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志位和夫氏インタビュー 日本共産党トップが「政権交代」のビジョン語った

   秋の臨時国会が2018年10月24日に召集される。国政選挙の前哨戦とも言える沖縄県知事選では、国政野党が支援する「オール沖縄」に支援された玉城デニー氏が大勝。野党としては、この勢いを19年夏の参院選につなげたい考えだ。

   これまでは自党からの立候補を断念する形で野党共闘を実現してきた共産党は、どのようにして共闘に臨むのか。さらに、仮に政権交代が実現すれば、自衛隊や憲法とはどう向き合うのか。日本共産党の志位和夫委員長に聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 野党共闘の見通しについて語る日本共産党の志位和夫委員長
    野党共闘の見通しについて語る日本共産党の志位和夫委員長
  • 野党共闘の見通しについて語る日本共産党の志位和夫委員長

もう「ゴリ押し」通用しなくなった

   ―― 沖縄県知事選の大勝をどう評価しますか。

志位:歴史的勝利だと思います。辺野古新基地は中止せよ、普天間基地は閉鎖・撤去という審判がはっきり下ったと思います。特に私が大事だと思っているのは、これまで安倍政権は沖縄に対して強権で事を進めれば県民は諦めるだろう、という対応をしてきたわけですよ。基地建設ひとつとっても、ともかく違法な手段も含めて、あらゆる強権的手段を繰り返して基地建設の既成事実を作ってしまう、そうすれば県民も諦めるだろう、と「ゴリ押し」を続けてきた。それがついに通用しなくなった。

   ―― 官邸主導も目立ちました。

志位:選挙の実態というのは、官邸が主導して自民党の中枢が現地入りする、菅(義偉)官房長官が入る、公明党・創価学会が大動員する、企業・団体への激しい締め付けを行う、力づくで沖縄県民の民意を押し潰しにかかりました。しかし、これは通用しなかった。かえって県民の怒りと批判を招いて逆効果を招いたと思いますね。最も象徴的だったのが、9月22日の「うまんちゅ大集会」で、翁長(雄志)前知事夫人の樹子(みきこ)さんが、
「今度の選挙は静かに結果を待とうと思っていたけれども、日本政府のあまりのひどさ――権力を総動員して沖縄の民意を押しつぶそうとする日本政府のやり方に『何なんですかこれは』という気持ちでこの場に立った」
と訴えたことです。これは多くの県民の気持ちだったと思います。それが最後の勝利への流れを作って圧勝という結果になったと思います。沖縄にはもう強権政治は通じないということを政府は知るべきです。民意は示されたわけですから「辺野古新基地は中止、普天間基地は返還を」という沖縄県民の総意に立って対米交渉をすべきだと言いたいと思います。

   ―― 「ゴリ押し」の手法が通用しなくなったとなると、今後行われる他の地方選挙でも野党の勢いは増しそうです。ただ、世論調査の結果を見ると、今回の改造の評価は低いものの、内閣支持率自体はほぼ横ばい。「下げ止まった」ようにも見えます。

志位:私は下げ止まったと思っていませんけれども。内閣改造をやって下がったというのはこれまでにないことで、もうこれは「打つ手なし」ということです。多少の上下があっても下落が続く局面に入ったと思っています。

   ―― そうなると、野党の支持率が横ばいに見えるというのは、何故なのでしょうか。

志位:これから国会もありますし、わが党も頑張って支持率をあげていきたいと思います。ただ、野党の側の対応としては、市民と野党の共闘――これを本気の共闘にしていくとことを通じて、それぞれの野党の支持率を伸ばす。そして野党全体への期待を高めていくことが大事だと思います。

   ―― ちゃんと共闘すれば支持率は上がる、と。

志位:上がっていくと思いますよ。真剣に共闘を追及して今の政治を変えようという政党には支持を託してみようという流れが起こると思います。

   ―― 10月13日の第5回中央委員会総会(5中総)の幹部会報告では、19年夏の参院選で、衆参に「ねじれ」を生み出すことを打ち出しています。この狙いについて聞かせてください。

志位:わが党の目標として、(1)共闘の勝利(2)共産党の躍進、の2つを達成して自民・公明とその補完勢力を参院の総定数(245)の半分以下に追い込もうという目標をたてました。「ねじれ」が起きれば政局の主導権を野党が握れる。解散・総選挙に追い込む。そうして衆院でも彼らを少数派に追い込んでいく、ということです。

「そんなちゃちなこと言わないで...」

   ―― 19年夏の参院選では野党共闘がポイントになるのは間違いないと思いますが、他の野党との協議の状況はいかがでしょうか。個別の選挙区で言えば、大阪選挙区(改選数4)では共産党の辰巳孝太郎氏が再選を目指す一方で、立憲民主党は「目玉候補」として弁護士の亀石倫子(みちこ)氏を擁立します。元々は旧民主系が弱い地域で、こういった動きがあることについて、率直にどういった考えをお持ちですか。

