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羽生結弦はなぜ、リンクに上がり続けるのか 負傷と戦う王者の胸の内

   フィギュアスケートGPシリーズ第5戦ロシア杯で優勝した羽生結弦(ANA)が、2018年12月6日開幕のGPファイナル(バンクーバー)出場への意欲を示した。11月18日、日本スケート連盟を通じてコメントを発表。また、同時に診断結果が発表され、前下脛腓靱帯(じんたい)損傷、三角靱帯損傷、腓骨筋腱損傷の疑いで、医師から「3週間の安静」を言い渡された。

   フリーへ向けての練習中に、4回転ループで転倒して右足首を負傷。チームドクターの触診による診断は出たものの、精密検査を行っておらず完治までかかる期間などは不透明な状況にある。松葉づえ姿で表彰式に臨んだ羽生は笑顔を絶やさなかったが、その姿は実に痛々しいものだった。

   12月6日にはカナダでGPファイナルが開催され、12月20日には全日本選手権が控えている。いまだ右足首の腫れが引かず、エキジビションを辞退したほどだが、羽生本人は「気持ちはファイナルに向け、全力で治療します」とコメントを発表し、出場へ意欲を見せた。

   チームドクターによる診断結果は決して軽いものではない。GPファイナルはもとより、全本選手権に「強行出場」した場合、右足首にかかる負担は大きく、その代償は小さくはないだろう。ともすれば選手生命さえも脅かしかねない。

   羽生の決意表明にネットでは「無理をしないで」の声が殺到している。

  • 羽生結弦選手(2018年2月撮影)
    羽生結弦選手(2018年2月撮影)
  • 羽生結弦選手(2018年2月撮影)

「無理はせず、できる範囲で治療に専念してほしいです。」

「しっかり治して再起してください」
「年内は、きちんと治療に専念させるべきだと思う」
「悪化するぞやめろって...」
「無理はせず、できる範囲で治療に専念してほしいです。」

   ファンの声を振り切るようにGPファイナル出場へ意欲を見せるが、羽生のフィギュアスケート人生は常に挑戦の連続でもある。

   2014年ソチ五輪で日本男子初の金メダルを獲得した。近年のフィギュアスケート界の通例からすれば、五輪で金メダルを獲得した時点でアマチュアのキャリアを終え、プロへと転向する。2010年バンクーバー五輪で復帰したエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)は異例のケースで、これを除けばほぼプロの道へ進んでいる。

   羽生がかつて自身にとって一番必要なことは「進化し続けること」と話していた。また、羽生にとって強い人間とは、どのような環境にいようとも関係なく、自分を作り出せる人間であり、それを作り出せない自分は弱い人間であるとも語っていた。

   五輪金メダリストとして臨んだ2014-2015シーズン初戦の中国杯では、フリースケーティング前の6分間練習で、中国の閻涵選手と衝突。頭部から出血し、出場が危ぶまれたが、頭部と顎にテーピングと包帯を施してリンクに上がった。

   演技終了後に、頭部を3針、顎を7針縫合し、精密検査の結果、頭部挫創、下顎挫創、腹部挫傷、左大腿挫傷、右足関節捻挫で全治2週間から3週間と診断を受けた。この時も、次戦のHNK杯の出場の可否で大きく揺れたが羽生が下した決断は「出場」だった。

「もう乗り越えようとしないです」

   そんな羽生も全日本選手権はここ2年、連続で欠場している。16年はインフルエンザ、昨年は右足首の負傷により欠場した。羽生は全日本選手権を、五輪、世界選手権と異なった意味で「特別な大会」と称する。「全力で治療します」の言葉は、GPファイナルだけではなく、全日本選手権にも向けられているのだろう。

   進化し続けるためにリンクに立ち続ける。GPファイナルへの「強行出場」は決して強がりでも、王者のプライドでもないのだろう。苦境を前にした時の心境を、羽生はかつて次のように語っていた。

「もう乗り越えようとしないです。つらいものはつらい、認めちゃう。つらいからもうやりたくないんだったら、やめればいいし。それでいいと思ってます、僕は」

   23歳の王者はもはや悟りの境地に達しているのかもしれない。