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ゆうちょ銀行「強行突破」の思惑 貯金限度額引き上げの「先」にあるものとは

   全国2万4000を超える郵便局で預けられる、ゆうちょ銀行の郵便貯金の預入限度額が現行の2倍となる2600万円に引き上げられる。有識者で構成される郵政民営化委員会が2018年12月26日にまとめた提言に基づき、政府が政令を改正。19年4月の実施を目指すという。

   ただ、全国銀行協会や全国信用金庫協会などの民間金融機関が、これに猛反発。ゆうちょ銀行の「強行突破」への不満は募るばかりだ。その一方で、「なぜ、今なのか」「なぜ、急ぐのか」、はっきりしないことも少なくない。

  • 郵便貯金の預入限度額が引き上げられる
    郵便貯金の預入限度額が引き上げられる
  • 郵便貯金の預入限度額が引き上げられる

「民業圧迫だ」嘆く関係者

   現在のゆうちょ銀行の貯金限度額は、利用者1人当たり、通常貯金(銀行の普通預金にあたる)と定期性貯金の合計で1300万円。これを通常貯金と定期性貯金に分離して、それぞれ1300万円とする。合計で2600万円まで、預け入れが可能になる。

   ゆうちょ銀行にとって貯金限度額の引き上げは、かつては「悲願」とまでいわれてきたが、現行の1300万円には2016年4月に引き上げられたばかり。しかも、今回は「倍増」ということで、民間金融機関の反発は「半端ない」。

   民間金融機関側からは、限度額の引き上げの「条件」として、ゆうちょ銀行の完全民営化の促進を求めていたが、これも「無視」された。

   ちなみに、ゆうちょ銀行株は実質的には政府が保有している(政府は親会社の日本郵政株を63%保有)。郵政民営化法では、日本郵政はゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式をすべて売ることを目指すとされているが、進んでいない。

   ある地方銀行の幹部は、

「昔から地方ほど郵便局の力は強い。限度額が倍になれば、『政府保証』の看板のもと、ニューマネー(新規の預金)がゆうちょに流れるのは必至で、民業圧迫だ」

   と、訴える。

   そんな「反対」の声を、郵政民営化委員会の判断は「利用者利便の向上が必要」と、一蹴した。

ゆうちょ銀行は「第2の日銀」か?

   ゆうちょ銀行の親会社である日本郵政の長門正貢社長は2018年12月27日の記者会見で、貯金限度額の引き上げについて、「もっと貯金を集めたいとは一度も言ったことはない」と語ったうえで、民間金融機関などが懸念する資金の急速な流入は起こらないとの考えを示した。まるで、「ゆうちょ側が求めたわけではない」とでも言いそうな気配すら感じられる。

   たしかに、銀行や信用金庫はマイナス金利の影響もあり、資金運用に腐心している。貸出先も潤沢とは言い難い。それも、地方の金融機関ほど経営が難しくなっている。

   そもそも、ゆうちょ銀行は法人融資を行っていない。融資が認められているのは、個人ローンの一部だけ。ここにも「民業圧迫」の声はあるが、金融庁がゆうちょ銀行の審査能力への不安などを理由に突っぱねていることもある。

   その一方で、わずかとはいえ貯金している人には利息を払わなければならない。貯金限度額の引き上げは、自身のクビを締めることにもなりかねないわけだ。

   では、「今、なぜ引上げなのか」――。別の地方銀行の幹部が、こう解説する。

「政府も、おそらく日銀も、そろそろ金融緩和の出口を手当しなければマズイという空気になっているのでしょう。日銀が保有する株式や投資信託、国債をどうしていくのか、考える必要があります。これまで(マイナス金利以前)も、そして今後もゆうちょは、民間金融機関とともに国債の大口の引き受け手であってほしいことに変わりはない。株式や投信もそうです。これなら、(限度額の引き上げを)急ぐ理由もわからないではありません」

   つまり、ゆうちょ銀行には「第2の日銀」としての役割が、待っているということか――。