志位:候補者擁立は、それぞれの党の権利ですから。私たちが今度の選挙で市民と野党で共闘をやろうと言っているのは、全国に32ある1人区なんですよ。今回改選されるのは13年当選組ですが、1人区では31人の自民党議員がいる。ということは、総取りするくらいの気持ちで1人区での流れを作り出すことができれば、複数区・比例区でもうねりが連動しますよ。
複数区・比例区では、野党はそれぞれ競い合って戦って自公を落としていく。たとえば、共産・民主が躍進し、橋本内閣の退陣につながった1998年の参院選の経験があります。共産党は比例区で約820万票を得票し、選挙区では東京・埼玉・神奈川・愛知・京都・大阪・兵庫の7つで勝利しました。いずれも2~4人区ですが、この7つは自民党の当選はゼロです。つまり、共・民・民や共・民での「総取り」が各地で実現した。

   ―― そう考えると、流れができれば地すべり的な勝利は可能で、野党内での競合といったことは...

志位:そんなちゃちなこと言わないで、複数区や比例区では、野党は競い合ってたたかい、自公を落とす。野党共闘をやっていない1998年でも、さきにのべた流れがつくれた。本気の1人区共闘が実現すれば、それ以上の流れが再現できますよ。

枝野氏は政党間の話し合いに否定的

   ―― そうなると1人区で「1対1」の構図を作ることが重要になりますね。ただ、立憲民主党の枝野幸男代表は
「政党間で話をするのではなく、各政党と、候補者の1本化を求める有権者とのコミュニケーションで物事を進めていくべきだ」(10月17日、NHK政治マガジン)
などとして政党間の話し合いには否定的です。10月16日には野党6党派の党首が会合を開いたということですが、枝野代表と話してみて感触はいかがでしたか?

志位:10月16日の会合というのは、当面の臨時国会で共闘をつとめましょう、参院選では自公に勝つように頑張りましょう、というような大まかな話ですから。そういう共闘のやり方にまで話が及んだわけではありません。
私たちは1人区で本気の共闘を実現するには、3つくらい大事なことがあると考えています。一つは、豊かで魅力ある共通公約をみんなで作る。二つ目は相互支援、相互推薦の共闘をやる。つまりお互いに譲るところは譲り合って、相互に支援するという共闘が一番力が出るということです。三つ目は、安倍政権を倒した後で、どういう政権をつくるのか。野党の連合政権についても、前向きの合意を得るために努力することです。
私たちの提案はそういうことですが、まず無条件に野党が政党間の協議を開始しようとよびかけています。政党と政党の間で、真剣な協議を始めないと、物事は進まないじゃないですか。

   ―― 過去2回の国政選挙では、共産党が擁立した候補が出馬を断念する形で、野党候補の一本化を行ってきました。

志位:今回の選挙では、そのようなことはしないと決めています。本当に力が出る共闘にするためには、相互に支援しあうという形にすることが大事です。
先日の5中総(第5回中央委員会総会)では、政党間の真剣な協議を呼びかけ、10月17日には小池晃書記局長が4野党1会派に申し入れを行いました。それぞれたいへん真剣に受け止めていただいたと聞いております。
今後話し合いを進めていくということはできるのではないでしょうか。一定の時間はかかるでしょう。共闘に対する考え方は、野党それぞれ違うところがあると思います。それも含めてぶつけあって、一番いい形はどういう形を協議のなかで見出していければよいと考えています。

「政権」として安保廃棄、自衛隊解消はやらない

   ―― 仮に安倍政権が倒れたとすれば、その後成立する政権では共産党がその一角を占める可能性が高いです。共産党は自衛隊は違憲だとの立場ですが、政権ではどのように向き合いますか。

志位:この政権は、日米安保条約の廃棄、ましてや自衛隊の解消をめざすというような政権ではありません。一番の中心的な課題になってくるのが、この共闘の出発点だった憲法違反の安保法制=戦争法の廃止、そして14年の集団的自衛権行使容認の閣議決定の撤回です。これをきちっとやって、日本の政治に民主主義、立憲主義を取り戻す。政権としては自衛隊を容認しますが、それは14年の閣議決定、15年の安保法制の前の自衛隊ということになります。

   ―― 共産党としては違憲でも、「政権」としては容認する...?

志位:共産党としては自衛隊は違憲だと考えています。先々の展望としては、国民の大多数が、日本を取り巻く情勢が平和的に成熟して、もう自衛隊なしでも大丈夫だという合意が成熟すれば、9条の完全実施に進むという展望を持っています。しかし、この政権では、そういう課題はもちろんやらない、ということになります。
当面の野党連合政権としては自衛隊を容認するし、政府の憲法判断としては合憲という立場をとる。党の立場と違いが出てくるかたちですが、一定の期間、どうしてもそういう期間は続きます。

