないなら、日本車にかなりの関税を課すと伝えたら、すぐに交渉したいと言ってきた」を、舞台裏を明かし、パーデュー農務長官は4日、「日本が欧州共同体(EU)に与えたものと同等かより良い取引を期待する」「我々の要求はTPPプラスになる」と述べ、日EU経済連携協定やTPPを上回る水準の市場開放を求める考えを示した。

   当面、11月の米中間選挙の結果が交渉に影響を与えるのは間違いない。ただ、共和党が勝てば「通商交渉の成果」とされ、負けたら対外交渉に、これまで以上に強硬に出る可能性があり、「どちらにせよ日本への圧力が弱まることはない」(全国紙経済部デスク)との声がある。また、これから中国製品に発動した追加関税で消費財を含めて米国内価格の上昇が本格化していくことから、米国の消費者がどう反応するかも、トランプ政権の通商交渉の姿勢に影響を与えるとみられる。

   日本はひとまず3か月程度の猶予を得た形だが、先行きはなかなか見通せない。