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東芝、選択と集中見えないNextプラン 物足りなさを生んだ「6000億円」

   東芝が発表した再建計画「東芝Nextプラン」の評判がいささか「微妙」だ。

   事業の「選択と集中」が不十分、収益目標が「背伸び」しているのでは――こうした声が上がる背景には、東芝特有の事情があるとの見方も出ている。

  • 東芝再生の行方は(画像はイメージです)
    東芝再生の行方は(画像はイメージです)
  • 東芝再生の行方は(画像はイメージです)

インフラ、IoTは競争激しく

   2024年3月期までの5カ年の経営再建計画「東芝Nextプラン」は、最終年度の営業利益を2019年3月期見通しの6倍超の4000億円に伸ばす目標を掲げた。損失リスクがある海外事業からの撤退とグループ全体の約5%にあたる7000人の人員削減も盛り込んだ。だが、成長の柱と位置付けるインフラ分野、モノのインターネット(IoT)を利用したサービスなどは競争も激しく、目標達成の道筋は不透明だ。

   11月8日発表したこのプランは、リストラ策と成長戦略が両輪で、リストラでは、「負の遺産」ともいえるリスクを抱えた事業の整理と人員減を含むコスト削減が二本柱になる。

   事業整理では最大1兆円の損失リスクがあるとされた米国の液化天然ガス(LNG)事業を上海証券取引所上場の中国・民間ガス大手、ENNエコロジカルホールディングスに売却する。と言っても、約930億円を支払い、引き取ってもらうものだ。英国で原発を新設する計画だった電力子会社「ニュージェネレーション」は売却先が決まらず、清算して150億円の損失を計上する。

   人員は5年間でグループの従業員の5%にあたる7000人を減らすとして、年内にも本社とエネルギー関連設備、デジタル技術の各子会社で計1060人の早期退職を募集する。他の子会社でも合わせて300~400人の募集を検討する。このほか、赤字が続くエネルギー関連分野などを候補に生産拠点を減らし、部品などの調達費を約3%引き下げるなども盛り込んだ。

「かなり背伸びした数字」(大手紙経済部デスク)

   一方、成長戦略として、これまで稼ぎ頭だった半導体メモリー事業を売却した後の柱と位置づけるのが、エレベーターや鉄道部品といったインフラ事業で、5年後に全社で4000億円の営業利益を目指すうち、4割を稼ぐ考えだ。インフラ事業に含まれるリチウムイオン2次電池では新工場を建設し、鉄道用や車載用への販売を拡大する。同電池と、パワー(電力制御)系電子部品、がん検知など精密医療技術の3事業を新規成長事業に位置づけた。

   出遅れていた再生可能エネルギー発電事業や、空調の製造拠点整備なども進める。火力発電所設備など不振の事業も撤退せず、人工知能(AI)やIT関連技術を活用して保守や点検などのサービスで稼ぐモデルへの転換をめざす。

   これまで「半導体メモリー事業に多額の投資をして他の分野に投資ができていなかった」(車谷暢昭会長兼最高経営責任者=CEO)が、今回のプラン期間中、全社で設備投資と研究開発に計1兆7000億円強を投じるとした。

   こうした施策を通じて、2019年3月期の見通しで3兆6000億円の売上高と1%台の売上高営業利益率を、2022年3月期に3兆7000億円と6%以上に引き上げ、さらに計画の最終年度の2024年3月期は4兆円と10%を目指すとしている。

   だが、今回のプランでは事業の「選択と集中」には踏み込まなかった。いまある22の事業領域は、そのまま残し、それぞれで稼ぐ力を引き上げるとしたが、事業ごとの収益目標も示さないなど、物足りなさが残る。

   リチウムイオン電池など新規成長事業は他メーカーも力を入れ、競争は激しい分野。インフラとITを組み合わせて稼ぐ戦略も、国内外の同業大手も取り組むが、世界でも成功しているのは独シーメンスぐらいとされる。このため、収益目標も「かなり背伸びした数字」(大手紙経済部デスク)との指摘もある。

ファンドに「手放してもらう」こと狙うも...

   それもそのはず。東芝は1年前、半導体メモリー事業売却が間に合わずに債務超過に陥るのを避けるため、海外のファンドを中心に6000億円の大型増資を実施した。こうした「物言う株主」の期待に応えるためには、高収益を謳う必要があったということだ。

   東芝は、今回のプラン発表に連動して7000億円規模の自社株買い実施を発表。13日の取引開始前の立会外取引で、1株3635円で3323万株を買い付けたが、買い付け額は1200億円と、予定の17%にとどまった。増資後に半導体メモリー事業売却も実現し、手元資金が積みあがったことから、海外ファンドなどから株主還元として求められていたものだった。肝心のファンドが、まだ株価上昇の余地があると判断して手放さなかったと見られている。「自社株買いでファンドに『出て行ってもらう』ことで、経営への圧力を減らす狙いだった」(同)とも言われるが、いまのところ期待外れというところだ。

   東芝は2019年11月まで自社株買いを継続して目標額を買い切る方針だが、今回のプランを実施に移しながら、ファンドとの神経戦が続くことになる。