   ―― 天皇制についてはいかがですか。

志位:私たちは現行憲法の全条項をしっかり守るという立場で、天皇制についてもそうです。天皇の制度にかかわる憲法の規定で一番大事なのは、第4条の「国政に関する権能を有しない」という規定です。私たちは、天皇の制度とはかなり長期にわたって共存していく、そのさい憲法のこの規定が一番大事なところだと考えています。
先々の問題として、私たちは天皇の制度を人間の平等や民主主義といった観点からすれば問題のある制度だと考えていますし、民主共和制を実現すべきだという立場を取っています。ただ、天皇の制度は憲法上の制度ですから、この存廃は、国民の総意をもって決めるべきものであって、国民が判断していく問題だということも明確にしています。いずれにせよ、私たちが当面めざしている野党連合政権では、天皇の制度の問題は、憲法の規定を厳格に守るということにつきます。
今の問題として重大なのは、安倍政権が天皇の不当な政治利用をずいぶんやっていることです。この間の問題でとくに許せないのは、4月28日を「主権回復の日」と称して式典を行ったことです。この日は沖縄を切り離し、日本は安保条約を結んで米国の従属下に置かれた日です。これを主権回復の日だと言って天皇を呼んで、「天皇陛下万歳」とやる。最悪の政治利用です。こういうことを止めさせる、ということはきちんとしなければなりません。

朝鮮労働党 & 中国共産党との関係は...?

   ―― ところで、「日本共産党」は、絶対に党名の変更はしないと表明しています。近隣諸国には「朝鮮労働党」「中国共産党」といった党もあるため、「似たもの同士」だと誤解する向きもあるようです。改めて両党との関係について聞かせてください。

志位:朝鮮労働党とは、約35年間にわたって断絶状態です。1960年代、70年代にも北朝鮮の国際的動向にはさまざまな問題点がありましたが、決定的だったのが1983年のラングーン爆弾テロ事件と日本漁船襲撃事件です。この2つの事件でわが党が北朝鮮を批判すると、北朝鮮は「日本共産党は敵と同じ立場で攻撃してきた」と攻撃してきた。それ以降、関係は断絶しています。
私たちは朝鮮半島の非核化や平和体制構築について外交解決をはかるという今の動きには大賛成ですが、今の北朝鮮の体制が社会主義の体制、あるいはそれに向かう体制だというふうにはもとより見ていません。

   ―― 中国共産党についてはいかがですか。

志位:色々な歴史があります。戦前、日本が中国を侵略した当時は、日本共産党は侵略戦争に反対して闘い、中国共産党は日本による侵略に反対し、日中両共産党が協力して日本帝国主義の侵略戦争に反対して闘ったという歴史があるんです。
戦後も一時期まで友好的な関係がありましたが、1960年代後半、毛沢東が「文化大革命」を起こした時期に、同時並行して日本共産党に対する、きわめて乱暴な干渉行為を行いました。簡単に言うと「日本でも武力闘争やれ」と。とんでもない話です。日本共産党が断固拒否にすると、「日共は修正主義になった」とかいって、ものすごい攻撃をしてきたんですね。日本共産党の内部に、干渉攻撃に呼応する分派を作って、それを支援するっていうこともやった。そういう干渉をやったんですね。社会主義を名乗る国が権力をあげて、日本共産党を干渉するのはとんでもないことでしょう。わが党はこの干渉を断固はねのけ、両党関係は断絶しました。
両党関係は、1998年に正常化しました。当時は江沢民さんが国家主席で、胡錦濤さんが副主席だった時代で、私は不破(哲三)委員長(当時)に同行して北京に行き、関係正常化のあとの両党首脳会談に出ました。このときに中国の態度は潔いもので、「毛沢東時代の干渉は間違っていた。是正します」という趣旨のことを、文章でもはっきり明記した。そして、それを中国の全国に知らせることまでやったんです。だから私たちはそのときは中国に理性が戻ったと高く評価したのです。

   ―― 友好関係が続いている、ということでしょうか。

志位:いまでも中国共産党との関係は続いています。ただ今、私たちが強い危惧をもっているのは、新しい覇権主義、大国主義が現れてきたことです。東シナ海、南シナ海の力ずくでの現状変更の動きなどがそうです。17年の党大会でこうした点を批判したところ、程永華大使から面会の申し入れがあり、私たちの立場を直接伝えました。
ただ、これらの問題の解決は、あくまでも理をつくした外交で行うべきです。日本も、南シナ海まで自衛隊が出かけて行って米軍と軍事演習を行うようなことはやめるべきで、あくまで外交で対応すべきです。2018年は日中平和友好条約40周年です。この条約の第2条には、「両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく」とある。この精神から言っても、今の中国のやっていることはおかしい。日本政府としてもきちんとした外交的な態度が必要だと言いたいですね。

   ―― 最後に、10月24日に召集される臨時国会にはどう臨みますか。

志位:まず沖縄の知事選で示された民意にどう応えるのか。それから消費税10パーセント。やっぱり今の経済情勢、これだけ消費が冷え込んでいるもとで強行していいのか。それから憲法9条改定を力ずくでやろうとしていることは、大問題です。政治モラルの問題もありますね。森友・加計問題、教育勅語の肯定の問題など、たくさんの問題がある。それから今年は自然災害が相次ぎました。従来の延長線上ではない抜本的な方策を、専門家の知恵も結集して、政治の責任で行う必要があるという問題提起をしていきたいと思っております。

志位和夫さん プロフィール
しい・かずお 1954年千葉県生まれ。1979年東京大学工学部物理工学科卒業。現在、日本共産党中央委員会幹部会委員長、衆院議員。