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衝撃! 働き盛りの男性は月曜朝に自殺する 早稲田大学らが研究

   「ブルーマンデー」(ゆううつな月曜日)という言葉がある。週末が終わり、今日から仕事漬けの一週間が始まるという月曜朝、中高年男性の自殺が集中するというショッキングな研究論文が発表された。

   しかも、1970年代から2014年までに自殺した約90万人の死亡時刻を調べると、バブル崩壊で日本経済が悪化した1990年代後半以降に顕著な傾向で、それ以前の好景気の時代にはみられないという。働き盛りがなぜ月曜早朝に死ななければならないのか。J-CASTニュース編集部は研究者に聞いた。

  • 自殺は月曜の早朝が危ない(写真はイメージです)
    自殺は月曜の早朝が危ない(写真はイメージです)
  • 自殺は月曜の早朝が危ない(写真はイメージです)
  • 1995年以降の男性の自殺の時間帯。月曜朝にピークがあるのがわかる(上田路子さん提供)
  • 1995年を境にした中高年男性の自殺の時間帯の比較
  • 失業率と早朝の自殺の割合のグラフ。男性は失業率が悪化すると増えるが女性は関連がない

バブル崩壊後から「ブルーマンデー」が始まった

   この論文は、早稲田大学と大阪大学の研究グループが2018年9月17日付の国際精神医学誌「Journal of Affective Disorders」(オンライン版)に発表した。

   それによると、研究グループは、1974年から2014年までの41年間に自殺した20歳以上の日本人のうち、死亡日時が記録されている87万3268人について、死亡時刻と曜日を男女別・年齢別に集計した。データは、厚生労働省人口動態調査の死亡者の医師診断書を使った。診断書には死因(自殺・事故死・病死など)のほか、自殺の方法(首つり・飛び込みなど)や死亡日時などが記されている。

   約87万人の自殺者を、バブルが崩壊して日本経済がどん底になった1995年を境に、1974年~1994年(前期)と1995年~2014年(後期)に分けて分析した。前期はバブル景気の時期を含む経済が上昇カーブを描いた時期、後期は一転して景気が悪化していった時期だ。

   「分析した結果、私たちもまったく予想もしなかった結果が出たのです」と、取材に応じた上田路子・早稲田大学准教授(公共政策)が語る。

失業率が上がると男性の自殺が増えるが、女性は...

   後期の中高年の男性(40歳~65歳)の自殺が、一週間を通じて月曜日に集中し、一番少ない週末の土曜日に比べると、1.55倍多くなった。また、一日をとおした時間帯をみると、朝(午前4時~7時59分)が最多で、一番少ない深夜(午後8時~11時59分)の1.57倍に達した。つまり月曜の早朝、出勤前の時間帯に飛び抜けて自殺者が多いのだ=図表(1)参照。

   自殺の方法は首つりが圧倒的に多く、次いでガス中毒が目立った。

   この傾向は、若い男性(20歳~39歳)にもみられるが、図表(1)のグラフの山を見てもわかるように、中高年男性に比べると、月曜早朝に集中する頻度は、3割~5割ほどに低い。ところが、景気がよかった前期には、世代、曜日、時間帯に大きな違いはなかった。前期と後期を比較した同じ中高年男性のグラフ(図表(2))を見ても、はっきりした違いがわかるだろう。不況を背景に自殺の曜日と時間帯のピークの傾向が表れるのだ。

   上田さんらは、さらに景気悪化の指標に失業率を使い、失業率の上下と早朝に自殺する人数の関連も調べた。すると、失業率が上がると、若者と中高年男性のみ自殺が増えることがわかった=図表(3)。女性や66歳以上の高齢男性は、こうした好不況の影響を一切受けない。むしろ、女性や高齢男性は景気に関係なく、昼の12時前後に自殺する割合が高いという。

   こうした傾向はいったいどういうことか。上田准教授に聞くと――。

   ――月曜日の早朝に集中するということは、「ブルーマンデー」が影響しているのでしょうか。

上田さん「警察の調書と違って、医師の診断書に動機までは書いていないので断定はできませんが、景気のよかった1994年以前には、月曜や早朝に集中する傾向はまったくありませんでした。また、失業率が悪くなると男性の出勤前の自殺が増えることから、不況になると会社に行くことが辛くなり、ブルーマンデー状態になったと考えられます。
98年~99年のアジア経済危機の時に自殺者が急増するピークがありました。また、自殺者が一番多かったのが2003年の世界株価大暴落の時です。おそらく、労働環境が悪化したことが関係しているのではないでしょうか」

女性と高齢男性は正午ごろに自殺する人が多い

   ――若者より、中高年男性に強く影響が出るのは、会社で管理職などの重責を担っているからですか。

上田さん「それもありますが、中小企業の経営者もかなり含まれていると思います。女性が景気の影響を受けないのは、一家の大黒柱というプレッシャーを男性だけが主に受けるからだと思います」

   ――働く男性が朝に自殺し、女性や高齢男性が昼間に自殺するケースが多いと、時間差があるのはなぜですか。

上田さん「働く男性は通勤途中の飛び込みが多いかと思ったら、朝、首つりで亡くなる方が非常に多かったのです。おそらく真夜中から悩み続け、家族がまだ起きる前に自宅で自らの命を絶っているのだと思います。女性や高齢男性が昼間に多いのは、家の中にほかに誰もいない時間帯だからでしょう」

   ――ということは、悩んで自殺しそうな人がいたら、一人にしてはいけないということですね。

上田さん「そのとおりです。ぜひ、見守りを続けてください。私たちは自殺が起こりやすい時間帯を明らかにしました。これまで自殺予防の命の電話は真夜中に受け付けるケースが多いのですが、早朝の時間帯もぜひ増やしてほしいです」

(J-CASTニュース編集部 福田和郎)