J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

あの「地域振興券」よりも役立たず? プレミアム商品券の評判が悪すぎる理由

   結局、誰が得するの?

   2019年10月の消費税率引き上げに備えた経済対策として、購入金額に一定額を上乗せした「プレミアム商品券」が発行される見通しになった。だが、過去に発行された同様の商品券では、消費の押し上げ効果は限定的だったと分析され、今回も「バラマキ」批判が根強い。

  • 政権が推進するプレミアム商品券だが…(2017年9月撮影)
    政権が推進するプレミアム商品券だが…(2017年9月撮影)
  • 政権が推進するプレミアム商品券だが…(2017年9月撮影)

ポイント還元も軽減税率も「微妙」なのに

   プレミアム商品券は、今のところ、2万円で購入した券で2万5000円の買い物ができるものが想定されている。この上乗せ分の5000円を公費で負担する仕組みだ。真新しい施策ではないが、今回の税率引き上げの経済・国民生活への影響の軽減の一環で浮上した。

   消費税対策には大きく分けて二つある。増税を挟んで前後の「駆け込み需要」とその「反動減」という消費の急変動をならす方策と、所得が少ない人ほど負担が重くなるという消費税が持つ「逆進性」を和らげる施策だ。

   前者の代表が、中小小売店での増税分のポイント還元で、消費者が商店街などでクレジットカードやスマホなどキャッシュレス(現金以外)で買い物をすると、ポイントがつく仕組みが想定されている。還元ポイントは、今回の増税分の2%を上回る5%を検討する考えを安倍晋三首相が表明している。

   「逆進性」対策は、所得の少ない年金生活者などへの「給付金」(月額5000円、対象690万人)がすでに決定済み。全体の消費税率が10%になる中で食料品などの税率を8%に据え置く「軽減税率」は、「必需品は金持ちも貧しい人も必要」との理屈で逆進性緩和策と位置付けられるが、軽減税率による税収減や徴税コストのために低所得への分配が減らされ、結果として貧困層が損をするとの批判もある。

   ポイントについては、「消費税対策の名を借りて、キャッシュレスを促進するのが大きな狙い」(大手紙経済部デスク)との指摘もあり、現実にクレジットカードなどを使わない高齢者などの弱者には恩恵が及ばないとの批判も強い。

公明党に「忖度」した商品券

   こうしたアイデアが様々に議論になる中、弱者対策の決定版ともいえる形で浮上したのがプレミアム商品券だ。旗を振ったのは公明党。山口那津男代表が10月末の参院本会議で、「バラマキを避け、効果の高い」弱者対策として発行を求め、安倍首相も「検討する」と応じた。

   その後の与党内での議論を通じて、概ね、制度設計が固まってきた。ベースになるのが、公明党が11月16日にまとめた消費税対策の「提言」。金額は当初から言われていた「2万円で2万5000円分」。対象は、住民税非課税世帯(年収約260万円未満)に加え、「2歳以下の子供を持つ世帯」にも広げた。消費税率引き上げの増収分の一部を使って実施する「幼児教育・保育の無償化」では3~5歳児を持つ世帯はすべて対象なのに対し、0~2歳児を持つ世帯は住民税非課税の低所得層に限られることから、その「隙間」を埋めるものとして、0~2歳児を持つ世帯をプレミアム商品券の対象に加えるという理屈だ。

   「バラマキを避け」――とはいえ、こうした消費税率引き上げ対策には、バラマキ批判が当然起きるところ。日経は11月23日に「『消費増税対策』の名のバラマキは避けよ」と題した社説を掲載し、「(ポイント還元は)クレジットカードを持たない高齢者や低所得者に不公平との声が出て、プレミアム付き商品券を発行する案も浮上している。これではキャッシュレス化を推進する効果は薄れてしまう。消費増税をしても、その対策と称してどんどん財政支出を増やせば、増税の意味はなくなる。消費税の増収分は、増加を続ける社会保障費と財政健全化に充てるべきだ。消費増税対策に名を借りたバラマキになってはならない」とけん制しているが、大手紙の多くが同様の論調だ。

過去の類似施策も効果今一つ

   毎日の社説(10月29日)は「懸念されるのは、低所得者向けに、購入額以上の買い物ができるプレミアム付き商品券の発行を検討していることである。2014年の消費増税後にも行ったが、効果は乏しかった。非効率な財政出動を繰り返すのだろうか」と書くように、効果にも疑問符が付く。

   これまで、多くの同様の商品券などの給付をしてきた。(1)バブル崩壊後の不況が続いていた1999年、子育て世帯や高齢者に2万円分の商品券「地域振興券」、(2)リーマン・ショック翌年の2009年に全世帯対象の「定額給付金」、そして直近では(3)2014年の消費税率が5%から8%へのアップをうけ2015年に「プレミアム商品券」――といった具合だ。その効果はというと、(1)は振興券約6000億円を投じ、消費の押し上げ効果は約2000億円、(2)の給付金は約1.9兆円を配り、効果は約6000億円と、いずれも国の支出の3割程度(効果の推計は内閣府、総務省など)。

   さらに、今回と類似する(3)は、国が地方に配る交付金を元に平均23%の上乗せをした商品券や旅行券が各地で発行され、9511億円分が使われたが、内閣府の推計でも、実質的な消費を喚起した効果は1019億円と、政府が予算計上した2500億円の半分以下にとどまった。この数字にしても、「いずれ買おうと思っていたものを、給付金や商品券を得たために前倒しして買ったようなケースも多く、そういう需要の先取りを除く本当の消費喚起効果はもっと少ない」(エコノミスト)との指摘もある。みずほ総合研究所は2015年、こうした影響を勘案し、プレミアム商品券の押し上げ効果は約640億円にとどまるとの試算を発表している。

   税率引き上げに合わせて、プレミアム商品券の発行は確実だが、今回の効果はどうなるのだろか。