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稀勢の里が受けた「激励」の意味 横審決議の持つ重さ

   日本相撲協会の諮問機関、横綱審議委員会(横審)は2018年11月26日、福岡市内で定例会を行い、九州場所5日目から途中休場した横綱稀勢の里(田子ノ浦)に対して満場一致で「激励」を決議した。

   横審は来年初場所(2019年1月13日初日・両国国技館)への出場を勧告しており、稀勢の里が初場所を休場すれば引退勧告を行う可能性も出てきた。

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ある種「最後通告」の意味合いも

   横審は成績不振の横綱に対し段階的に「激励、注意、引退勧告」などができるとされている。横審の内規第5条には「横綱が次の各項に該当する場合、横綱審議委員会はその実態をよく調査して、出席委員の3分の2以上の決議により激励、注意、引退勧告等をなす」と明文化されている。

   内規によると、該当理由として以下が挙げられている。

(イ)休場が多い場合。ただし休場する時でも、そのけが、病気の内容によっては審議の上、再起の可能性を認めて治療に専念させることがある
(ロ)横綱として体面を汚す場合
(ハ)横綱として不成績であり、その位にたえないと認めた場合となっている。なお、勧告に強制力はない。

   今回、横審が決議したのは最も程度の低い「激励」である。広辞苑によると、「激励」とは「はげまして気を引き立たせること。」とある。だが、横審による「激励」とは通常の「激励」とは、明らかにその言葉の重さが異なる。

   実際、内規に基づく決議をすること自体、異例のことである。段階こそ「激励、注意、引退勧告」とあり、言葉の意味に曖昧さはあるものの、横審が決議を実施したという事実は重く、ある種、最後通告の意味合いが含まれるといっても過言ではないだろう。

成績不振による決議実施、そもそも異例

   横審は過去、横綱朝汐(後の朝潮)を「激励」したことがある。3場所連続で休場していた朝汐に対して、59年九州場所後に翌年の初場所に出場するよう激励することを決定。後日、時津風理事長(元横綱・双葉山)を通じて奮起を促すことになった。また、99年秋場所で7勝8敗と負け越した3代目横綱若乃花を横審が呼び出して休場を勧告。横綱が初めて委員会に呼び出される異例の形での勧告だった。

   横審が横綱に自主的な引退を勧告したケースもあった。7場所連続で休場した横綱貴乃花に対して、当時の委員長だった渡辺恒雄氏は翌場所の出場を厳命した上で、「責任をまっとうする自信がなければ自ら決してくれということ」と異例の勧告を行った。

   事実上の引退勧告でもあった貴乃花の場合においても、横審の決議が行われることはなかった。過去の歴史において横審は横綱の自主性を重んじ、その言動を極力、尊重してきた。10年の初場所中に暴行騒動を起こした横綱朝青龍のように「横綱としてあるまじき行為」による決議、引退勧告のケースはあるが、今回のように成績不振による決議実施は異例のことである。

若乃花、貴乃花ともに「勧告」から3場所後に引退

   稀勢の里は昨年夏場所から8場所連続で休場し、今年秋場所で復帰して10勝を挙げた。完全復活を目指した九州場所では初日から4連敗を喫して5日目から休場に追いやられた。師匠の田子ノ浦親方(元幕内隆の鶴)は稀勢の里の途中休場が決まった当初、「次に出る場所は大切になる。そんな簡単に(初場所出場とは)いえない」と初場所の出場に慎重な姿勢を見せていたが、北村正任委員長は「来場所での再起に期待する」と話しており、もう猶予はない。

   かつて横審から休場勧告を受けた若乃花は、勧告後、3場所で引退している。貴乃花は勧告を受けた場所では12勝3敗で復活を果たしたものの、その後、ケガが回復することなく、若乃花同様に3場所後に引退した。

   九州場所では22歳の小結・貴景勝が初優勝を果たし、角界には確実に世代交代の大きな波が押し寄せている。来年、33歳を迎える稀勢の里。初場所では横綱にふさわしい成績と優勝争いが求められ、12勝以上が目安となるだろう。ただ、この責務は初場所に限ったことではなく、横綱である限り常に求められる。