J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

31歳で戦力外通告、元甲子園優勝投手の「セカンドキャリア」

   プロ野球の日本シリーズで熱戦が繰り広げられるなか、各球団の新体制が整ってきた。これにともない現役引退、戦力外通告を受けた選手など、今年も球界を去っていく選手が多くいる。毎年のようにプロ野球選手のセカンドキャリアに関して議論がなされるが、J-CASTニュースは、元甲子園の優勝投手で8年前に横浜ベイスターズ(現DeNA)から戦力外通告を受けて引退した下窪陽介さん(39)にプロ野球選手のセカンドキャリアについて話を聞いた。

   2018年10月29日現在、戦力外通告を受けた選手は12球団で91人にのぼる。平均年齢は26.7歳。楽天が異例ともいえる17人に戦力外を通告したことは世間の注目を集めた。

   日本野球機構(NPB)のデータによると、2017年に戦力外、引退した選手の49%が、コーチや球団職員など日本のプロ野球関連の職に就いている。独立リーグや社会人野球の道に進んだものは19%で、60%近くが野球関連の職を得ている。

   その一方で、一般の会社に就職したものは16%おり、未定、不明なものは11%にのぼる。プロ野球を引退した選手の1割が、職につけないでいるのが球界の現状である。

  • 下窪陽介さん(18年10月31日撮影)
    下窪陽介さん(18年10月31日撮影)
  • 下窪陽介さん(18年10月31日撮影)

鹿児島県勢初の甲子園優勝に導いたエース

   今回取材した下窪さんは、1996年の選抜高等学校野球大会に鹿児島実業高のエース投手として出場し、決勝で智弁和歌山高を6-3で下して優勝。鹿児島県勢として春夏通じて初の全国制覇を達成した。

   高校卒業後、日大に進学した下窪さんは、肩を故障したこともあり、大学3年時に野手に転向。大学卒業後は日本通運に入社し、2006年の都市対抗で打率.412をマークして首位打者に輝いた。

   その年のIBAFインターコンチネンタルカップの日本代表に選出され、プロのスカウトから注目されるようになり、秋のドラフトで横浜ベイスターズから5巡目で指名を受け入団した。

   ルーキーイヤーの2007年は、1軍で72試合に出場して打率.277と、きっちりと結果を残した。だが、2軍スタートとなった2年目は、1軍の出場はわずか14試合と振るわず、2軍暮らしが続いた3年目は、1軍での出場は7試合だけだった。

   2軍で最終試合を迎えた4年目の2010年10月1日、下窪さんは球団から戦力外を通告される。2軍生活が長く続いていたものの、真っ先に下窪さんの頭に浮かんだのは「なぜ?」だったという。

   横浜ベイスターズの慣例として、オフに戦力外通告を受ける2軍の選手は、球団の計らいによって最終戦で先発出場するという。だが、下窪さんは最終戦で先発メンバーから外れた。確信はなかったというが、先発から外れたことで残留への希望が芽生えたのだろう。

人生の岐路でタイミングを間違ってはいけない

   2009年5月に結婚したばかりの31歳の下窪さんに突き付けられた最後通告。下窪さんは当日の心境をこう語った。

「1年間は何もしなかったですね。野球をやりたいという思いもありましたし。だけど家族もいますし、食べていかなくてはならない。ようやく2年目からプロ野球時代にお世話になった方のところで少しずつ仕事をするようになりました」

   当時、東京に在住しており、週に3日から4日、地元鹿児島に帰郷して知人の会社を手伝っていたという。

   以降、様々な職種を経験し、2015年1月から祖父・勲さんが始めた創業46年の「下窪勲製茶」(鹿児島県南九州市)の職員として働いている。1年のうち、4カ月以上は出張で、関東、福岡などのデパートで店頭販売をしている。

「(戦力外通告をされた選手は)次のことはすぐには考えられない。でも、どこかで区切りをつけなければいけない。若ければ、社会人とか独立リーグに行けるが、30を超えた人間がずっと野球を続けていくことはできない。人生の岐路でタイミングを間違ってはいけない」

   NPBのデータでは、昨年、プロ野球界から去っていった30%近くの選手が野球以外の職に就いている。ただ、下窪さんは、新たな職を見つけられた選手は幸せだという。

「自分は父に会社に入らないかと誘ってもらい幸せでした。ここでもう一花咲かせる覚悟です。だけど皆が皆、希望する職に就けるわけではない。これからセカンドキャリアをスタートさせる選手には、一日でも早く次の道を見つけてほしい。何もなく、ボーっとしている時間が一番辛いから。プロでやってこれたのだから、どんな仕事でもやれると思います」

   戦力外通告から8年、39歳の下窪さんが後輩たちに熱いエールを送った。

(J-CASTニュース編集部 木村直樹)