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現場のネットニュース記者は、ドラマ「フェイクニュース」をどう見たか

   ニュースサイトを舞台にした、北川景子さん主演のドラマ「フェイクニュース」(NHK総合)。「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」(いずれもTBS系)を手掛けた野木亜紀子さんが脚本を務め、2018年10月20日の前編放送前後には、ツイッターでハッシュタグ「#フェイクニュース」がトレンド上位に躍り出るなど、大きな注目を浴びた。

   話題になっているのは、ネットニュース関係者の間でも同様だ。そこで後編(27日)の放送を前に、極力ネタバレを避けながら、現場にいる者として感じたことを書こうと思う。

  • 記者のデスクはこんな感じです
    記者のデスクはこんな感じです
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「イーストポスト」とは、どんなニュースサイトなのか

   そもそも、舞台となった「イーストポスト」とは、どんなニュースサイトなのだろう。事前情報や放送から、その特性やスタンスを推測してみた。まず、北川さん演じる主人公、東雲樹(しののめ・いつき)は、東日本新聞社からイーストポストへ出向している。名刺によると、肩書は「ニュースエディター」だ。

   大手紙の傘下ながら、イーストポスト編集部はカジュアルな雰囲気だ。今風のオフィスには大きいロゴマークが掲げられ、パソコンには各記者のファーストネームが張られている(編集長は名字を呼び捨てにするのに)。同僚はキャップをかぶり、ヘッドホンを首に下げながら執筆にあたっていて、スーツ姿の主人公はちょっと浮いているようにも見える。どこか外資系の雰囲気もあり、もしかしたら現実のハフポストやBuzzFeedのように、海外の大手ネットメディアの日本語版として生まれたのかもしれない。

   サイトのトップページには、「ニュース」「エンタメ」「スポーツ」「グルメ」「ファッション」「ビューティー」「おでかけ」の7カテゴリが並ぶ。政治や経済、社会などを「ニュース」と一括りにしているところを見ると、その他の6ジャンルでPV数(ページビュー数=記事の表示回数)を稼ぐスタイルなのだろう。であれば、新井浩文さん演じる編集長が、「新聞のやり方じゃコスパが合わない」などと東雲をたしなめるのも納得がいく。

リアリティーのある「青虫うどん」

   今作は、インスタントうどんに「青虫」が混入し、その告発者(演:光石研さん)と東雲らが、ネット社会に翻弄されていくストーリーだ。これはあくまでドラマでの話だが、実際にネットニュースが口火を切って社会問題につながったケースは多々ある。

   たとえば、2014年に起きたインスタント焼きそばへの虫混入事件。こちらは大学生がツイッターで、メーカーと保健所とのやりとりを報告したことが発端となった。J-CASTニュースは当時、メーカー広報にいち早くコメントを取り、一連の経緯を報道。同業他社のみならず、テレビや新聞などの既存メディアを巻き込んだ一大騒動となった。当時を思い出させる内容だけに、「青虫うどん」もさもありなんと思える。

   「フェイクニュース」制作にあたっては、ハフポスト日本版の記者が「ネットメディア考証」に加わったほか、番組スタッフがネットニュースの関係各所に取材を行っていた。J-CASTニュースの記者の一人にもヒアリングがあったが、このような地道な聞き取りによって、ストーリーの真実味が増したのだろう。

   東雲は新聞のデータベースから、過去の報道をひも解いていたが、これも常套手段だ。また怪しいサイトを調べるときには、ドメイン名の確認や、ソースコードのチェックは欠かせない。ニュースと言えば、現場へ行ったり、電話をかけたりの「取材」がクローズアップされがちだが、こうした準備段階にも触れているのが印象的だった。

   リアリティーは細部にも現れている。ちょっと専門的になるが、気づいた点を紹介しておこう。ネットニュースでは一般的に、CMS(コンテンツ管理システム)と呼ばれるものに原稿を流し込み、記事を公開する。入稿場面もちらっと映るのだが、そのフォーム画面も作りこまれていた。

   イーストポストではデスク作業もCMS上で行うようで、記者入力時は「下書き」だった記事ステータスが、公開直前に「決定」へ。また、このCMS上ではPVの推移も見られるようで、どんな使用感なのか気になった。

「自宅凸」と「MAD動画」

   ツイッターなどでの実況では、「炎上」の描写も話題になった。ツイートが一気に拡散してしまうのはもちろんだが、ネット掲示板「7ちゃんねる」で人物の特定が始まり、一般人がスマホ片手に自宅前から凸(とつ=突撃)配信をする。渦中の企業の記者会見は「ぬこぬこ動画」で生中継され、まとめサイトの「イタぃ速報」(当然ながら、すべて架空の名称)が速報記事を出す――。これまで何度となく繰り返された構図だ。

   なかでも秀逸だったのが、「MAD」動画だった。写真や映像素材を利用して、面白おかしくコラージュ化。00年代後半に動画共有サイトが誕生してから数年間、あらゆる権利の問題を抱えながらも、人気を得続けてきた動画ジャンルだ。前編のラスト、スタッフロールとともに、自宅凸映像をもとにした告発者のMADが流れると、その完成度から「怖すぎ」「心底気持ち悪かった」といったツイートが続出した。

   なおドラマ本編のみならず、NHK公式サイトでも、このMAD動画は見られるが、

「※MAD動画の公開は、内容により肖像権、名誉権、著作権、その他の権利を侵害する可能性があり、その場合法的責任を問われるリスクがあります。本動画は放送上の演出であり、類似MAD動画を推奨するものではありません」

との但し書きが付けられている。

日常に隣り合う「炎上」

   「炎上」は日常と隣り合っている。だからこそ、怖い。告発者は根っからの悪人ではなく、正義感にかられただけで、どこか憎めない人間性を持っている(少なくとも前編時点では)。しかし、ネット越しにその本性までを読み取るのは不可能だ。

   スマートフォンの普及で、どこからでもボタンひとつで拡散できるようになり、気軽に「炎上」へ参加できるようになった。おそらく告発投稿をリツイートした人も、MAD動画にコメントを付けた人も、誰かの人生を左右しているとは思っていないだろう。

   一方でドラマは、メディアの姿勢にもクギを刺している。テレビにおける視聴率同様、PVは影響力の指標としてわかりやすい。PV至上主義に反目していた東雲ですらも、自分の記事が50万PV突破と聞くと動揺するし、フェイクニュースに釣られたまとめサイトの方が、自サイトの記事よりPVを取っていると気を揉むほどだ。

   イーストポスト編集長の「うちはネットメディアだ。報道じゃない」との発言は行きすぎな気もするが、これだけネットニュースが群雄割拠になった昨今では、そこまで割り切った媒体があってもおかしくはない。とはいえ、それを真っ向から否定するのではなく、登場人物の何気ないセリフに込めたところは、作品の妙と言えるだろう。

(J-CASTニュース編集部 城戸譲)